ゲーム列伝

砕田みつを

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オープンワールドアクション

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「今日はなにしてるの?たっくん。」

ひょっこりと俺の前に顔を出す由美子。いや近い。画面がよく見えん。

「アクションゲームだ。」

「アクションゲーム?」

「そ。」

「なにそれ?」

おいおい、なんだそのいかにも説明してくれと言わんばかりの顔は。仕方ない、ここは俺がひとつご教授してしんぜよう。

俺は一段落ついたところでセーブしてゲームを終了した。俺のしていたゲームというのは、オープンワールドアクションゲーム。主人公は元ギャングで腕の立つ傭兵。街を自由に練り歩き、様々なミッションをこなしながら自由に生活を楽しめる。舞台はニューヨーク。実在の有名人たちとのイベントもあり、没入感が高いことでシリーズ化もされている名作だ。

もう既に説明してしまった気がしたが、由美子向けに分かりやすく説明しなければならないな。

「よし、そんなに教えてほしいなら、アクションゲームとはなん足るかを教えてやろう。」

「え、いやそこまで知りたい訳じゃないんだけど・・・」

「皆まで言うな。腐れ縁だ、それくらいお見通し。」

「なにも見えてないし何なら明後日の方向見てると思うんだけど・・・」
 
「アクションゲームの魅力とは、何よりもまず、その自由度にある!」

「あー始まっちゃったかー。」

由美子の声が遠くで聞こえる気がするが、俺は演説を始めた。

「その原点は2D横スクロール土管おじさんゲームにあると俺は考えている。簡単な操作で、キャラを操り、ゴールへと導く。その手段は単純にゴールまで走り抜けることかもしれないし、敵を殲滅することかもしれない。一つのゴールに辿り着く方法が山のように存在する。それこそが自由!!フリーダム!!!!サンズオブリバティ!!!!!!!」

俺は自由の女神のポーズを決める。由美子は唖然としていた。 

「・・・・は、はぁ。」

「しかも!最近は!!」

俺は立ち上がり、由美子に顔をずいとちかづける。由美子の眼鏡に写る俺が見える。ああ、真剣な顔つき。これぞゲーマーと言わんばかりの熱量だ。我ながら感服する。

「オープンワールドアクションゲームの大航海時代!!!」

「おーぷんわーるどあくしょんげーむ?」 

大航海時代に疑問を差し込む余裕はどうやら由美子にはなかったらしい。

「そうだ!先程も言ったが、アクションゲームの原点は2D。2Dでさえあそこまでの人気を誇る自由度があったのだ。現代の技術では3Dに加えて、これまで与えられていたマップの制約、つまり制作者の意図した所にしか行けないという不自由すら撤廃されつつあるのだ!!!」

「な、なるほど?」

分かっているかは定かではないが、こうなれば俺は止まらない。

「つまり、これまで縦と横しかなかった世界に奥行きが追加され、まあ例を上げれば土管おじさんゲームも最近は3Dだな。そして、それに加えて『あなたの好きなところに好きなときに行けますよ』という自由がプレイヤーに与えられたのだ!!!どうだ!!!ワクワクしないか!!!地の果てまで冒険したくはないか!!!本来の目的を放り出して、遊び呆けたくないか!!!!」

「いや最後の部分、単純にたっくんの日常でしょ。現実逃避だよ。」

「うぐっ!?」
 
痛いところを突かれた。ゲームの魅力でさえも俺の欠点は隠せないらしい。

だが大丈夫。俺にはまだ残機が残っている。アクションゲームはやられることへのペナルティがとことん少ないのだ。だからこそ自由!フリーダム!!!!

「ま、まあつまりだな、日常から解放してくれる新しいゲーム体験が出来るのが、アクションゲームの、延いてはオープンワールド系のゲームの魅力なわけだ。」

最近はオープンワールドという要素をアクション以外にも応用してるところもある。オープンワールドというだけで世界は広がるし、ユーザーに『自由』のプラスイメージを与えられるからだろう。

オープンワールドのギャルゲーとか、シューティングとか、昔は考えられなかったが。

ゲームは常に進化し続ける。

「なるほど、良く分かりました。」

「分かってくれたか。」

余りの熱量で喋っていたので、俺も少し息がきれる。だが、由美子をゲーマーに近づけさせることができたのなら、ゲームの神様も俺に褒美を与えてくれるに違いない。

「分かったから、テレビのチャンネル変えさせてね。」

「お、おいまてぇ!!」 

そういって由美子はテレビのリモコンを素早くとってチャンネルを変えた。

迂闊だった。この時間は由美子の好きなテレビ番組が始まる時間だった。

幸いゲームデータはセーブしているし、このまま待ってさえいれば俺の大事な大事な冒険の記録は保存できるだろう。

しかしだ、俺は騙されたのだ。

由美子は何食わぬ顔でテーブルに載っているお菓子を食べ始めた。俺は由美子を睨み返す。

俺はふんっと地面に座り込みながら鼻をならした。

「騙したなぁ?」

「騙すもなにも最初から聞いてないよぉ。あ、このお菓子美味しいかも。食べる?」

お菓子を俺に差し出す由美子。

「俺の熱弁を無駄にしやがって・・・うんたひかにうまい・・・」

美味しかった。有名煎餅屋のおかきだった。塩がほんのりと効いた香ばしい味。喉が乾くけどうまいやつ。

「晩ご飯前だから食べすぎないようにしないとだね~」

「まあ・・・モグモグ・・・確かにな。」

「言ってる側からそんなに食べて・・・」

「ゲーマーに糖分補給はかかへないのだ・・・」

頭を使うからね頭を。

「はいはい、お茶持ってこようか?」

「・・・すまん、ありがとう。」

俺の返答を聞くまでもなく由美子は立ち上がり冷蔵庫へと向かってくれていた。こういったところが俺たちの腐れ縁の象徴というかなんというか。

その時だった。

「にゃあ~~」

飼い猫の愛猫『チャッピー』が目の前を横切る。

嫌な予感がした。

そしてその瞬間、

ブツリ

と強い電気の音が弾けた。

目の前のテレビが真っ黒になる。

チャッピーがテレビのコンセントを、もれなく俺のプレイしていた家庭用ゲーム機のコンセントをゴールテープのようにして引きずり抜いてしまったのだった。

「あ」

由美子は息を吐くように声を出す。お気に入りの番組が数秒見れないのだ。まあ、それくらいだ。

対して俺は、

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
『俺の冒険の記録』
がああああああああああああああああ」

俺の断末魔が、夕方の我が家に最大限に響き渡っていた。

アクションゲームはセーブが一番の難所。
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