ごめんなさい。俺の運命の恋人が超絶お怒りです。

しーぼっくす。

文字の大きさ
上 下
94 / 126

 第94話:もう一人の要注意人物

しおりを挟む
「お嬢ちゃん、ここになんか用かい?」


 …ウサギは絶対絶命の危機に直面していた。



ーー遡ること数時間前


 いつも通り家の掃除、洗濯、諸々の仕事と、マローネからもらった野菜の苗に水をあげ、そろそろ昼食にしようとリビングに向かうと、

「…書類?」

 ネロには全く理解出来ない内容の書類がテーブルに置いてある。そしてご丁寧に提出日の日付も記載されており…。

「今日…だな」

 何回確認しても本日提出日の書類。それが目の前にある。
 理解はできないが内容的にアルジェントのものであろう。

(…これも使用人の仕事だよね、うん)

 普段お世話になっているアルジェントの困り事を見逃すわけにはいかない。
 自分が生活できているのは誰のおかげだ?アルジェント(雇用主)だ!!


 ということで、先日教えてもらったアルジェントの職場にこうしてビビり散らかしながら来たわけで…それが冒頭である。

 アルジェントの職場はデート(仮)の時に絶対近づかないと心に誓ったはずが…フラグの回収がとても早いネロである。


「ひぇ…」

 アルジェントよりも逞しくガタイの良いクマ獣人を前に早くも帰りたい気持ちが強くなる。
 
 プルプルと震え涙目になったネロと、急に泣きそうになるウサギに困惑顔のクマ。とてもカオスな絵面である。

「あ、あの…、アルジェント・コルティの使用人で…。書類を届けに参りました…」
「おお!副隊長の使用人か!それは失礼した。…オッケーついて来い!」

 辿々たどたどしく必死に伝えるネロの声は果たしてちゃんと聞こえたのだろうか。「書類を受け取ってくれるだけで良いのですが…」と言いたくとも言えないチキンなネロは、仕方なくクマ獣人の後を追う。
 
(……ん?今、副隊長って言った?)

 ネロは噂話などにも疎いので知らなかったわけだが…ああ見えてアルジェントは警備隊の副隊長、剣も体術も優秀、侯爵家の三男、それでいて独身。

 クールな性格で女性からのアプローチに全く靡かないが、逆にそれがいい!と王都中の女性に人気のイケメンなのである。アルジェント目当てで街に出る女性も居るほどだ。



 警備隊の職場は殆どが王都の警備に出ているため人は少ないが、たまにすれ違う隊員に珍しいモノを見るような目で見られてしまい、ネロはタジタジである。

 しばらく歩いた後、立派なドアをノックしスタスタと部屋に入って行くクマ。
 「置いて行かないで!!」と泣きそうになりながら必死について行くウサギ。

「副隊長、お客さんですよ~」
「ん?」
 
 執務室らしいその部屋の奥、立派な椅子にアルジェントが座っている。
 そんなアルジェントはネロを視界に入れると吃驚する。

「ネロ!?どうしてこんな所に…な、なんで泣きそうに…  このクマに何かされたのか?」
「副隊長人聞き悪いですって…」

 なぜか泣きそうな顔のネロが職場にいるため、アルジェントはとても動揺する。

 一方で、とても心配した顔でネロを慰めている副隊長に対し、
 普段の鬼副隊長はどうしたんだ…とクマも動揺した。


「…そうか、書類を持って来てくれたのか。態々すまなかった。ありがとう、助かったよ」

 にこやかにお礼を言っているオオカミを見ながらクマは思う。これは誰だ…と。
 普段の何事にも容赦のない超絶無慈悲な鬼副隊長と同一人物なのか…と。
 あ、これ見てはいけないものだ…と察し瞬時に空気に徹する。

「お役に立ててよかったです…!」

 アルジェントの役に立てたのは嬉しいが執務室の異様な
 雰囲気(ほぼクマによる)を感じ、ネロは思う、もう早く帰りたいと。
 そしてネロは気づく、クマが虚無顔になっていることを。




「じゃあ気をつけて帰るんだぞ。今日は早めに帰れると思うから」
「はい、お仕事頑張ってください!」


 こうしてその後オオカミはご機嫌で仕事をし、
 クマは死にそうな顔をしていたのであった。
 
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください

今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。 しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。 ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。 しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。 最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。 一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

処理中です...