【R18】世界線Ⅱ〜恋するお嬢とその舎弟達〜

石原歩

文字の大きさ
上 下
145 / 208
第二十八章 探偵編

第百四十四話 潜入

しおりを挟む
「皆の命も確かに大事な事なんですがお嬢、その上でさらに重要なことに気づきませんか。」

「皆の命を救う上で重要なこと!?なによ!?」

「…お嬢…夜の病院の中って歩いたことありますか?」

「………え…?」

 お嬢の慌てた表情が突然固まった。

「…俺達この病院内の者の命を守らなければならないとなった以上、夜の病院の中を潜入しないといけないと思うんですよ…。」

「…や…やだ…。」

 お嬢が黎の胸に顔をうずめる。

「…そう言うと思ってました…。」

「だってっ…!怖いもんっ…!」

 お嬢が泣き出してしまう。

 黎は悩んだ。

 お嬢を1人にする事も、お嬢と一緒に夜の病院に潜入する事も難しいと思ったからだ。

「ねぇ黎…どうすればいいの…?」

 お嬢が泣きながら黎に尋ねる。

 黎は頭をフル回転させる。

 いわゆる夜の病院というのはナースステーションとお手洗い以外の灯りはほとんどなく、人がいつどこに出てくるかもわからない状態だ。

 しかもそれは入院患者の立場の話だ。

 今回お嬢と黎の目的はレフトスが事件を行ったかどうかを見定める潜入であるから、医療スタッフが行き来するところ、例えばレフトスは手術を主に行うからして手術室への潜入は必要不可欠になる。

 事情を話せば看護師から懐中電灯などの明かりを照らす物の貸出はしてもらえるだろうがそれでも夜の病院の薄気味悪さは消えず、お嬢の恐怖は拭いきれない。

 敵が近くにいるのならば真っ先に対応しなければならないし、敵でないなら早めに潔白を証明しなければならない。

 色々考えるが中々方法が見つからない。

 そうこう考えているうちに時間が21時を回る。

「カチッ。」

 病院の灯りが消え、暗くなる。

「もう消灯の時間だ…おやすみ…。」

「ああ、ゆっくり休め紅葉。悪いがオレは紅葉に万が一の事があった時のためにここにいなければならない。力になれなくてすまないな。」

「いえ、ありがとうございます。お嬢は俺が守ります。もちろん南病院の者も。」

「い…いや…黎…怖い……怖いよ…。」

 黎は抱きかかえているお嬢が震えてるのが分かる。

「とりあえずナースステーションに移動しましょう。」

 そう言って黎は紅葉の病室を後にする。

 そして黎はナースステーションに着く。

「すみません、懐中電灯をお借りできますか?」

「黎様と…お嬢様…!?…ど、どうされたんですか!?」

「黎!待って!どうするの!?私怖いよ!!」

「大丈夫ですよお嬢。ずっと目を瞑って俺の胸元に耳をあて、心臓の鼓動を感じるだけで大丈夫ですから。」

 黎が看護師に手渡された懐中電灯のスイッチをつけて口に咥える。

「そ…そんなこと言ったって…。」

「俺を信じてください。お嬢の鼓動のペースを俺の心臓の音を聴いて、その鼓動のペースに合わせる事を意識する様に、目を瞑ってるだけでいいんです。」

「…わ…わかった…。」

 黎はお嬢の耳の高さを自分の胸元に来るように高さを調節し、お嬢は黎の胸に耳を当て目を瞑る。

「……黎の音……すごくゆっくり……。」

「お嬢といると落ち着くんですよ。」

 黎は歩きながら病院の廊下を歩きながら答える。

「黎は…怖いものないの…?」

「ありますよ。」

「なに…?」

「お嬢を失う事です。」

「…えへへ…♡」

 そして黎は手術室の前へと辿り着く。

 黎は右手に握っていた安全ピンを指で持つ。

 お嬢を前腕で支えながら手先で安全ピンの先端を鍵穴に差し込む。

「カチャッ。」

 そして手術室の扉を開く。

 すると中には1人の長身の男が手術台の前に立って何かしている。

「…黎…誰かいるの…?」

 お嬢が小声で問いかける。

「ええ、男が1人。こっちの様子には気づいてないよう…」

「シュンッ!」

 突然金属の刃物の様なものが黎に向かって飛んで来るのを黎がかわす。

「侵入者…ですか…。」

 長身の男は後ろ姿のまま声を出す。

 黎に向かって飛んできたのは手術用のメスだった。

 どうやら侵入者に備える為のトラップだったようだ。

「少々行儀の悪い入り方をしてしまってすみません。お前に聞きたいことがありまして。」

「黎…?気づかれちゃったの…?」

「なんでしょうか…?私はあまり人と話すのは得意ではないので手短にお願いできますか…?」

「わかりました、では聞きます。ここで一体何をしているのですか?レフトス。」

「レ…レフトス…?」


 次回 第百四十五話 秘密
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

処理中です...