書きなぐり草子

砕田みつを

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半端者

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俺は何者でもない。
何者にもなれない。
吐く言葉も、書く文章も、是く生き様も全て。

この言葉もきっと俺のものではない。誰かと誰かの継ぎ接ぎ。

何者かになれたらよかった。善人でも、悪人でも、それ以外でも。

突飛な人間になれたらよかった。なんでもそつなくこなせる人間になれたらよかった。

そのどちらでもない。

怒りや不満、鬱憤の全てを芸術として昇華できる人間ならよかった。その何かにはきっと価値がある。
それがだめなら、その感情を何かにぶつけられたらよかった。壁に穴を開けたっていい、テレビを壊したっていい、鏡を割ったっていい。感情を確かに表出させられたなら、それでいい。

けど、どれもできなかった。

芸術的なセンスも、辿り着こうとする精神もなければ、何かにやつあたりできるような思いきりもなく、気味の悪い理性だけが、まとわりつく。鏡を割って、怪我したら危ないもんな?

くそが。

根性なしが。

くそったれだ。


いっそ、全てのしがらみから解放されたい。抜け出したい。
消えてしまえば、無くしてしまえば、楽になれると思った。

俺に死ぬ勇気はない。

自殺なんて、最も理解できない、愚かな行為だと思っていた。けれど、今の俺からすれば、自殺できる行動力のある人間は俺よりもっと良くできた確かな何者かではある。だからこそ、彼らが生きるべきだとは思うけど。

中途半端な理性と、中途半端な器。決して満たされることはない。満たされたとしても、その全体像がそもそも歪んでいて、不完全。

完全な、不完全体。

俺は俺のことをそう揶揄した。

これまでの人生のすべてが、この瞬間に否定され、水泡に帰した。どこまでもいけないし、どこまでいってもそれは道半ば。

自信を持てない、才能ある人間を見ると、君には才能があるんだから大丈夫。いつか報われる、と思う。

才能がない、が自信はある人間を見ると、失敗してもめげない君なら大丈夫。いつか成功する、と思う。

でも俺はどちらも持っちゃいない。いや、持っていたのかもしれない。けれど今はもうない。

火事場の馬鹿力とか逆境に燃える不屈の闘志とかそんなものがあればよかった。今すぐ用意できればまだよかった。

言葉を紡げば紡ぐほど、俺の現在地がわからなくなる。だってその言葉は俺のものではないから。

わかってる。
わかってる。

もとよりその人固有の言葉なんてないことは。

でも、欲しいんだ。
求めてしまうんだ。

俺の言葉を、俺の居場所を。

俺に残ってるのは言葉しかないから。

才能も思考も、全て中途半端な俺には唯一





いや、違うか。

思考も中途半端ならこの言葉も中途半端か。

結局、何者にもなれないわけだ、俺は。

半端者だ。  

いや、半端者って言葉は半端ではないな。

ハンパも之、くらいじゃないと、半端じゃない。

体の奥深くから一息分だけ、乾いた笑いがこみ上げてきた。

面白い、わけではない。そんな感情じゃない。

少しだけ、自分がわからなくなった。笑った理由が分からなかった。

体を見えない何かが覆っているような、それでいて寒気がする。

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