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第十八章 惑星編
第九十三話 山賊
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「ちょっと!さんぞくって何!?」
「書斎の書物に書いてあったと楓が言ってました!山中を拠点にして道で通行人を襲う者達で、やつらの狙いは金品です!俺達の格好は奴らと違い貴重なものを持っていると思われる可能性も高く、ここは元にいた場所とは違うため言語が異なり会話にすらならない可能性が高いです!それに今のお嬢と俺には魔法が使えないため武装集団のやつらには分が悪いです!」
「わ、わかったわ…!…キャッ!」
「ドスンッ!」
お嬢が地面の凹凸に躓き、黎の手を離して転んでしまった。
「お嬢!」
黎がお嬢のもとにかけつけてすぐ様お姫様抱っこをして山賊から逃げようとする。
黎はお嬢を抱っこしている分足取りが重くなる…と思いきや山賊との距離がどんどん拡がっていく。
「…黎…速い…。」
「何故かお嬢を抱っこしてると元気が出るんですよ。」
お嬢の顔が赤くなった。
そして山賊はあっという間に地平線の彼方へ消えていった。
「どうやら撒いたみたいですね。」
「黎…ありがとう…。」
黎は息切れ一つしていない。
「いえ、それより怪我の手当をしましょう。…水がないので擦りむいた右膝を洗うことは出来ませんが…」
黎はゆっくりお嬢を地面に座らせる。
そして黎は左腕のスリーブを外してそれをお嬢の膝に巻きつける。
「また水があったら綺麗に傷を洗って手当しましょう。」
「…黎…本当に王子様みたい…。」
お嬢は痛みの事など忘れずっと顔を赤くしている。
「俺はお嬢の舎弟ですよ。」
「私の夫になるんでしょ?そしたら王子様じゃない。」
「そういうことに…なるんですかね…?」
黎はなんだかおそれ多かった。
「…もし本当に俺が王子様なら…あの『暴君』に負けたりは…」
「…?黎…?どうしたの?」
「いえ、なんでもありません。それより、あそこに山賊がいるということは、人がいることに間違いはありませんし、あそこは人通りがあるということにもなりますね。」
「確かにそうね!」
「お嬢、俺にいい考えがあります。」
「いい考え?…キャッ!?」
お嬢は黎にお姫様抱っこされた。
「一気に行きましょうか。」
すると黎が先程山賊に追いかけられた方向に真っ先に走っていった。
「待って!そっちは…」
「俺はあいつらよりも速く走れますから大丈夫ですよ。お姫様。」
お嬢は『お姫様』と聞いて胸が熱くなった。
「…もうっ♡」
そして先程の山賊と黎が遭遇する。
山賊の1人が黎を指差してまた追いかけてくる。
黎は山賊のくる方向を真っ直ぐ行かずに集団をそれるように走っていく。
すると山賊と少し近い距離から突然、
「ヒュンッ!」
と何か風を切る音と同時に物が飛んでくるのを黎は感じた。
「…飛び道具を持ってるやつがいるんですか。」
「…黎…!」
「大丈夫です。俺に任せて下さい。」
「ヒュンッ!ヒュンッ!」
飛び道具はお嬢と黎目掛けて襲ってくるが当たらない。
しかし今度は、
「ヒューヒィヒューーーー!!!!」
という音が空全体に響き渡る。
「…あれはまさか…。」
「…!?今度は何!?」
「あれは恐らく…」
と言いながら黎は山賊の追ってくる方向とは反対側に目を向ける。
すると地平線の向こうから乗り物のようなものに乗った者たちが姿を現してくる。
「やはり来ましたか。」
「どういうことなの!?」
「さっきの音は『口笛言語』だと思います。遠くの者に口笛でコミュニケーションを取るために編み出された音です。そして今こちらに向かってきてるのは…。」
「黎…!追いつかれてきてる…!」
「あれは『馬』のようですね。『乗馬』の文化があるようです。人間より速いです。しかも…」
「ヒュンッ!ヒュンッ!」
「さっきの飛び道具を乗馬しながら扱える者がいて飛距離もあります。そしてこの飛び道具は恐らく『弓矢』でしょう。」
「…怖い…。」
お嬢が目を強く瞑る。
「お嬢、大丈夫です。とは言ってもお姫様を怖がらせてしまっては王子失格です。少しこっちもギアチェンジしなければなりませんね。」
黎の足がさっきよりもさらに速くなる。
とてつもない速さになりやがて風を切る音を置き去りにする。
馬の走る速さどころか矢の初速よりも既に速い。
お嬢と黎の声は黎の走る速度に置いていかれるため会話ができなくなる。
すると黎の目には街のような景色が視界に広がる。
しかし、
「ドカーーーーーーーーーーーーーーンッッッッッッ!!!」
と街の建物の壁に黎がぶつかる。
黎は意識が遠ざかる。
……………
「…ぃ。れぃ。黎。黎!」
「…お嬢…?」
「黎!大丈夫!?しっかりして!!」
お嬢が泣きながら黎に呼びかけていた。
「あ…俺…あの時…お嬢…無事ですか…?」
「もう!黎のバカっ!死んじゃったらどうするのよっ!?」
お嬢が黎を抱きしめて泣きつく。
「ここは…。」
黎が寝ていたのはとある民家のベッドだった。
数分前…
黎は壁にぶつかる寸前でお嬢を抱き抱えながら自らの背中がぶつかるように反対側を向いた。
しかしあまりの速度に建物の壁を何枚か破った末、ようやく止まった。
お嬢は無傷だったが黎は気を失ってしまった。
そこでお嬢が街の人達に助けを呼びかけ、ある1人の女性が黎を自分の家に目を覚ますまで寝かせてくれた。
そして現在…
「もうっ!ほんっっっとに心配したんだからっ!」
黎が起き上がる。
「すみませんお嬢、音速を魔法無しで超えたのが初めてで止まり方を考えてませんでした。」
「おんそくって何よ!黎が走ってる最中呼びかけても自分の声も聞こえないのよ!?」
「それが音速を超えてる、つまり音の速さを超えてる証拠ですお嬢…。」
「とにかく黎が無事でよかった…。」
お嬢は安堵したようで力が抜けた。
「おや、お嬢ちゃんの彼氏さんは目を覚ましたかい?」
黎が部屋の向こう側からやってきた女性に対しすぐにハッとする。
「…!?言語が一致してるんですか!?」
「ん?なにを言ってるんだい。頭でも強くうってどうかしちまったのかい?」
「ここは…!ここは一体どこですか!?」
黎が立ち上がって女性のもとに近づきながら尋ねる。
「ちょっと黎!落ち着いて!」
「ここはあたしの家だよ。みりゃわかるだろう?」
「いえ!そういうことではなく…!ここは…ここはどんな世界ですか!?」
次回 第九十四話 木表
「書斎の書物に書いてあったと楓が言ってました!山中を拠点にして道で通行人を襲う者達で、やつらの狙いは金品です!俺達の格好は奴らと違い貴重なものを持っていると思われる可能性も高く、ここは元にいた場所とは違うため言語が異なり会話にすらならない可能性が高いです!それに今のお嬢と俺には魔法が使えないため武装集団のやつらには分が悪いです!」
「わ、わかったわ…!…キャッ!」
「ドスンッ!」
お嬢が地面の凹凸に躓き、黎の手を離して転んでしまった。
「お嬢!」
黎がお嬢のもとにかけつけてすぐ様お姫様抱っこをして山賊から逃げようとする。
黎はお嬢を抱っこしている分足取りが重くなる…と思いきや山賊との距離がどんどん拡がっていく。
「…黎…速い…。」
「何故かお嬢を抱っこしてると元気が出るんですよ。」
お嬢の顔が赤くなった。
そして山賊はあっという間に地平線の彼方へ消えていった。
「どうやら撒いたみたいですね。」
「黎…ありがとう…。」
黎は息切れ一つしていない。
「いえ、それより怪我の手当をしましょう。…水がないので擦りむいた右膝を洗うことは出来ませんが…」
黎はゆっくりお嬢を地面に座らせる。
そして黎は左腕のスリーブを外してそれをお嬢の膝に巻きつける。
「また水があったら綺麗に傷を洗って手当しましょう。」
「…黎…本当に王子様みたい…。」
お嬢は痛みの事など忘れずっと顔を赤くしている。
「俺はお嬢の舎弟ですよ。」
「私の夫になるんでしょ?そしたら王子様じゃない。」
「そういうことに…なるんですかね…?」
黎はなんだかおそれ多かった。
「…もし本当に俺が王子様なら…あの『暴君』に負けたりは…」
「…?黎…?どうしたの?」
「いえ、なんでもありません。それより、あそこに山賊がいるということは、人がいることに間違いはありませんし、あそこは人通りがあるということにもなりますね。」
「確かにそうね!」
「お嬢、俺にいい考えがあります。」
「いい考え?…キャッ!?」
お嬢は黎にお姫様抱っこされた。
「一気に行きましょうか。」
すると黎が先程山賊に追いかけられた方向に真っ先に走っていった。
「待って!そっちは…」
「俺はあいつらよりも速く走れますから大丈夫ですよ。お姫様。」
お嬢は『お姫様』と聞いて胸が熱くなった。
「…もうっ♡」
そして先程の山賊と黎が遭遇する。
山賊の1人が黎を指差してまた追いかけてくる。
黎は山賊のくる方向を真っ直ぐ行かずに集団をそれるように走っていく。
すると山賊と少し近い距離から突然、
「ヒュンッ!」
と何か風を切る音と同時に物が飛んでくるのを黎は感じた。
「…飛び道具を持ってるやつがいるんですか。」
「…黎…!」
「大丈夫です。俺に任せて下さい。」
「ヒュンッ!ヒュンッ!」
飛び道具はお嬢と黎目掛けて襲ってくるが当たらない。
しかし今度は、
「ヒューヒィヒューーーー!!!!」
という音が空全体に響き渡る。
「…あれはまさか…。」
「…!?今度は何!?」
「あれは恐らく…」
と言いながら黎は山賊の追ってくる方向とは反対側に目を向ける。
すると地平線の向こうから乗り物のようなものに乗った者たちが姿を現してくる。
「やはり来ましたか。」
「どういうことなの!?」
「さっきの音は『口笛言語』だと思います。遠くの者に口笛でコミュニケーションを取るために編み出された音です。そして今こちらに向かってきてるのは…。」
「黎…!追いつかれてきてる…!」
「あれは『馬』のようですね。『乗馬』の文化があるようです。人間より速いです。しかも…」
「ヒュンッ!ヒュンッ!」
「さっきの飛び道具を乗馬しながら扱える者がいて飛距離もあります。そしてこの飛び道具は恐らく『弓矢』でしょう。」
「…怖い…。」
お嬢が目を強く瞑る。
「お嬢、大丈夫です。とは言ってもお姫様を怖がらせてしまっては王子失格です。少しこっちもギアチェンジしなければなりませんね。」
黎の足がさっきよりもさらに速くなる。
とてつもない速さになりやがて風を切る音を置き去りにする。
馬の走る速さどころか矢の初速よりも既に速い。
お嬢と黎の声は黎の走る速度に置いていかれるため会話ができなくなる。
すると黎の目には街のような景色が視界に広がる。
しかし、
「ドカーーーーーーーーーーーーーーンッッッッッッ!!!」
と街の建物の壁に黎がぶつかる。
黎は意識が遠ざかる。
……………
「…ぃ。れぃ。黎。黎!」
「…お嬢…?」
「黎!大丈夫!?しっかりして!!」
お嬢が泣きながら黎に呼びかけていた。
「あ…俺…あの時…お嬢…無事ですか…?」
「もう!黎のバカっ!死んじゃったらどうするのよっ!?」
お嬢が黎を抱きしめて泣きつく。
「ここは…。」
黎が寝ていたのはとある民家のベッドだった。
数分前…
黎は壁にぶつかる寸前でお嬢を抱き抱えながら自らの背中がぶつかるように反対側を向いた。
しかしあまりの速度に建物の壁を何枚か破った末、ようやく止まった。
お嬢は無傷だったが黎は気を失ってしまった。
そこでお嬢が街の人達に助けを呼びかけ、ある1人の女性が黎を自分の家に目を覚ますまで寝かせてくれた。
そして現在…
「もうっ!ほんっっっとに心配したんだからっ!」
黎が起き上がる。
「すみませんお嬢、音速を魔法無しで超えたのが初めてで止まり方を考えてませんでした。」
「おんそくって何よ!黎が走ってる最中呼びかけても自分の声も聞こえないのよ!?」
「それが音速を超えてる、つまり音の速さを超えてる証拠ですお嬢…。」
「とにかく黎が無事でよかった…。」
お嬢は安堵したようで力が抜けた。
「おや、お嬢ちゃんの彼氏さんは目を覚ましたかい?」
黎が部屋の向こう側からやってきた女性に対しすぐにハッとする。
「…!?言語が一致してるんですか!?」
「ん?なにを言ってるんだい。頭でも強くうってどうかしちまったのかい?」
「ここは…!ここは一体どこですか!?」
黎が立ち上がって女性のもとに近づきながら尋ねる。
「ちょっと黎!落ち着いて!」
「ここはあたしの家だよ。みりゃわかるだろう?」
「いえ!そういうことではなく…!ここは…ここはどんな世界ですか!?」
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