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第二十二章 学園編

第百十話 入学

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「お嬢…ゲームの世界ですよ…ゲーム内容を把握するところから…」

「何皆してこっち見てるのよ!?私の顔になにかついてる!?それと女の子は皆黎のこと狙ってるわけ!?許さないわよっ!!」

 お嬢の周りの人は皆怯えてお嬢を避けて門を通っていく。

 お嬢は現実世界でも仮想世界でも変わらなかった。

 黎はふと門の前の表札に目をやる。

「『南高等学校』…。学校ってそういえば世界線Ⅰにあるものだと紅葉が言ってましたね…。ここがその学校の一つということですか。一体どんなところなんでしょうか。お嬢、俺達も中に…」

「いい!?私は南グループのお嬢なの!!南グループで一番偉いのよ!!あなた達この意味がちゃんと分かってるのかしら!?」

 お嬢の言葉を聞いている周りの人達は非常に戸惑っている。

「…お嬢…行きましょう…?」

 黎がお嬢の腕を引く。

「ちょっ!ちょっと!黎っ!私に命令するのっ!?ここにいる人達南グループのこと馬鹿にして…」

「ここの世界の人達は南グループのことは知らないですよ、お嬢。ここは現実世界ではないですから。」

「…え…?」

「とりあえず、折角新しい世界を堪能できるみたいですし、今は現実のことは忘れて息抜きがてらゆっくり楽しみましょう。」

「むーーーっっっ!」

 お嬢は両頬を膨らませ不満そうにしながらも黎の腕を組んで黎についていくことにした。

「とりあえず、周りの人に色々尋ねてみましょうか。」

「ここの人達…私の事皆避けていっちゃう…。」

 今度はお嬢が悲しそうな顔をしていた。

「大丈夫ですよお嬢。お嬢だって優しいお方なんですからそれが周りの人に伝われば皆心を開いてくれます。」

「…そうかな…。」

「はい、それに俺がついてますから。」

「…うん…。」

 お嬢は涙を拭って頷く。

 仮想世界でもお嬢は泣き虫だった。

「すみません、ちょっといいですか?」

 黎は1人の男子に声をかけた。

「わ!な、なんですか!?」

 先程門の前のお嬢の姿を見たのか非常に怯た様子だった。

「ここって学校ですよね?学校ってどんな所なんですか?」

「え!?ほ、本気で言ってますか!?もしかして…裏社会の人間がよく素性を隠して高校生活を送るっていう………さっき言ってた南グループ…ってもしかして………ひぃっ!!!」

 男子は黎の質問には答えず色々独り言を言いながら逃げていってしまった。

「キャッ!」

 黎はお嬢をお姫様抱っこしてその男子を追いかけ、そして男子と並走する。

「そうなんです。お嬢と俺は裏社会の人間なので命が惜しければ色々教えて頂けませんか?勿論直ぐには殺しませんよ。そうですね、例えば若い方の内臓は高く売れ…」

「ひぃぃぃぃっっ!!!わ、わ、わ、わかりました!!何でも教えますから許してくださいっ!!」

 男子が立ち止まると同時に黎も立ち止まる。

「ハァ…ハァ…」

 男子は息を切らして膝に手をつく。

 そして黎はお嬢を下ろす。

 その瞬間、

「パシンッッッ!!!バーーーーーン!」

 と黎はお嬢に右頬を平手打ちされふっ飛ばされ、気絶する。

「コラーーーッッッ!!!黎ッ!!!なんでそんな嘘ついたり人を脅したりするのよっ!?許さないわよっ!!」

「ひぃぃぃぃっっ!!??」

「あなたもなんて情けない声出してるのよ!?黎の質問に答えないあなたもあなたよ!!」

「す、すみません!!」

「で、黎の言ってた学校って何なのよ!?」

「学校は社会に出るために勉強する為の場所です!」

「え?それだけ?」

「そ…それだけとは…?」

「あなた達、皆同じ格好して、皆同じ場所で皆同じことして、それで生きてて楽しいの?もしかして今までもそうやって生きてきたの?これからもそうやって生きていくつもり?それがこの世界では普通なの?」

「え…あの…えーっと…?」

「私はそんなの絶対嫌よ。勉強っていうのは次の勉強のステップを踏むためや社会に出るためだけにするものじゃないのよ。」

「………。」

「生きてるこの瞬間そのものが勉強だと思ってその時を一生懸命生きないと、あなた達、死ぬ時絶対後悔するわよ。学校に通ってる時だけが勉強だと思ってるぐらいなら、学校なんて行かずに自分が心の底からやりたいと思えることやって一生暮らしたほうがいいに決まってるわ。」

 男子は耳が痛かった。

 小さい頃から大人の敷かれたレールに沿って生きてきて、自分の心の底からやりたいこと、自信を持って自分にはこれしかないと言えるものを今まで探してこなかった。そんな勉強を男子はしてこなかった。

「いい?南グループに所属することは自由に生きられる権利を与えられてると実感できるからこそ存在する意味があるの。勝手に裏社会だとかそんな先入観持たれるなんていい迷惑よ。」

「…あの…。」

「何よ。」

「すみませんでした…勝手に誤解してしまって…。」

「いいのよ。うちの黎が勝手なこと言うからこっちにも非があったし。」

「今日…『入学式』なんですよ。」

「にゅうがくしき?」

「はい、俺達『1年生』が皆『体育館』で初めて学校に通う事になることを記念して集まるんです。」

「いちねんせい?たいいくかん?難しいことは黎に任せるわ。…っていうか黎ーーーッッッいつまで寝てるのよーーーッッッ!!!」

 黎はお嬢の叫び声でようやく意識を取り戻した。

「…す…すみません…お嬢…。」

 黎が頭をおさえながらお嬢のもとに戻る。

「なんか今日、いちねんせいがにゅうがくしきっていうのをたいいくかんでやるんだって。」

「…わかりましたお嬢…では俺達も1年生だと思うのでその体育館に行きましょう。彼と同じお嬢と俺みたいに花飾りが胸元についている人は多分1年生で、それ以外はそれより上なんだと思います。」

「あの…お嬢…様?ですか?ありがとうございました。とても勉強になりました。」

 そう言って男子はお嬢と黎の前から姿を消した。

「………お嬢のおかげで彼も本当の意味で人生の入学が出来るのかもしれませんね。」

「黎…!?私達のやり取り聞こえてたの…!?記憶の共有できないのよね!?」

「心です、お嬢。お嬢の心が本物だと分かっているから俺はさっき言ったんです。お嬢はお優しい方なので人に伝われば心を開く、と。」

「…黎…もうっ♡」

 お嬢が黎を抱きしめる。

 体育館にて…

「かなり人が多いですね。」

「私の舎弟の方が全然多いわよ。」

「張り合わなくて大丈夫ですよ…。…っていうかお嬢…入場した時から席に座るまでずっと俺の隣に居ますけどこれ、並び順決まってるらしいですよ…。」

「そんなの1人ずつずれてもらえば…って!黎の左隣の人女の子じゃない!!ちょっとそこのあなた!!もう一個左の人と…ってもう一個左も女の子!?どうしてこう黎の周りって女の子ばっかりなの!?黎のバカっ!!」

「お嬢…声が大きすぎて多分全員に聞こえてます…。」

「バシッ!」

 そしてお嬢が前にいる男子の肩を叩く。

「ちょっとあなた!!黎の左隣の女の子と交代しなさい!!しないと許さないわよっ!!」

 しかしお嬢に肩を叩かれた男子は座ったまま気絶してしまった。

「ちょっと!聞いてるの!?返事ぐらいしなさいよ!!」

「お嬢…あの…」

「いい?黎の隣の女は私だけなの。この意味がわかったらさっさと交代しなさいっ!!」

 そう言っているお嬢の右隣は男子だった。

「ポンッ」

 それに気付いた黎は左前の女の肩を軽く叩く。

「ひっ!な…なんですか…?」

「命が惜しければお嬢の右隣をあなたと交…」

「パシンッッッ!!!ドカーーーーーン!」

「わーーーーーっ!!!」

「きゃーーーーっ!!!」

 黎がお嬢に右頬を平手打ちされ集団の中へとふっ飛ばされた。

「ちょっと黎ッッッ!!!今女の子の肩触ったでしょっ!?どういうつもりっ!?ナンパっ!?浮気っ!?ぜっっったいに許さないわよっっっ!!!」

 お嬢の叫び声が体育館中に響き渡った。


 次回 第百十一話 授業
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