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インランドタイパン・サイガの刺青
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彼等には刻まれていたという。おぞましい魔獣の刺青が…。
「インランドタイパンの刺青」
「サイガの刺青」
―紫の谷―
そこは、「紫の谷」と呼ばれていた。
その谷の出入口には、集落があった。
その集落の先には、谷底へと降りていく為の「長い梯子」があり、
それが途中で切り落とされ、ゆらゆらと垂れ下がっていた。
そしてその長い梯子を飛び降りて、次に見えてくるのは、谷底に突き落とされた無数の死体と、紫の霧に覆われた、ふたつめの集落、
次の標的たちが、囚われた地だった。
―サイガの医師たち―
次の標的たちは、この集落に押し込められ、正気を失った者たち。
「サイガの医師たち」だった。
その角が漢方薬になるといわれ、乱獲された獣の名を受け継ぐ彼等は、
医師としての才能があり、
病魔に蝕まれた様々な国を救うという、素晴らしい経歴を持っていた。
だがその手段は、多種多様で、
時には、その病魔への抗体を持つ身体で、その病魔に蝕まれた者たちを
その病魔ごと「殺す」こともあった。
この非道な行いで、滅びかけた国は確かに救われるが、
病魔に蝕まれた者たちは、決して救われなかった。
だから彼等はその家族の怒りを受け、
やがて、重い罰を受けた。
それは、とある女の恐ろしい復讐だった。
―毒素の女神像―
ある女がいた。
家族をサイガの医師たちに殺された
「不運な女」だった。
女は、サイガの医師たちを殺そうと必死だった。
だが、どんな呪いも、どんな毒殺も、
抗体の強い彼等には効かなかった。
だから女は、最期の手段に出た。
「自らの手で殺してやる」
女は、毒を塗りたくったナイフを隠し持ち、彼等の住む集落に向かった。
抗体を持つ厄介な身体ならば、その抗体ごと殺してしまえばいいと思ったのだ。
だが、集落の前まで来ると、女は怖じ気付いたのか、立ち止まり呟いた。
「本当にこれでいいの、家族は殺されたけど、だからって殺していいの?」
女は、自分に問い掛けて、迷っていた。
そんな女の肩を押した者がいた。
「黒いローブの男」だった。
「毒素の女神像よ、家族の仇を取りたくないのか、お前だけが生き残って幸せだったのか、愚かな人間たちを殺せるのは、愚かな人間だけだ、、逝け、その身を犠牲にして、病魔よりも恐ろしいものを滅するのだ」
女は、黒いローブの男から「分厚い本」を受け取った。
そして開いた。
そこには「インランドタイパンの刺青」と黒文字で書かれていた…。
―その身を犠牲にして―
女は、集落の中心で声を聞いた。
【復讐に飾られる毒素の女神像よ、決心がついたのならば、その毒のナイフを彼等にではなく、自分の首に突き刺し、その行いを彼等に見せつけるのだ、なに、恐れることはない、彼等とは異なる抗体を持つお前の身体ならば、簡単に死ぬことはない、彼等を谷底へと誘い、谷底の最深部に向かうのだ、そこでお前の長き復讐は終わる、あとはその谷が、魅せてくれる】
女は、絶叫しながらも毒のナイフを自分の首もとに近付けると、その絶叫で呼び寄せた「サイガの医師たち」にその「行い」を見せて叫んだ。
「これがわたしの復讐よ、
さあ、毒に蝕まれたわたしを殺してみなさい」
女は、言葉巧みに彼等を挑発すると、集落の中を紫の血を吐きながら走り抜け、集落の先にある「長い梯子」を途中まで降り、そこから谷底へと飛び降りた。
愚かなサイガの医師たちは、この女に誘われている事にも気付かずに、長い梯子を途中で飛び降りると、最深部へと向かって走り続け、やがて、見えなくなってしまった。
これでサイガの医師の「二人」が消えた。
黒いローブの男は、長い梯子をなかなか降りない「臆病者のサイガの医師」を谷底へと突き落とすと、
弓矢を構えて冷たく、サイガの医師を見下ろした。
それを見上げたサイガの医師は泣き叫び、救いを求めたが、黒いローブの男は、ただこう言うだけだった。
「昨夜お前らに読ませた分厚い本に書いてあっただろう、毒素の女神像がお前らの罪に怒り、紫の谷に閉じ込め、罪を償わせる、と」
黒いローブの男は、そう言うと、長い梯子に火矢を撃ち込み、黙って去っていった。
―最期のサイガ―
残されたサイガの医師は、燃える長い梯子を見上げると、もう諦めたのか、折れた脚を引きずりながらも、他のサイガの医師たちが向かったと思われる最深部へと向かって動き出した。
そして、最深部から流れてくる紫の霧に身体を包まれながら、あの声を聞いた。
【多種の命を救う為に生まれた者たちよ、道をそれたお前たちに出入口というものは存在しない、医師に死を宣告された彼等の悲痛な叫びを耳にしながら、毒素の女神像のしもべとなり、永久に生きよ、お前たち自身が病魔となるのだ】
サイガの医師たちは絶叫した。
その全身に「サイガの刺青」を浮かび上がらせて…。
―病魔が蔓延る紫の谷―
病魔が蔓延る紫の谷、
その紫の谷には、
「毒素の女神像」と呼ばれる女が支配する不気味なふたつの集落と、
紫の聖域が存在する。
毒素の女神像は、その紫の聖域で、病魔たちが谷底へと連れてきた「人間たち」を飼い慣らし、
時にそれを体内に閉じ込め、毒霧を生み出し、その毒霧から生まれた幻覚の家族を愛し続けているという…。
そんな女の片方の頬には、
毒素に飾られる蛇の女神、
「インランドタイパンの刺青」が、
涙の痕のように刻まれているという…。
「インランドタイパンの刺青」
「サイガの刺青」
―紫の谷―
そこは、「紫の谷」と呼ばれていた。
その谷の出入口には、集落があった。
その集落の先には、谷底へと降りていく為の「長い梯子」があり、
それが途中で切り落とされ、ゆらゆらと垂れ下がっていた。
そしてその長い梯子を飛び降りて、次に見えてくるのは、谷底に突き落とされた無数の死体と、紫の霧に覆われた、ふたつめの集落、
次の標的たちが、囚われた地だった。
―サイガの医師たち―
次の標的たちは、この集落に押し込められ、正気を失った者たち。
「サイガの医師たち」だった。
その角が漢方薬になるといわれ、乱獲された獣の名を受け継ぐ彼等は、
医師としての才能があり、
病魔に蝕まれた様々な国を救うという、素晴らしい経歴を持っていた。
だがその手段は、多種多様で、
時には、その病魔への抗体を持つ身体で、その病魔に蝕まれた者たちを
その病魔ごと「殺す」こともあった。
この非道な行いで、滅びかけた国は確かに救われるが、
病魔に蝕まれた者たちは、決して救われなかった。
だから彼等はその家族の怒りを受け、
やがて、重い罰を受けた。
それは、とある女の恐ろしい復讐だった。
―毒素の女神像―
ある女がいた。
家族をサイガの医師たちに殺された
「不運な女」だった。
女は、サイガの医師たちを殺そうと必死だった。
だが、どんな呪いも、どんな毒殺も、
抗体の強い彼等には効かなかった。
だから女は、最期の手段に出た。
「自らの手で殺してやる」
女は、毒を塗りたくったナイフを隠し持ち、彼等の住む集落に向かった。
抗体を持つ厄介な身体ならば、その抗体ごと殺してしまえばいいと思ったのだ。
だが、集落の前まで来ると、女は怖じ気付いたのか、立ち止まり呟いた。
「本当にこれでいいの、家族は殺されたけど、だからって殺していいの?」
女は、自分に問い掛けて、迷っていた。
そんな女の肩を押した者がいた。
「黒いローブの男」だった。
「毒素の女神像よ、家族の仇を取りたくないのか、お前だけが生き残って幸せだったのか、愚かな人間たちを殺せるのは、愚かな人間だけだ、、逝け、その身を犠牲にして、病魔よりも恐ろしいものを滅するのだ」
女は、黒いローブの男から「分厚い本」を受け取った。
そして開いた。
そこには「インランドタイパンの刺青」と黒文字で書かれていた…。
―その身を犠牲にして―
女は、集落の中心で声を聞いた。
【復讐に飾られる毒素の女神像よ、決心がついたのならば、その毒のナイフを彼等にではなく、自分の首に突き刺し、その行いを彼等に見せつけるのだ、なに、恐れることはない、彼等とは異なる抗体を持つお前の身体ならば、簡単に死ぬことはない、彼等を谷底へと誘い、谷底の最深部に向かうのだ、そこでお前の長き復讐は終わる、あとはその谷が、魅せてくれる】
女は、絶叫しながらも毒のナイフを自分の首もとに近付けると、その絶叫で呼び寄せた「サイガの医師たち」にその「行い」を見せて叫んだ。
「これがわたしの復讐よ、
さあ、毒に蝕まれたわたしを殺してみなさい」
女は、言葉巧みに彼等を挑発すると、集落の中を紫の血を吐きながら走り抜け、集落の先にある「長い梯子」を途中まで降り、そこから谷底へと飛び降りた。
愚かなサイガの医師たちは、この女に誘われている事にも気付かずに、長い梯子を途中で飛び降りると、最深部へと向かって走り続け、やがて、見えなくなってしまった。
これでサイガの医師の「二人」が消えた。
黒いローブの男は、長い梯子をなかなか降りない「臆病者のサイガの医師」を谷底へと突き落とすと、
弓矢を構えて冷たく、サイガの医師を見下ろした。
それを見上げたサイガの医師は泣き叫び、救いを求めたが、黒いローブの男は、ただこう言うだけだった。
「昨夜お前らに読ませた分厚い本に書いてあっただろう、毒素の女神像がお前らの罪に怒り、紫の谷に閉じ込め、罪を償わせる、と」
黒いローブの男は、そう言うと、長い梯子に火矢を撃ち込み、黙って去っていった。
―最期のサイガ―
残されたサイガの医師は、燃える長い梯子を見上げると、もう諦めたのか、折れた脚を引きずりながらも、他のサイガの医師たちが向かったと思われる最深部へと向かって動き出した。
そして、最深部から流れてくる紫の霧に身体を包まれながら、あの声を聞いた。
【多種の命を救う為に生まれた者たちよ、道をそれたお前たちに出入口というものは存在しない、医師に死を宣告された彼等の悲痛な叫びを耳にしながら、毒素の女神像のしもべとなり、永久に生きよ、お前たち自身が病魔となるのだ】
サイガの医師たちは絶叫した。
その全身に「サイガの刺青」を浮かび上がらせて…。
―病魔が蔓延る紫の谷―
病魔が蔓延る紫の谷、
その紫の谷には、
「毒素の女神像」と呼ばれる女が支配する不気味なふたつの集落と、
紫の聖域が存在する。
毒素の女神像は、その紫の聖域で、病魔たちが谷底へと連れてきた「人間たち」を飼い慣らし、
時にそれを体内に閉じ込め、毒霧を生み出し、その毒霧から生まれた幻覚の家族を愛し続けているという…。
そんな女の片方の頬には、
毒素に飾られる蛇の女神、
「インランドタイパンの刺青」が、
涙の痕のように刻まれているという…。
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