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第二十九章 沈黙編

第百五十話 腐蝕

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「大変です!」

 病院の舎弟スタッフの一人がお嬢達の元へ駆けつけてきた。

「病院から数メートル離れた先で、ダンテ様とライト様が争った後、あの男が!高柳遥輝が乱入して2人とも気絶してしまいました!」

「そんな…!」

「高柳遥輝…!今度は何をしにきたのでしょうか…!?紅葉!病院のカメラの映像をチェック出来ますか!?」

「うん!」

 そう言って紅葉は急いでパソコンを取り出す。

「…まだ病院内に高柳遥輝は映ってない。ライトが出ていく姿が数分前に映ってるだけ。病院周辺に飛翔型のカメラを飛ばすよ。」

 飛翔型カメラが映ると遥輝が病院の方向へ足を運んでいく姿が見えた。

「このまま向かってくる…!」

「まずいぞ…オレが時間を稼いでくる!」

「…!?待って!楓お姉様!何か飛んできてる!白い飛行物みたいなのが!」

 紅葉がそう言うとお嬢、黎、楓、菱沼、萌美も紅葉のパソコンの画面に集中する。

「な…なんですかこれは…。」

「白い…竜!?萌美こんなの初めて見ました!」

「一体何が起きてるっていうの!?」

「今病院を出るのは危険です。しばらく様子を見てみましょう。」

 ……………

「ギャアアアアアアオオオオオオオン!!!」

 遥輝は空から轟くような声がするのが聞こえた。

「ん?あれは竜?」

 遥輝のもとに近づいてくる。

「ドーーーーーン!!!!!!」

 遥輝の前に白い鱗の竜が着陸した。

「…今度こそ楽しめそうだね。」

「…雪辱を果たしてきな。エンケラドス。」

「ドッカーーーーーン!!!」

 エンケラドスが地面を蹴ると地響きが鳴り地面が揺れる。

「バコッッッ!!!」

 遥輝がエンケラドスまで距離を詰めて頭を殴る。

 エンケラドスは翼で後ろに下がって衝撃を和らげ、飛んだまま遥輝の方へ滑空する。

「ガシッッッ!!!」

 エンケラドスの右の前足の爪を遥輝が両手で抑える。

「飛べ。」

 そのままエンケラドスが飛び上がって遥輝が両手で右の前足の爪を掴んだまま地面に浮かび上がる。

「放り投げろ。」

「バーーーーーン!!!!!」

 エンケラドスが右の前足を思い切り振り払って遥輝は地面に放り投げられる。

「………。」

「ギャアアアアアアオオオオオオオン!!!」

「…面白くなってきたね。」

「ドカッッッ!!!」

 エンケラドスの右側頭部に遥輝が左蹴りを入れる

「ドカーーーーーン!!!」

 続けて左肘を頭頂部に落とす。

「バコーーーンッッッ!!!」

 続けて顎に右の拳を突き上げる。

 それによってエンケラドスが上を向いた時だった。

「ヒュウウウウウウ…!!!!」

 エンケラドスが大きく息を溜め込んでいる。

「何を見せてくれるのかな?」

「ビュオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!」

 遥輝に目掛けて氷の息吹を吹きかける。

 息のかかった場所は地面、樹木、建物など一切を問わず一面凍りつく。

 その距離は数メートル離れた病院にまで到達した。

「それで終わり?」

 遥輝はなんともなかった。

「バコッッッ!!!」

 遥輝の拳がエンケラドスの頭に直撃する。

 遥輝がエンケラドスの首元に乗る。

「グシャッッッ!!!グシャッッッ!!!グシャッッッ!!!グシャッッッ!!!グシャッッッ!!!グシャッッッ!!!グシャッッッ!!!グシャッッッ!!!」

 エンケラドスは後頭部を遥輝に何度も殴られる。

「バターーーーーーン!!!」

 エンケラドスは気を失ってそのまま倒れた。

「それなりに頑丈だったんじゃない?」

「流石は高柳グループのボス『腐蝕の暴君』、高柳遥輝だな。エンケラドスまで呆気なく倒されるのは一筋縄じゃいかねーな。」

「改めてその名前で呼ぶ必要なくない?俺『腐蝕』させてる自覚も『暴君』って自覚もないしそれは君も一緒にいたから知ってるよね?『西園寺陸斗』。『西園寺グループ』のボスの『氷の皇帝』か。悪くないんじゃない?」

「お前を殴った事ある俺だから分かるけどお前は触れた相手を腐蝕させる事によって相手を無意識に弱体化させる魔法があるみてーなんだよな。おまけに魔法攻撃もほとんど効かない。まじめんどくせーって。まぁでも…」

「ポツ…ポツポツポツポツポツポツザーーーーーッッッ!!!!!」

「俺1人でどうにもならないなら皆で協力すればよくね?」

「わっちもそう思うでありんす。」

 雨が降り、辺り一面に霧が立ちこめ視界が悪くなる。

「…これは考えたね。」

 ……………

「天候が悪くなってカメラで映像が映らなくなった…。」

「これは…人魚姫(マーメイド)四天王でしょう…。陸斗の創設した西園寺グループに加入したということでしょうか…。あとお嬢…俺の側を離れないでくださいね。」

 黎がお嬢を抱き寄せる。

「え…?♡何…?♡急に…」

「バーーーーーンッッッゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!!!!」

「キャーーーーーッッッ!!!!やだっっっ!!!怖いっっっ!!!」

「俺の側を離れなければ大丈夫です。」

「………うん…。」

 ………………

「ドゴーーーンッッッ!!!」

 陸斗が遥輝の顔に拳を当てる。

「あての追い風で陸斗様は速度を向上させ、高柳遥輝は向かい風で速度を低下させる。よう考えよるわ。」

「それにしても陸斗様は触れられたら腐蝕によって弱体化させられるのに、なんでダメージがちゃんと入っとんの?っていうか魔法効かない相手にうちの雷必要?」

「陸斗様はあたいにアブソリュートゼロを教えてくれた師匠のようなお方だよ。陸斗様は素手で殴ってるんじゃなくて『氷拳』で拳の表面を氷で覆って殴ってるから高柳遥輝の腐蝕が効かないんだよ。それに鯵鋤の雷は高柳遥輝を痺れさせて動きを鈍らせるのにはもってこいだと思うよ。」

「でも、殴られた場合はどうするでありんすか?」

「バコッッッ!!!」

 遥輝が陸斗の顔に拳を当てる。

「頭は『氷兜』、首から下は『氷鎧』で氷で覆ってるよ。でも、高柳遥輝は腐蝕がなくても強いからあたいらの天候を含めてこれでやっと互角に戦えそうな感じだよ。」

「ドゴーーーンッッッ!!!」

「ドカッッッ!!!」

「ドゴーーーンッッッ!!!」

「グシャッッッ!!!」

 そんな音が立ち込める霧の中豪雨の音、雷の音とともに響き渡っていた。

 そして…

「ついに…。」

「終わった…。」

「信じられへん…。」

「ほんに、ようやるわ…。」

 霧が晴れてきて視界が良くなってきた。

 ……………

「霧が晴れてきた…画面が映るよ……え…!?」

「なん…だと…!?」

「高柳遥輝と…西園寺陸斗が…2人とも白竜の上で倒れてるってことは…相打ちですか…!?」

「黎…雷止んだ…?」

「もう大丈夫ですよお嬢。」

 ……………

「私めも占星術によってこのような結果になることは初めから分かっておりました。しかし結果が分かってご本人に伝えてしまっては、運命を左右しかねないので黙っておりました。陸斗様。お疲れ様でした。お帰りをお待ちしております。」

 



 第二十九章 沈黙編 ~完~


 次回 第百五十一話 新居
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