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オオアリクイの刺青

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彼等には刻まれていたという。おぞましい魔獣の刺青が……。

「オオアリクイの刺青」

ある地域で、人々を悩ませるものが大量発生した。

それは「盗賊団」と呼ばれるものだった。

その盗賊団は、ボスの命令で活動し、それぞれの役割を理解しながら、餌を狩り、巣穴へ運んだ。

どんなに強大な相手でも軍団で襲い掛かり、息の根を止めた。

それはまるで昆虫に群がる「蟻」のようだったという。

人々は、その盗賊団を「蟻帝国」と名付け、恐れていた。

―蟻帝国―

蟻帝国を束ねるのは、好き者の「一人の女」だった。

その女は特殊な身体の持ち主で、次々と子供を産むことが出来た。

だが、この女「好き者」である。

だから、男以外に興味は無かった。

息子が産まれると溺愛し、

娘が産まれると巣穴から追い出した。

その結果、夫だらけの大家族が誕生した。

―軍隊―

女は、自身を褒美にして、夫たちを働かせようとした。

だが、所詮は乳離れできない息子たち。

職につけたのは「たった一人」だけで、あとは盗賊になってしまった。

こうして産まれた盗賊団は人々の人生を奪い、更に陣地を拡げていった。

だが、ここで疑問が浮かぶ。

こんな阿呆ばかりの盗賊団が、何故、陣地を拡げていけたのか?

それは、ある人物にしか分からないことだった。

―黒い目印―

ある地域に、警告を知らせる手紙が届いた。

そこはまだ盗賊団の被害の受けていない地域で、盗賊団が狙いたい財宝で溢れていた。

その手紙にはこう書かれていたという。

その国は盗賊団が狙い、菓子の国となる、止めたければ根元を絶て、と。

その手紙を手渡してきたのは、ある王国の「騎士団長」だった。

騎士団長は他国を旅し、盗賊団の被害を最小限に抑えようと活動しているという。

地域の者たちは、この騎士団長と共に「蟻帝国の滅亡会議」を開いた。

そして、数日が経ち。

その地域は、盗賊団に簡単に奪われた。

騎士団長の指示通りに行動したのにだ…。

地域の者たちは無念を抱き、死んでいった。

騎士団長は、これ等を己のせいだと悔やみ続けたが、ただ悔やみ続けるだけで何も変わらなかった。

とても不幸な騎士団長。

誰もがそう思ったが、黒いローブの男だけは違った。

分厚い本は、あの騎士団長を選んでいる、

次の刺青は、蟻を長い舌で舐めとる「オオアリクイ」の刺青、

つまり、オオアリクイの刺青を刻む者は「蟻」ではない、

蟻に罪を犯させ、蟻を食らう者。

黒いローブの男は、オオアリクイの刺青を読み解き、ある人物に接触した。

それは、この物語で「好き者」と書かれていた、あの女だった。

黒いローブの男は、その女が好む息子のような男を演じ、その女と関係を持った上で「息子たちの存在」について訊いた。

「愛する息子たちの中で騎士団長になった者はいるか」

女は衣服をはだけさせたまま言った。

ええ、いるわ、その子のおかげで私たちは生かされているの、その子の役割は「目印」をつけて、私たちの仕事を手助けすること、見かけは騎士団長だから、誰も疑わない、

そう、私が産んだ中で最高の息子よ。

女は妖しく微笑した。

尻も軽い女は口も軽いなと、黒いローブの男はフッと笑い、女の髪を撫でた。

―黒い餌―

黒いローブの男は、己を餌にして最高の情報を手にした。

その情報を手にし向かった先は、やはり、財宝で溢れる地域だった。

黒いローブの男は、その地域の長に

「騎士団長の男がこれから来る、そいつは蟻帝国の黒幕だ、信じれば国を失う」と警告した。

長は、黒いローブの男を怪しんだ。

だが、後に現れた騎士団長を見て、黒いローブの男への疑いは消えた。

長は、黒いローブの男の指示通り、騎士団長に騙されたふりをし、騎士団長を会議に参加させた。

そこで長は、ある物語を読み上げる。

盗賊団を操り、国を食らう罪人騎士団長の物語を。

騎士団長は眼を見開いた。

そして耳なりのように響く、痛い声に絶叫した。

【軍隊蟻を操る、愚かな黒幕よ、悪の帝国を簡単に築けると思うな、尻軽女は口も軽いのだ、お前に似合う死に場所は、女たちが作り上げる性の楽園、花蛇の狩り場だ、今すぐに逃亡して向かうがよい、だが、忘れるな、お前はそこで気高き甲冑令嬢に踏み潰される、それは無惨な死にかたである】

騎士団長は絶叫しながら逃亡した。

長は、国を守ってくれた黒いローブの男に感謝した。

そして黒いローブの男の名を訊いてきた。

だが、黒いローブの男は何も答えず、分厚い本を両手に抱えると、無言で去っていった。

黒いローブの男は真っ赤な月を見上げ呟く。

「お前の物語は世に拡がっている、だから、安心しろ」と。

黒いローブの男の指示により逃亡した騎士団長は、後に甲冑令嬢と呼ばれる罪人によって、月の大鎌で葬られた。

その砕けた全身には、大群を操り、国を奪おうした「オオアリクイの刺青」が刻まれていたという……。

そして、盗賊団は滅亡していない。
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