上 下
76 / 157
第十五章 大会編

第七十六話 詩

しおりを挟む
「ふむ…なるほど…。」

「楓さ~ん♡何を調べてるんですか~?♡」

 広間で楓が椅子に座って書物を読んでいるのを部屋から出た萌美が見つけ、楓に問いかける。

 因みに萌美は菱沼とすぐに仲良くなり同じ部屋の同じ布団で寝ていた。

「ああ、お前が歌う『歌』について世界線Ⅰにおける歴史を調べていてな。歌のようなリズムを取るよりもさらに遡った時代に『詩』というものが記録されていたみたいなんだ。『短歌』と呼ばれるものや『俳句』と呼ばれるものまで様々な様式があるようだが特に現代における『詩』はあまり明確なルールがないようだな。」

「なるほど~♡てことは~、萌美の作る歌も初めは言葉や文字から記録されていた可能性があるんですね~♡萌美はあまり気にしたことなかったので楓さんの着眼点って凄いんですね♡」

 楓は顔が赤くなってしまった。

「ほ、褒めても何も出ないぞ…?」

「萌美ちゃんおはよー!先に起きてたんだね!楓さんもおはようございます!」

 菱沼が部屋から出て元気に挨拶した。

「晶ちゃんおはよ~♡今日も可愛いね♡」

「いやいや萌美ちゃんの方が可愛いし女子力高いからー!」

「…こいつら…朝から元気だな…。」

 するとお嬢の部屋からお嬢、黎がやってくる。

「みんなおはよー。」

「みなさん、おはようございます。」

 お嬢と黎の挨拶にみんなが応える。

「楓ちゃんまた何か読んでるのー?」

「ああ、世界線Ⅰの…」

「楓さんは萌美が歌ってるような歌の歴史について色々調べてたんですよ~♡すごく勤勉な方ですよね♡」

 萌美が楓の言葉を先取りした。

「歌の歴史ですか?どんな内容だったんですか?」

 楓は先程萌美にした説明を皆にした。

「歌ってそんなに面白いのね!私にもかけるかしら!」

「お嬢様なら絶対に書けますよ♡萌美が作詞出来るんですからお嬢様ならすぐです♡」

「あら萌美ちゃん、ありがとう!早速書いてみるわね!」

 お嬢はペンと紙を自分の部屋の机から取り出して広間に持ってきた。

 黎は思った。

 萌美はその人気アイドルとしてこれまでファンに対応していたことから、おだて上手で人を動かす力に長けているのではないかと。

 そしてお嬢が広間のテーブルに座り迷う事なく何か書いている。

 書かれた内容は…

『だいすきよ わたしのおっとの たもとれい』

「すごいですねお嬢様!お嬢様と言えばやはり黎様ですよね!」

 菱沼は素でお嬢の事を凄いと思っているようだ。

「お嬢様って黎様と結婚してるんですね♡」

「あ、いえ…約束はしましたがまだ…」

「黎の分も書いてあげるね!」

「え…?俺の詩をお嬢が書くんですか…?俺の詩ですよね…?俺が書かないと俺の詩では…」

「できたわ!」

 黎があれこれ言ってるうちにお嬢が書き終えてしまった。

 そこに書かれた内容は…

『だいすきです おれのつまの みなみかほ』

「わー!お嬢様流石です!おしどり夫婦をうまく再現された完璧な詩です!」

「お嬢…それさっきのと…っていうか全部平仮名…せめてご自分の名前ぐらい…」

「すごく仲が良いんですねお2人とも♡お姫様と王子様が結ばれてるって感じで憧れます♡」

「よし!決めたわ!晶ちゃん、久々にアレやるわよ!予定は明日よ!」

「お嬢…まさか…」

 黎は嫌な予感がした。

「わかりました!手配は任せてください!」

 次の日…

「さあやってまいりました!本日はお忙しい中お越しいただき誠にありがとうございます!南グループ主催の大会!司会の菱沼です!本日は楽しい一日にしていってくださいね!尚、この大会に見事優勝された方には豪華景品も用意しております!」

 黎の嫌な予感は的中した。

「凄まじいな…南グループ…まさかオレの調べごとでここまで大事になるとは…。」

 楓は巻き込まれた側にも関わらず責任を感じている。

「気にしないでください。お嬢はそういう方なので…。」

 しかし以前の親睦会とは人数の規模が違い、会場は屋外となっている。

 恐らく南グループのこれまでの出来事によりさらに知名度が上がったことにくわえてファンを沢山持つ萌美が南グループのA級舎弟に加わった事が要因だろう。

「ったく!なんで俺様まで参加しなきゃなんねーんだよ!?あ!?」

「本当ですの。私達はデートで忙しいんですのよ。」

「おい!あの2人S級舎弟のリソス様と江戸村様じゃねーか!?」

「すげぇ!!俺本物なんて初めて見た!!」

 下級舎弟達がリソスと江戸村の存在感に圧倒されていた。

「オイゴルァ!!その豪華景品ってのはなんだゴルァ!?俺様が優勝するに決まってんだからさっさと教えやがれゴルァ!!」

 リソスの叫びが会場に響く。

「豪華景品はなんと!あの人気アイドル萌美ちゃんの豪邸になります!」

「わーーーーーーー!!!!」

「きゃーーーーーー!!!!」

 景品の内容を聞いた瞬間、一部の観客、いや、ほとんどの観客が歓声を上げた。

 そして舞台の上に萌美が姿を現す。

 


「本物だー!!!」

「もえみん最高ーー!!南グループ最高ーー!!」

 菱沼が萌美にマイクを渡す。

「皆の天使にお仕えしてます萌美です♡萌美は南グループの事務所に所属させて頂くことになりましたので~~~お家をこの大会の景品にさせて頂くことにしました♡」

「絶対優勝するーー!!!」

「もえみんの家は俺が頂くーーー!!!」

 観客の大会に対する熱量が大きく変わった。

「な、なんだこの迫力は!?」

「リ、リソス様が負けるわけありませんの!」

 リソスと江戸村が大衆の気迫に圧倒されそうだった。

「な~んだ。家だったら千佳がいくらでも作れるゾ。もっと美味しいものが食べられるとかがいいゾ。」

 千佳が鼻をほじって地面で寝そべっている。

「千佳、その姿勢は美しくありませんよ。」

 海斗が千佳を注意する。

「価値観というものは人それぞれだからな。なにがしかの魅力に惹かれる者もいるのだろう。」

 太陽は両腕を組んでいた。

 ……………

「香歩、面白そうなことしてるね。」

「キッキッキッキッキ…ボス、俺達も参加しましょうかぁ?」

「…めんどくせー…。」

「ボス、私にいい考えがあります。クックックックック…。」

「どうしたの?土屋。」

「…。」

「それは面白そうだね。そしたらちょっと行ってくるよ。」

 ……………

「それでは!初めの大会の内容は『詩』です!渡されたペンと紙に詩を書いて一番趣のあるものだとお嬢様に評価された方が優勝です!」

 そして菱沼は詩がどんなものなのか説明し、ルールを説明した。

 詩が書けたら各々割り当てられた番号を詩の裏に記入し、提出用のボックスに投函するように伝えた。

「それでは、初める前にお嬢様から一言あります!」

 するとお嬢が舞台に姿を現す。

 黎は舞台を見ているともう一人の男が舞台に上がってくるのが見えた。

「皆さん!舞台から離れてください!」

 黎が人混みをかき分けながら叫ぶ。

 舞台上では…

「あ、あの…?あなたはどちら様でしょうか…?」

 菱沼が男に問いかける。

「高柳遥輝だよ。香歩の兄さんのね。」

「お…お嬢様の…。」

 菱沼は身動きが取れなくなった。

「晶ちゃんどうしたの?この人は?」

「萌美ちゃん…逃げ……て…。」

「そんなに怯えなくて大丈夫。」

 お嬢が遥輝の前に姿を現す。

「久しぶりだね。香歩。」

「あなた…何型…?」

「O(オー)型だよ。」

「お嬢!逃げてくださ…」

「パシーン!!!ドーーーーーンッッッ!!!」

 遥輝がお嬢に左手で平手打ちされ大衆の方に吹っ飛んだ。

「だからあなたの顔に蚊がとまってるのよ!!昔花梨ちゃんが言ってたんだから!!O(オー)型の人は他の血液型の人と比較して蚊に刺されやすいのよ!!気をつけなさいよ!!全く!!」

 お嬢の説教相手の遥輝は気絶していた。

「…お嬢…大丈夫…そうですね…。」

「あら、黎、どうしたの?」

「お嬢、左手のひら、一応確認してみたほうがいいですよ。」

「左手のひら?…キャーーーッッッ…!虫ッ…!?何よこれ…!?助けて黎ッ!!」

「ではお手洗いに行きましょう。」

「早く連れてって!!」

 お嬢と黎はお手洗いに行った。

「晶ちゃん、大丈夫?」

 萌美が固まっている菱沼に声をかける。

「…お嬢様…!凄いです!!」

 菱沼がマイクを持ち直す。

「皆さま!色々ありましたが、始めてください!」

 菱沼の開始の合図とともに次々と詩を書き上げ投函する。

 黎とお嬢が会場に戻って来る。

「もう!最悪よ!!」

「まさかまた現れるとは…。あの男がここにいるということは…。」

 ……………

「俺様が書くことなんて最初から決まってる!」

『おれさまわ いとしのつまが みなみか』

「ドカーーーーーンッッッ!!!」

 リソスが詩を書いている最中に何者かに頭を蹴られ気絶した。

「あなたは失格よ。」

「ちょっと!!私のリソス様になにをするんですの!?」

 お嬢は江戸村の詩を読んでみる。

『♡♡♡♡♡リソス様♡♡♡♡♡ ♡♡♡♡♡私の私のリソス様♡♡♡♡♡』

「あなたは優勝候補よ。」

「え!?ほんとですの!?」

「ええ、その一途な愛を貫く姿勢は素敵よ。これからも一生この男と人生を共にしなさい。」

「やりましたのよリソス様ぁぁぁ♡♡♡」

 江戸村が気絶しているリソスを揺さぶりながら喜ぶ。

「千佳…なんですかその詩は…。」

 海斗は千佳詩を見て言う。

『ちかは きょうのゆうはん なににしようか なやんでるゾ はんばーぐにしようか すぱげってぃにしようか あ、そうだ、どっちもたべればいいんだゾ ちかはちゃんとこういうことがかんがえられてえらいゾ』

「千佳の詩だゾ!」

「詩に明確なルールはない。思ったことを素直に書けばいいのだ。」

 海斗は太陽の詩を見て目を丸くする。

『こんにちは となりのチワワも こんにちは』

「…これが…太陽の…素直に思ってること…ですか…?」

「日のいずる砦で陽を眺めている時に道に迷ったチワワが時々やってくるのを思い浮かべて書いたものだ。」

「…そう…ですか…。ていうか…太陽犬の世話を…?」

 海斗はこう書いた。

『美しき 海の眠る 姫の横』

 ……………

「やっぱりお前達もここにいたんですか。」

「おぉ?お前は黎じゃねぇかぁ?久しぶりだなぁ?」

 しかし黎は影山が詩を書いていることに気づき、その内容に驚いた。

『うちのボス 毎日なぐる もうしんどぃ』

「お前…!?」

 そして陸斗の詩にも目をやる。

『めんどくせー おれのぼす めんどくせー』

「…!?」

 そして最後に土屋。

『高柳 終りが来るのは もう近い』

「お前達…まさかわざと…!?」

「少々南グループのお嬢様の手をお借りさせて頂きました。ボスがお嬢様に倒された時の出来事を再現するためにあらかじめボスの顔にカルボン酸という蚊が寄ってきやすい成分を右頬に付着させて舞台にお嬢様と鉢合わせるように仕向けたのです。」


 次回 第七十七話 回転
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

お屋敷メイドと7人の兄弟

とよ
恋愛
【露骨な性的表現を含みます】 【貞操観念はありません】 メイドさん達が昼でも夜でも7人兄弟のお世話をするお話です。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

【完結】令嬢が壁穴にハマったら、見習い騎士達に見つかっていいようにされてしまいました

雑煮
恋愛
おマヌケご令嬢が壁穴にハマったら、騎士たちにパンパンされました

【R18】隣のデスクの歳下後輩君にオカズに使われているらしいので、望み通りにシてあげました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向け33位、人気ランキング146位達成※隣のデスクに座る陰キャの歳下後輩君から、ある日私の卑猥なアイコラ画像を誤送信されてしまい!?彼にオカズに使われていると知り満更でもない私は彼を部屋に招き入れてお望み通りの行為をする事に…。強気な先輩ちゃん×弱気な後輩くん。でもエッチな下着を身に付けて恥ずかしくなった私は、彼に攻められてすっかり形成逆転されてしまう。 ——全話ほぼ濡れ場で小難しいストーリーの設定などが無いのでストレス無く集中できます(はしがき・あとがきは含まない) ※完結直後のものです。

処理中です...