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第二十八章 探偵編

第百四十四話 潜入

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「皆の命も確かに大事な事なんですがお嬢、その上でさらに重要なことに気づきませんか。」

「皆の命を救う上で重要なこと!?なによ!?」

「…お嬢…夜の病院の中って歩いたことありますか?」

「………え…?」

 お嬢の慌てた表情が突然固まった。

「…俺達この病院内の者の命を守らなければならないとなった以上、夜の病院の中を潜入しないといけないと思うんですよ…。」

「…や…やだ…。」

 お嬢が黎の胸に顔をうずめる。

「…そう言うと思ってました…。」

「だってっ…!怖いもんっ…!」

 お嬢が泣き出してしまう。

 黎は悩んだ。

 お嬢を1人にする事も、お嬢と一緒に夜の病院に潜入する事も難しいと思ったからだ。

「ねぇ黎…どうすればいいの…?」

 お嬢が泣きながら黎に尋ねる。

 黎は頭をフル回転させる。

 いわゆる夜の病院というのはナースステーションとお手洗い以外の灯りはほとんどなく、人がいつどこに出てくるかもわからない状態だ。

 しかもそれは入院患者の立場の話だ。

 今回お嬢と黎の目的はレフトスが事件を行ったかどうかを見定める潜入であるから、医療スタッフが行き来するところ、例えばレフトスは手術を主に行うからして手術室への潜入は必要不可欠になる。

 事情を話せば看護師から懐中電灯などの明かりを照らす物の貸出はしてもらえるだろうがそれでも夜の病院の薄気味悪さは消えず、お嬢の恐怖は拭いきれない。

 敵が近くにいるのならば真っ先に対応しなければならないし、敵でないなら早めに潔白を証明しなければならない。

 色々考えるが中々方法が見つからない。

 そうこう考えているうちに時間が21時を回る。

「カチッ。」

 病院の灯りが消え、暗くなる。

「もう消灯の時間だ…おやすみ…。」

「ああ、ゆっくり休め紅葉。悪いがオレは紅葉に万が一の事があった時のためにここにいなければならない。力になれなくてすまないな。」

「いえ、ありがとうございます。お嬢は俺が守ります。もちろん南病院の者も。」

「い…いや…黎…怖い……怖いよ…。」

 黎は抱きかかえているお嬢が震えてるのが分かる。

「とりあえずナースステーションに移動しましょう。」

 そう言って黎は紅葉の病室を後にする。

 そして黎はナースステーションに着く。

「すみません、懐中電灯をお借りできますか?」

「黎様と…お嬢様…!?…ど、どうされたんですか!?」

「黎!待って!どうするの!?私怖いよ!!」

「大丈夫ですよお嬢。ずっと目を瞑って俺の胸元に耳をあて、心臓の鼓動を感じるだけで大丈夫ですから。」

 黎が看護師に手渡された懐中電灯のスイッチをつけて口に咥える。

「そ…そんなこと言ったって…。」

「俺を信じてください。お嬢の鼓動のペースを俺の心臓の音を聴いて、その鼓動のペースに合わせる事を意識する様に、目を瞑ってるだけでいいんです。」

「…わ…わかった…。」

 黎はお嬢の耳の高さを自分の胸元に来るように高さを調節し、お嬢は黎の胸に耳を当て目を瞑る。

「……黎の音……すごくゆっくり……。」

「お嬢といると落ち着くんですよ。」

 黎は歩きながら病院の廊下を歩きながら答える。

「黎は…怖いものないの…?」

「ありますよ。」

「なに…?」

「お嬢を失う事です。」

「…えへへ…♡」

 そして黎は手術室の前へと辿り着く。

 黎は右手に握っていた安全ピンを指で持つ。

 お嬢を前腕で支えながら手先で安全ピンの先端を鍵穴に差し込む。

「カチャッ。」

 そして手術室の扉を開く。

 すると中には1人の長身の男が手術台の前に立って何かしている。

「…黎…誰かいるの…?」

 お嬢が小声で問いかける。

「ええ、男が1人。こっちの様子には気づいてないよう…」

「シュンッ!」

 突然金属の刃物の様なものが黎に向かって飛んで来るのを黎がかわす。

「侵入者…ですか…。」

 長身の男は後ろ姿のまま声を出す。

 黎に向かって飛んできたのは手術用のメスだった。

 どうやら侵入者に備える為のトラップだったようだ。

「少々行儀の悪い入り方をしてしまってすみません。お前に聞きたいことがありまして。」

「黎…?気づかれちゃったの…?」

「なんでしょうか…?私はあまり人と話すのは得意ではないので手短にお願いできますか…?」

「わかりました、では聞きます。ここで一体何をしているのですか?レフトス。」

「レ…レフトス…?」


 次回 第百四十五話 秘密
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