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転生〜統治(仮題)

ダンジョン 〜20階

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ダンジョン初潜入のルーク達は、初めてのセーフティエリアという事もあって、避難していた冒険者達そっちのけで周囲の観察を行っていた。唯一のダンジョン経験者である学園長が、女性冒険者達に声を掛ける。

「お主らは、どっちからここまで避難して来たのじゃ?」
「こ、子供?」
「ダメよ?年上にそんな口きいちゃ?」
「私は子供では無いのじゃ!」

何処から見ても幼女にしか見えない学園長に、女性冒険者が口の利き方を注意する。放っておいたら面白そうだが、遊んでいる時間も無いのでフォローに回る事にする。

「そのバ・・・人はシリウス学園の学園長ですよ?」
「「「「「学園長!?」」」」」
「今言いかけたのは、ババアか?それともバカか?どっちじゃ!?」

正解は、両方です!おっと、こんな所で漫才を披露する訳にはいかない。さっさと先に進もう。こんな時の為に鍛えたスマイル(嘘です)を提供しながら、女性達に説明を促す。

「我々は、冒険者ギルドからの依頼を受けて救助に来ました。状況を教えて頂けますか?」
「「「「「はうっ!!」」」」」
「はぁ・・・この非常時に口説いてんじゃないわよ。」

口説いてるつもりは無いのだが、ナディアに頭を叩かれた。ナディアさん、言い掛かりはやめて下さい。

「私達は他の冒険者を助けに行かなきゃならないの。悪いけど、簡単に状況を説明してくれる?」
「え?は、はい。」

5人の女性達は駆け出しの冒険者らしく、10階のセーフティエリアを拠点にして11階を探索していたようだった。つまり、他の冒険者達がどうなったのか知らないのである。オレ達は顔を見合わせ、先を急ぐ事に決める。しかし、置いていかれる事を理解した女性達から声が掛かる。

「待って下さい!」
「私達を出口まで連れて行っては頂けないのですか!?」
「ここなら安全だから、オレ達が戻るまでここにいて欲しいんだ。保存食で悪いんだけど、食料も置いて行くから。」
「10日程で戻るから、それまでは上にも下にも行っちゃダメよ?」
「そ、そんなぁ・・・。」

彼女達には悪いが、構っている時間は無い。なんとか今日中には20階のセーフティエリアに辿り着きたいのだ。彼女達の視線を背に受けながら、オレ達は11階へと足を踏み入れる。

11階も、これまでと同じ『これぞダンジョン』という景色だった。少しは違う景色を期待したのだが、残念な結果である。

学園長の案内とオレの鑑定魔法を組み合わせ、ほとんど戦闘も無いままに進んで行く。が、次第に戦闘を回避出来ない状況が増え始めた。しかし、どういう訳か出現するのはオークのみである。と言っても、オークは単独でもCランクの魔物なのだが。

ティナが張り切って討伐するものだと思っていたが、あまり乗り気では無さそうだったので、オレと学園長のトーテムポールコンビで片付けて行く。戦闘の時くらい降ろせって?やだよ、時間が勿体ない。ちなみにティナが乗り気じゃないのは、1階で牛さんを集めたせいだろう。あの肉の方が魅力的だったのである。ティナちゃんは正直な子なんですよ。

順調に15階まで辿り着くと、出現する魔物に変化が現れ始める。オークと共にゴブリンジェネラルやゴブリンメイジが行く手を阻む。こうなって来ると、トーテムポールは魔法の的になり易い。学園長は残念そうにしながらも、自ら地面に降りて戦闘に加わった。

全員での戦闘となり、討伐のスピードを落とす事無く20階のボス部屋へと到達する。扉の前で鑑定魔法を使用したオレは、少しだけ驚いてしまう。オレの様子を伺っていたフィーナが、心配そうに声を掛けて来た。

「どうしたの?」
「いや、中にいるのがリッチキング3体だったから、少し驚いただけ。」
「「「「リッチキング!?」」」」
「冗談でしょ!?」
「まだ20階よ!?」
「このダンジョン、随分とデタラメじゃの?」

リッチキングは単体でもSランクの魔物である。そんなのが3体もいるのだ。全員が驚くのも無理は無い。オークやゴブリンの階層に、アンデットのボスというのも統一感が無い。加えて、オレ以外の面々は相性が悪いのである。

「直接攻撃しか無い私には厳しい相手ね。」
「あ~、ここはナディアに任せようか?」
「・・・ルーク?私の話、聞いてた?」

眉間に皺を寄せて、ナディアがオレの言葉に噛み付いて来る。今にも殴られそうなので、慌てて説明をする。と言っても、学園長に聞かれる訳にもいかないので、ナディアの耳元で囁いた。

「オレが倒してもいいんだけど、実際に体験した方がわかりやすいと思うんだよね。ナディアには、オレの加護があるでしょ?アレって、ステータスアップだけじゃないんだよ?」
「どういう事?」
「オレの種族自体がアンデッドの弱点みたいな物らしくてね。今のナディアなら一撃で倒せるから。それに、フィーナやティナ、それに学園長だと倒すのに時間が掛かるでしょ?」
「・・・わかったわ。でも、無理だと思ったら後退するからね?」

ナディアが納得してくれたようなので、オレは無言で頷く。ナディアは扉を開けると、一気にリッチキングの元へと駆け寄り、腰の入った素晴らしいボディブローを繰り出す。

「へ?」

ナディアの一撃を受け、魔石のみを残してリッチキングが消え去る。事前に伝えたにも関わらず、事態を飲み込めないナディアは、間の抜けた声を上げて固まってしまう。やっぱり信じられなかったか。そんな事よりも、残る2体のリッチキングがナディアに襲い掛かろうとしているのが見えたので、短く戦闘が終わっていない旨を叫ぶ。

「ナディア!次!!」
「え?あ、あぁ、そうだった!」

まだ戦闘中である事を思い出したナディアは瞬時に間合いを詰め、それぞれ一撃で仕留める。無事に戦闘が終わった事に安堵し、フィーナと学園長の様子を伺うと、2人は呆気にとられていた。声をかけるべきか悩んでいると、魔石を回収したナディアが戻って来た。

「Sランクと言っても、今のナディアの敵じゃなかったね。」
「そうね・・・。こんなにあっさり終わるとは思わなかった。」

まだピンときていないのか、ナディアの表情は複雑そうである。その様子に苦笑していると、フィーナと学園長が詰め寄って来た。

「ど、どうなってるの!?」
「その手甲、ひょっとして聖属性なのか!?」
「え?いや、その・・・ルーク?」

聖属性?そう言えば、小さい頃に母さんが教えてくれた気がする。光属性は聖属性とも呼ばれているんだっけ?それはそうと、一応学園長には秘密にしておきたいから嘘をついてしまおう。

「はい?あぁ・・・ナディアの手甲には強力な光属性の魔法が込めてあるよ。」
「そうなのじゃな。どうりで簡単に倒してしまえる訳じゃ。」

勝手に納得した学園長から視線を外すと、フィーナが呆れた顔をしていた。オレの嘘に気付いたらしい。機会があったら説明しよう。そう言えば、フィーナに聞いてみたい事があったんだよ。

「フィーナに聞こうと思ってたんだけど、Sランクって基準が曖昧だよね?」
「え?・・・魔物の話?それとも冒険者?」
「今回は魔物の話だけど、冒険者の方も聞きたいかな。」
「冒険者ギルドが発足した時、魔物の出現数や出現率を算出してAランクまで設定したみたいなの。実績を考慮して、その魔物に勝てそうな者がAランク冒険者ね。それ以上は全部Sランク。」

Sランクの定義が広過ぎでしょ!?SSとかSSSは、国からの推薦が必要って聞いたけど、要はSランクって事だもんな。今度はオレが呆れてしまうが、フィーナが弁解する。

「私が決めたんじゃないからね?」
「そうかもしれないけど、修正する位は出来たんじゃないの?」
「必要に迫られなかったのよ・・・。」

視線を逸しながらフィーナが呟く。すると、いつになく真剣な表情の学園長が、まともな意見を述べる。

「関係の無い話は後にして、今は先を急ぐのじゃ!」
「そうね。皆、行きましょう?」

ナディアがオレ達に呼び掛けるので、ボス部屋の先にあるセーフティエリアへ移動すると、30人程の冒険者達が休んでいた。これは流石に人数が多い。状況説明だけでも、相当な時間を擁するだろう。間も無く夕飯といった時間だろうが、ここで休むのは難しい。そこまで広い部屋ではないのだ。

先に進みたい気持ちはあるが、無理をしても構わないのか判断に迷っていると、学園長が口を開いた。

「ここは私が引き受けよう。お主らは先に進んで構わんぞ?」
「いいのですか?」
「これでも学園の長じゃ。人を纏めるのには慣れておる。それに、この先は足手まといになりそうじゃからの。ここでこの者達の面倒を看ておるよ。」

学園長の予想外の言葉に、ティナが確認するのだが、学園長らしい答えが返って来た。素直に従った方が良さそうだ。学園長に任せようと考えていると、フィーナが口を開く。

「私も残って、彼らをここより広い10階まで連れて行くわ。高ランクのアンデッドが出るんじゃ、私も足を引っ張るかもしれないでしょ?それにこの人数だもの、学園長1人じゃ大変よ。」
「いや、けど・・・」
「ルーク、ここはフィーナの言う通りにしましょう?」
「ティナ・・・わかったよ。フィーナ、無理しないでね?」
「えぇ。ナディア、ティナ・・・ルークをお願いね!」

フィーナの提案をティナが受けるように促したので、オレは2人の意見を聞く事にした。もしもこの先に多くの生存者がいた場合、帰還に時間が掛かる可能性がある。そうなれば危険が増すという判断なのだろう。

オレはティナとナディアの3人で、30階のセーフティエリアを目指す事にした。オレ達が休憩出来るのは次のセーフティエリアだろう。朝までに着けるといいのだが・・・。
お腹空いた・・・横になりたい・・・。
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