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第70話:恋という感情
しおりを挟むライツのぎこちない笑顔の胸の内は(マナがどうして俺以外の腕の中にいるんだ?)だった。
(冷静になれ、俺・・・・・・)
相手はナチェル。
女性同士が抱き合っていたからと嫉妬するのは違う。
相手が男ならすぐに引き離してやるが・・・・・・。
部屋の中にいた三人はライツへと視線を向けたまま固まったように体勢を崩さない。
(・・・・・・一体どういう状況なんだ?)
「マナ?」
ライツがもう一度呼びかけると、愛那はハッとしたように身じろいだ。
「ナチェルさん」
愛那に呼ばれたナチェルが腕の力を緩める。
しかし緩めただけで、愛那の体に触れたままナチェルはライツへ発言する。
「ライツ様。大変申し訳ありませんが、マナ様と二人きりでお話したいことがあるのです。少しだけ席を外してよろしいでしょうか?」
「え?」
驚いた愛那がそう声を漏らす。
「話? 二人きりで?」
(駄目だ。ここで正直に嫌だと言うのは、心が狭過ぎるだろう)
微笑みを浮かべたままライツは自分を戒める。
「はい。どうしても今、必要なことなのです」
真面目なナチェルの表情に、ライツは「わかった」と言って頷く。
「ありがとうございます」
ナチェルが軽く頭を下げ、愛那を促しながら立ち上がる。
そしてライツが見守る中、二人は並んでこの部屋を出て行った。
「・・・・・・・・・・・・」
(笑顔が引きつってますよ、ライツ様)
ライツの様子をずっと観察していたハリアスが心の中でツッコむ。
(しかし、神の定めた運命の恋人同士だというのに、なかなか面白い反応をされるものだ)
恋という感情に振り回されるライツなど、ハリアスは過去一度も見たことがない。
肩を揺らしてハリアスは忍び笑いを漏らした。
(本当に、リオルート様に報告するのが楽しみだな)
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