【R18】世界線Ⅱ〜恋するお嬢とその舎弟達〜

石原歩

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第十八章 惑星編

第九十四話 木表

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「どんな世界?そりゃ難しい質問だねぇ?まぁ一言で言ってしまえばここは木の板の表面の様な見た目の惑星。」

「惑星…星…!?もしかして地球ですか!?」

「ちきゅう?なんだねそれは?ここは『木表』だよ。」

「きおもて…木の表面の芯から遠い側の名称でしたね…。世界線Ⅰには『木星』というガスでできた惑星があると書いてありましたが…」

「ちょっと黎!!そんなことよりこの人に何か言うことがあるんじゃないの!?」

「あ…すみません…助けていただいてどうもありがとうございました。」

「いいんだよ別に。あんた達この辺では見かけない服装ですごい音で何枚も壁をぶち破って街中大騒ぎになって、あっという間に有名だよ。しかし、あんた達あの方にそっくりね。特にお嬢ちゃんの方は髪の色と服装以外は瓜二つと言っていいぐらいだよ。」

 女性はお嬢の顔を見ながら言った。

「あの方?私にそっくりな人がいるの?」

「この国の『女王』様だよ。お嬢ちゃんと同い年ぐらいに思えるけど、お嬢ちゃんみたいに彼氏想いで優しい子とはとても思えないね…。この国の人達は皆あの方に怯えて暮らしているんだよ…。まさしく『暴君』といった感じで自分の気に入らない者は全て処刑してしまうんだ。今も処刑を控えてる罪のない者たちが控えているんだよ…。」

 暴君。

 その言葉が黎の頭の中にあの男の姿をよぎらせる。

「何よそれ!?酷すぎるじゃない!?何でみんな止めないのよ!?」

「逆らえないんだよ。女王様に仕える兵士たちは皆女王様の圧倒的な力を前に屈服させられ誰も太刀打ち出来る者がいない。故に実力主義でこの国は成り立っているんだ。あんた達もあまり目立つような行動はするんじゃないよ。」

 実力主義。

 そんな思想をもつ男が黎達のいた場所にもいる。

「そんなの間違ってるわよ!黎!今すぐその女王様を止めに行くわよ!」

「お嬢…流石に何の作戦も立てずに敵陣に乗り込むのは…」

「私の命令が聞けないっていうの!?」

「行きましょう、今すぐ。」

 お嬢は怒っていた。

「あんたたち!本気かい!?」

「もちろん本気に決まってるじゃない!おばさん、黎を助けてくれてありがとうね!」

「本当にありがとうございました。それでは俺達は失礼します。」

 そして黎を助けてくれた女性にお礼を言って民家を後にして街を探索した。

 すると街にいる人達がなにやらお嬢と黎の姿を見て怯えている様子だった。

「おい…あれ…まさか…女王様じゃねーか!?」

「そんな…どうしてこんな所に!?」

「違うわよ!あなた達!その女王様の居場所知ってるの!?」

「え、えっと、あちらの宮殿になります…。」

「そう、教えてくれてありがと。」

「…なんか女王様よりも怖くねーか?あのお嬢さん…。」 

「…ええ、なんだかただならぬオーラを感じたわ…。」

 周囲の人がざわめいている。

「あの…お嬢…なんかいつになく気合入ってますね…。」

「…そんなの…当たり前じゃない…。」

「…お嬢…そんなにこの国のことを…」

「だって私と瓜二つの女の子がいるなんて!それって私と同じぐらい可愛いってことでしょ!?もし万が一黎がその子のことを好きになっちゃったらどうするのよ!?そんなのぜっっったい許さないんだから!!」

 お嬢は本気だった。

 しかしその原動力は黎が想像しているものとは別のものだった。

「いえ…俺がそんなふうになることは…」

「ダメよ!恋のライバルとはちゃんと白黒つけなくちゃいけないの!これは女の宿命よ!!」

「…そうですか。」

 そして先程の民間人に教えてもらった宮殿にたどり着いた。

 その入口にはかなりの数の兵士が護衛のために見張っていたっていた。

「お嬢、これからどう…」

「正面から突破するわよ。」

「…大丈夫なんですか…?」

「黎が私を守ってくれるんでしょ?」

「はい、もちろんです。」

「何者…じょ…女王様!?」

 門番の兵士たちが動揺している。

 やはり相当似いてるようだ。

「ちょっとここを通してもらえないかしら?私はその女王様に用事があるのよ。」

「し…しかし…」

「パシンッッッ!!!ドカーーーーーン!!!」

 お嬢の左平手打ちが兵士の1人の顔に直撃して吹っ飛んだ。

「こ…これは…。」

 もう一人の兵士がお嬢に襲いかかる。

「カキィン!」

 黎が兵士の槍をナイフで弾く。

「カシャンッ!」

 そしてお嬢は兵士たちに、

「いい?私は南グループのお嬢でこの男は私のS級舎弟なの。しかも私の時期夫よ。私達に不可能なことはないの。よく覚えておきなさい。」

 と言うと兵士たちは後ずさりしてお嬢と黎は宮殿の中へ入っていく。

 その様子を見ていた民衆たちは非常に驚くと同時に僅かな期待を胸に抱いていた。

「お嬢、まずはこれから処刑される予定の監禁されてる者達の安全を確保した方がよろしいのではないのでしょうか?女王を討ち取ろうとしても彼らを人質に取られたら手も足も出せません。」

「…確かにそうね…」

「何者だ!?侵入者か!?…!?女王様…!?」

「ねぇあなた、監禁されてる人達が何処にいるか知らない?」

「…どういう…ことだ…」

 黎が兵士の背後をとり首元にナイフを突きつける。

「案内して頂けませんか?」

「…わ…わかった…。」

 そうして黎は人質をとり監禁部屋に案内された。

 するとそこは一つの部屋に複数の疲弊して弱った人間達が収容されている様な劣悪な環境であった。

 そして囚人の1人が、

「じょ…女王様…!?どうか…どうかお許しを…!」

 声を出すのもやっとだった。

 まともに食事も与えられていないのだろう。

「違うわよ!私は女王様じゃないわよ!顔が似てるらしいけど別人よ!それで兵士のあなた!牢屋の鍵を持ってるの!?今すぐ彼らを解放しなさい!」

「…それは…できませ…」

「ザシュッッッ!!!」

「グアッッッ!!」

 黎が兵士の首元を切りつける。

「致命傷は避けました。その様子だとお前は鍵を持ってるみたいですね。…これですか。」

「…!?ま…まって…くれ…家族が…娘と…妻が…女王様に…人質…とられているんだ…。」

「なるほど、それでここの兵士は皆女王の言いなりになってるんですね。」

「あなたそんな国で生きてて辛くないの?国を変えようとは思わないの?」

「…。」

「しかし、一斉にここから脱出させようとしてもここまで大勢となると周りの兵士たちに…ん?」

 通路の最奥になにやら頑丈そうな扉が黎の視界に映る。

「あそこには誰がいるんですか?」

「…!あそこ…だけは…!…いけません!」

「…なるほど。」

 黎は頑丈そうな扉に近づいていく。

「…その扉は…!」

 黎は扉の前に立ち、先程奪った鍵を差し込んで回してみる。

「カチャッ!」

「鍵を使い回すなんてセキュリティは案外脆弱なんですね。」

 そして鍵の開いた重い扉を黎は開く。

 そしてそこにいたある男に黎は衝撃を受ける。

「暴君…高柳…遥輝…!?」


 次回 第九十五話 平行
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