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プレゼントをもらった子ども・ノロ

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「プレゼントをもらった子ども・ノロ」



ノロは、いつも三角のバースデー帽子に、鼻付きメガネをかけて「アハハ、アハハ」と両手を広げて笑っている子どもです。

いったい何が、そんなに面白いのでしょう。

今日は、商店街におでかけです。

でも、この商店街の人たちは、それぞれの理由があって、ノロのようには笑えていません。

もしかすると、誰かに笑わせてもらうのを待っているのかも。

ノロは、笑いの引き金役でした。

本屋の扉をチャリリンと鳴らして店の中に入ります。

そこには一人のお客さまがいます。

売れない作家が、売れっ子作家の本を、妬みながら読んでいます。

誰かが隣で本を落としても、その作家は見向きもせず、オーガのように怖い顔のままです。

次のページをめくる手もふるえています。

その隣で「アハハ」とノロの笑う声がします。

作家は、自分のことを笑われたと、一瞬ムッとしますが、ノロの姿を見て「プッ」と笑ってしまいます。

何故なら、バースデー帽子に鼻付きメガネをかけているからです。

よく見ると、読んでいる本も逆さま。

「プー!!アハハハハ!!」

作家は、笑い過ぎて、手から何かを落とし、妬んでいたことも忘れてしまいます。

ノロは、本に飽きたのか、本屋から出て行きました。

作家は、笑いながら、自分が落としたライターを拾います。

そして、ノロのことを思い出し、また腹を抱えて笑っていました。

ノロは、次々と商店街の人たちを笑わせていきます。

この辺りでまだ笑っていないのは、理髪店の店主と、お客さま。

ノロは、大きな窓ガラスに顔をブチュっとつけて、中を覗き込みます。

どちらも気が合わないのか、お客さまは、鏡の前の椅子に腰掛けて、眼をつむって不機嫌そう。

店主が、前髪の長さはどうされますか?と訊いても、口より手を動かせと、えらそうに指示。
店主は、苛立つ様子で髪を切っていました。

ノロは、「アハハ、アハハ」と両腕を元気よく振って、店に入ってきます。

二人の関係が悪くても、ズカズカとお客さまの映る鏡の前に立ち、変な顔で、あーうーと、お口の体操を始めます。

店主は、何だこの子はと顔をしかめ、笑い声に眼を覚ましたお客さまは、今にも怒り出しそうに、ウロウロと邪魔なノロを睨みます。

このお邪魔なお尻を蹴ってやろうかと、ノロのお尻を見た時、「プー」とオナラの音がします。

店主は笑いをこらえ、お客さまは眼を丸くします。

ノロは、振り返り、お客さまの方を指差し「アハハ、アハハ」

いや、オマエがオナラしたんだろと、力んで立ち上がった時です。

「ブッ」と大きな音がします。

これには店主も、吹き出します。

お客さまも、顔を真っ赤にして、大人しく座ります。

ノロは、笑いながら店から出て行き、店の中は静か。

そこにプーンと匂いがします。

ノロのくさい置き土産が充満。

これには店主も、お客さまも吹き出し、

「ブーッ!!!アハハハハ!!!!!」

店主は、お客さまに笑いながら寄りかかり、ハサミを持った手で、お客さまのお腹を叩いています。

二人とも仲良く、顔は真っ赤でした。

店を出ると、ベビーカーを押している母親がいます。

乗っている赤ちゃんは、泣いています。

泣かないでと、母親が哺乳瓶を手渡すと、小さく柔らかい手で握り、チュパチュパと飲み始めます。

ノロは、喉が渇いたのか、それを取り上げて、赤ちゃんが泣く中、ゴクゴクと飲みます。

「まぁ、なんて子なの。」

母親がそう言うと、「ノロだよ」と自分の名前を言うのです。

これには母親も、不意をつかれてプッと笑ってしまいます。

「いや、名前を聞いているんじゃないのよ」

「いや、ノロだよと」笑いながら言います。

このやり取りが、芸人の掛け合いに見えて、しかも、よく見ると付け鼻の下から、ミルクがちょろっと出ているのです。

それでミルクを返したつもりなのでしょう。

これには、母親もベビーカーから手を離して、口を押さえて笑います。

「フー!!フフフフフ!!!」

赤ちゃんは泣いていません。

ノロは、うずくまって笑う母親を見て、また歩き出します。

すると、喫茶店からは、四人の女たちに囲まれた、プレイボーイが出てきます。

女たちに、甘いイチジクタルトをご馳走したのでしょう。

その顔は、生気を搾り取られたかのように青ざめています。

モテる男は、辛く、肩を落とし歩きます。

その隣を「アハハ、アハハ」とノロが笑いながら歩き、話しかけます。

「お兄さん、男前だね、こんなオバケみたいな、おばさんたちにモテるんだね」

女たちは、ノロのことを睨みます。

だけどノロはお構いなしに、ひとりひとりを指さし、笑いながら言います。

後ろから抱きついているのは、おかめ。

右腕を掴んで離さないのは、のっぺらぼう。

左手を繋ぐのは、太ったキノコ。

お兄さんの影を踏んでいるのは、オカマのひょっとこ。

プレイボーイは、それを聞いて想像し、呟きます。

確かに、この女は怒ると水風船のように膨らみ、こいつはメイクをしてもしなくても変わらなかった。

この女はよく食って、デカいオナラをし、さいごの女は・・・いや、女じゃなかったな。

「じゃあ、わたしはー」という、お尻を振るノロに、プレイボーイは「いや、関係ないだろう」と突っ込みを入れ、思わずその空気に笑います。

「ヒャーヒャヒャヒャ!!!」

もう笑いが止まらず、馬のポーズ。

ノロも女たちも、プレイボーイを置いて離れていきました。

歩いていると、頭の上で物音がします。

いつも、看板のズレを気にしている靴屋が、脚立の一番上に腰掛けて、靴の形をしている看板に対して怒りながら、しっくりとくる位置を探しています。

靴屋はグチグチと怒っています。

脚立の足下では「アハハ、アハハ」と、ノロが周りをグルグルと回りだします。

なんて邪魔な子どもでしょう。

靴屋は、看板を投げつけて、追い払ってやろうと思いますが、ノロの姿を見ていると、壊れたオモチャに見えてきます。

「アハハ、アハハ、イテッ!!」

突然、ノロが転びます。

お尻を上に突き出して、なんとも滑稽なポーズ。

そのお尻を見て、靴屋は思わず笑います。

ズボンが破れていて、パンツが見えているのです。

ノロは、バッと起き上がり、「アハハ、大切な帽子破れてないかな」と、また歩き出します。
靴屋は、破れているのはズボンの方だと大笑いします。

一度笑い出すと、ああ、もう止まらない。

脚立もガタガタと笑い出し、靴屋は大笑い。

周囲に大きな物音を響かせました。

どこからか、お花の甘い香りがします。

花屋です。

その二階の窓からは、優しそうな顔の、おばあさんが植木鉢の花に水を注いでいます。

ノロは、おばあさんを見つけて笑うと、いきなり踊り出しました。

手をパーにして、お尻も振って楽しそう。

おばあさんも、変な踊りにつられ、笑いながら踊ります。

したかったことも忘れ、良い運動。

ノロは、踊りながら、アハハと花屋を通り過ぎていきます。

「ホッホッホッ、ゆかいな子ね」

おばあさんは、笑いながら楽しく踊り、しまいには植木鉢を持ち上げて踊り出しました。

ノロの変な踊りを見ていたのは、おばあさんだけでは、ありません。

自転車で配達途中のお姉さんも、嫌々仕事をしていましたが、ノロを見て脇見運転。

「キャーッ!!アハハハハ!!!」と、楽しく笑いのブレーキもかけ忘れます。

ノロは、騒々しい物音がする中、薬屋に入っていきます。

「やぁ、いらっしゃい、ノロ」と、店主の声がします。

だけど、姿は見えません。

ノロは、カウンターの奥に見える、扉に向かって話します。

「プレゼントをみんなにあげてきたよ」

店主は、「良い子だね、みんなノロのように笑っていたかい」と訊きます。

ノロは、アハハと笑います。

「そこのテーブルに新しいプレゼントが置かれている、それを開けてごらん」

プレゼントのリボンを解き、開けると「ビョーン!!!!」と、びっくり。

中の煙がノロの顔にかかり、ピエロの首がバネで動いています。

ノロは、何故かそれを見て笑ってしまいます。

「プッ!!アハハ、アハハハハ」

「さぁ、今日はもうお帰り、そして沢山の人たちを笑わせてあげるんだ、笑っていれば、負の感情を忘れ、私が高笑いできるからね」

ノロは、笑いながら出て行きます。

来た道を戻り、事故で、止まりかけの自転車の車輪を見ます。

花屋の下では、脳天に花瓶を喰らった不幸なお客さまがいます。

靴屋の倒れたままの脚立は、主人に置いてきぼり。

オバケに取り憑かれたプレイボーイは、散歩をしている犬のリードをうつろに見つめ、

赤ちゃんがいないと泣き叫んでいる母親は、変人あつかい。

回転する真っ赤な光に何度も照らされる理髪店を通り過ぎると、

妬みの炎に焼かれた、こんがり本屋が見えます。

皆、笑っていたから、自分たちがプレゼントをもらったことに気付かなかったのでしょう。

ノロは、こんな時でも「アハハ、アハハ」と笑える、

しあわせな子どもでした。
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