上 下
100 / 167
第十九章 切札編

第百話 黒と赤

しおりを挟む
 2人の黎が話し合っているとお嬢が部屋に入ってくる。

 そして迷わず片方の黎の方に歩み寄り、抱きしめてキスをする。

「本物の黎はこっちね。やっぱり一瞬でわかったわ。簡単よ。あなた、赤井夢幻ね。一体何の用かしら?」

 赤井夢幻と呼ばれた方の抱きしめられていない方の黎と思われていた男の髪が赤くなる。

「さすが田本黎のお嬢ですね。簡単なことです。田本黎を殺しにやって来ました。同じ人間は2人もいらないですからね。」

 そう言って夢幻は黎に襲いかかる。

「ドカーーーーーン!!」

 しかし黎はお嬢を抱えながらかわす。

「ちょっと!!私の部屋の壁壊さないでよ!!」

「俺は今日部屋から出られないんですから仕方ないですよね?」

「バコッッッ!」

「カハッ…!」

 黎が夢幻に顔を殴られる。

「黎っ!」

「大丈夫ですお嬢。」

「ザシュッッッ!!!」

 黎がお嬢を抱えながら夢幻の右腕を切りつける。

「お前の記憶を読んでわかったんです。お前、触れた者の記憶を読めるんですね。俺にそっくりです。だから木表で俺に殴って首を掴んだ時の俺の記憶からここに辿り着くことができたんですね。」

「バコッッッ!!」

 黎が再び夢幻に顔を殴られる。

「ザシュッッッ!!!!」

 黎が再び夢幻の右腕を切りつける。

「どうして…魔法が…使えない…世界の…木表で…そんな事が…できるのか…それは…お前が…木表の…者とは…違う…特別な…」

「バコッッッ!!!」

 黎が夢幻に顔を殴られる。

「ザシュッッッッッ!!!!!」

 黎が夢幻の顔を深く切りつける。

「そし…て…お前…は…こっち…の世界…の…俺に…しか…倒せ…ない…だか…ら…高…柳…遥輝…も…お前…に…負け…」

「ドカッッッ!!!」

 黎が夢幻に顔を蹴られる。

「ザシュッッッッッッッ!!!!!」

 黎が夢幻の首を切りつける。

「バタンッッ!!」

 黎は抱きかかえていたお嬢の手の力が抜け、倒れた。

「黎っ!黎っ!しっかりしてっ!黎っ!!!」

 夢幻も同時に倒れていた。

 夢幻はその後星屑のように散って姿を消していった。

 ……………

「…ぃ。れぃ。黎。黎!」

 黎の耳にお嬢の声が段々近づいてくるような感覚がした。

「…お嬢…ここは…お嬢の…部屋では…ない…ですね…また…約束を…」

「バカっ!そんな事言ってる場合じゃないわよっ!いい作戦があるって聞いて信じたらあんな無茶してっ!」

 お嬢が泣きながら黎に抱きついていた。

 黎がいたのは南病院のベッドだった。

「すみませんお嬢、部屋から出ない約束だっ…」

「だからそれはいいって言ってるでしょ!?どこまで真面目なのよ!?このバカ真面目っ!」

「愚問ですね。お嬢との約束ならどこまでも真面目ですよ。」

「もう黎ってば本当に私に心配かけてばっかり!」

「お嬢も人のこと言えないですよ。」

「黎の方が心配かけてるもんっ!」

「いえ、お嬢の方が…」

 2人は顔を見合わせる。

「もうっ黎ってば…。」

 お嬢が黎にキスをする。

 黎もお嬢の背中に手を回す。

 そして2人は再び顔を見合わせる。

「お嬢、今ので大体治りました。屋敷に戻りましょう。」

「もぅ!またそんなこと言って!全然怪我治ってないじゃない!」

「今日の0時の予定に間に合わなかったら嫌なので。」

「予定…?誰かと何か予定してるの…?」

「毎日してるではありませんか。お嬢と俺で。昨日も、一昨日も、その前も、ずっと。」

「もぅ♡黎…♡大好き♡」

 そう言って再びお嬢が黎に抱きつく。

「俺、お嬢の事しか考えてませんよ。」

「えへへ♡私も♡」

 ……………

「夢幻、うぬがやられて帰ってくるとは何事じゃ。そやつは一体何者なのじゃ?」

「唯一俺を倒すことができた女王様と同じ黒髪をした田本黎という男です。」

「余が唯一倒すことができなかったうぬをそやつなら倒せると申すか。そやつは人類最強の男であるのか?」

「いえ、あちらの星で最強候補と呼ばれる高柳遥輝という男を俺は倒しました。しかしその男は高柳遥輝には完敗してきた模様だったので、俺は勝てると踏んでいたのですが…まさか引き分けるとは。」

「引き分け…か。余と同じく黒髪…黒と赤…まだ勝負はついておらん。今後とも期待しておるぞ、夢幻よ。」

 


 ……………

「ねぇ黎、本当にお屋敷に帰ってきて大丈夫だったの?」

 黎とお嬢がベッドに横並びに座る。

「はい。大丈夫です。他の舎弟も一時的に気を失っただけで大事には至らなくてよかったです。それより部屋の壁壊したり床を血で汚したりしてしまってすみません。」

「いいのよそれは…って…黎の血しか残ってないわね…。」

「どうしてわかるんですか?」

「黎のことなら何でもわかるに決まってるじゃない。黎の血か他の人間の血かの区別ぐらい一目でつくわよ。」

「どういう理屈ですか…。」

「愛情っていうのはそういうものなの♡」

 お嬢が黎にキスをする。

「お嬢、やっぱり可愛いですね。」

「また急にどうし…キャッ!」

 黎がお嬢をベッドに押し倒す。

「急ですか?今までもずっと思ってましたよ?」

 黎がお嬢の服のボタンを上から外していく。

「ま…待って…は…恥ずかしい…。」

「お嬢は俺が他の女性から好意を抱かれるのではないかと不安になり、嫉妬をするのかもしれませんが…」

「…あっ♡」

「それは俺も同じなんですよ。俺だってお嬢を、独り占めしたいんです。」

「…あんっ♡わ…私は…黎だけの…っあん♡女だよっ♡あんっ♡」

「それだけではまだ満足できません。お嬢と俺は2人で1人。そう思えるまで…側にいたいと思うのです。」

「もぅ黎ったら♡…あっ♡欲張りさん♡」

「俺の全てがお嬢の全てでお嬢の全てが俺の全てでありたい、それくらい俺は貪欲なのです。」

「うん…♡いいよ…♡私の全てを黎に捧げる…♡」

 そしてこれまで過ごしてきた夜のように2人は抱き合いキスをし一夜を共にするのであった。


 第十九章 切札編 ~完~


 次回 第百一話 識別
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

ぽっちゃりOLが幼馴染みにマッサージと称してエロいことをされる話

よしゆき
恋愛
純粋にマッサージをしてくれていると思っているぽっちゃりOLが、下心しかない幼馴染みにマッサージをしてもらう話。

処理中です...