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第十二章 唯一神編

第六十四話 原像

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 書斎で4人が引き続き調べ物をする。
 
「皆さん楽しんで頂けてますか?ウッフフフフ…。」

 すると突然4人の耳に聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 4人は書斎の入口の扉から声がするのを聞き、書斎に目をやると、そこには八代花梨の姿があった。

「花梨ちゃん!?」

 お嬢が八代に呼びかけると八代は、

「パチンッ!」

 と指を鳴らす。

「キャーーーッ!!!」

 お嬢が突然悲鳴を上げたのは、八代が指を鳴らしたと同時に辺り一面夜空のような地面のない景色でお嬢と黎が宙に浮いているからだ。

 八代は書斎に入ってきた時の立った姿勢のまま冷静に2人を見つめている。

「世界線Ⅰを原像として創り出した世界線Ⅱというこのワタクシが創り出した世界については、皆様の思っております通り、ワタクシは何でも知っております。改めまして自己紹介致します。ワタクシは南グループの初めの舎弟であり、1番目のS級舎弟の『アイ・カリン』と申しまして、南源蔵様をこの世界に召喚しました張本人でもあります。」

「アイ・カリン…S級舎弟の4人目『i』は存在していて…その正体は神であり…八代だったのですか…?」

「花梨ちゃん…!どうしてこんなことするの!?私達のこと、ずっと見ていたんでしょ!?一体何が目的なの!?」

「それはワタクシを倒してからお答えしなければなりません。しかしワタクシに挑む前に皆様には挑戦権が必要となります。さらにワタクシを倒せればBの掟の十一番目を南グループは成し遂げることができる可能性がございます。」

「十一番目の掟を八代を倒すことで成し遂げられる…?どういうことですか?」

「はい。ここまで色々調べて頂いた皆様に敬意を示しまして折角なのでお伝えします。Bの掟其の十一、唯一神の座をさらなる相応しき者が新たに君臨し、完全無欠な世界を創り上げること。です。」

「神の座を…他の誰かと入れ替え、入れ替わった者がこの世界を変えろということですか…?」

「その通りです。ワタクシはこの世界の全てを知ることができるので今まで通り皆様のこれからの経緯も理解することができますが、皆様ならきっと恐らくワタクシへの挑戦権を獲得できるとふんでいます。それにワタクシは先程も言いましたが世界線Ⅰを原像としてこの世界を創り出したので唯一神としての在り方は基本的には傍観主義です。特定の組織や団体、個人に介入することはございません。」

「その話からすると、南源蔵のいた世界線Ⅰのいた神は人間には何も干渉していなかったようなニュアンスですね。」

「それでも何かにすがりたいと思う特定の人間は、実在するかもわからないそんな神々を信仰していたのですよ。何はともあれ、この世界ではワタクシが一応存在している事はお伝えしておきましょう。」

「ねぇ花梨ちゃん。」

「なんでしょうかお嬢様。」

「あなた何でもこの世界を自由自在にできるのよね?」

「はい。その通りでございます。」

「という事はあなた、人間に負けたことなかったのでしょう?」

「…と言いますと?」

「あなた、黎に惚れ薬をかける前に、黎に気分がどうかと聞かれて『あと少し…』と答えたみたいね。私の言いたいことがわかるかしら?」

「………。」

「唯一神でこの世界を何でも自分の好きなようにでき、全てが手に入ると思っていたあなたに唯一手に入れることができなかったもの、それは黎の心だと私は言いたいの。純粋な心の私に黎をめぐる恋の勝負で黎の初めてを処女であった私にとられもして、初めて敗北感を味わったあなたはとても悔しくて自身の処女も黎に捧げたけれどもそれでも満足できず逆恨みで私達にちょっかいを出している。違う?」

「………ウフッ…ウッフフフフフフフ…流石はお嬢様ですね。相変わらずとても面白い方です。どうしてそのように思われるのですか?」

「女の勘よ。」

「………。」

「言っとくけど、私は黎と結婚の約束もしているの。黎は私にとって大事な存在なの。絶対に失うわけにも、他の女の子にも取られるわけにもいかないの。私はその恋敵が神様だろうと容赦をしないと思ってるの。それだけよ。」

「…そうですか。確かにお嬢様のおっしゃる通りワタクシも黎様に恋心を抱いていてそれを諦めきれないのは事実です。ですがかくいう黎様も世界線0を創造されたいわゆる神のような存在です。そんな黎様のお相手には誰が相応しいのかは既に分かりきっていることでございます。黎様ご本人にはまだご判断が…」

「いえ、俺は自分が神だという認識もありませんしお嬢との結婚もお嬢のおっしゃる通りしっかり約束しています。この決意に揺らぎはありません。」

「…そうですか。ですが…次こそは負けません。勝負は、まだ始まったばかりです。」

「あらそう。いつでもかかってきなさい神様。黎を好きな気持ちで私に勝てる相手なんてこの世に人間だろうと神様だろうと存在しないことを証明してあげるんだから。」

「はい。それではワタクシも遠慮する必要はございませんね。今回はこれで失礼いたします。また近い内に、この世界のどこかでお会いしましょう。」

「シュンッ!」

 そう言ってかつては八代花梨であったアイ・カリンは姿を消してお嬢と黎は気づくと元の書斎に戻っていた。

「お嬢!黎!大丈夫か!?」

「花梨お姉様も、2人も突然いなくなって驚いたよ…。」

 楓と紅葉は突然現れたアイ・カリン、彼女たちにとっての姉妹である八代花梨とともにお嬢と黎が姿を消し、今2人が戻ってきて安否を確認した。

「はい、大丈夫です。お嬢も俺も無事ですよ。」

「でも花梨ちゃん、いや、アイ・カリンを倒すという目標が一つ出来たわね。」

「お嬢。」

 黎がお嬢に呼びかける。

「ええ。」

 お嬢が黎に応える。

 2人は顔を見合わる。

 髪色だけが違う瓜二つの2人が見合ってるすがたはまるで2人の間に鏡が挟んであるかのようだった。

 髪の長さは同じ。顔の輪郭もパーツも瞳の色も形も全て同じ。利き手だけが違う。お嬢は左利きで黎は右利き。いや、本当は間に鏡があって逆に見えてるのかもしれない。

 お嬢は左手を、黎は右手を掲げ2人の手のひらが重なる。まるで1人の人間が鏡に手を当てているだけかのようにタイミングが合う。

 そしてお嬢と黎は声を揃えて言う。

「さあお嬢、始めましょう!待っててください神!最後に勝つのは俺達です!」

「さあ黎、始めるわよ!待ってなさいよ神様!最後に勝つのは私達よ!」


 第十二章 唯一神編 ~完~


 世界線Ⅱ~お嬢とその舎弟達の物語~


 前奏曲(プレリュード) 終了


 世界線Ⅱ~お嬢とその舎弟達の物語~


 主題(シィーム) 序章


「さぁ、動き出しました。始まりますね。新たな運命が。今や存在しない世界線0へ導かれた源蔵様もさぞ喜ばしいことでございましょう?やはりワタクシがあなた様をこの世界に導いたことは間違いではなかった…」

「汝…さらなる新たな神を求めついに動き出すのか…。」

「ウッフフフフ…主に対する礼節をわきまえぬ卑しいかつての神が何を…」

「汝…Bの掟の啓示の時、新たなる神にならん者への挑戦と捉え…」

「これ以上の発言は神への冒涜(ブラスフェミー)及び主に対する不敬罪(ディスリスペクトフル・シン)と致しますよ?ここは世界線Ⅱの中でも神の領域、全てがワタクシで決まる場所です。この意味がおわかりになりましたらあなたがたは精々大人しく居眠りでもしていてください。ワタクシはこれまでもこれからもどなたの味方をする訳でもありませんし、あなたがたにもそうしてきたつもりでしたが、ここぞとばかりに唯一神の座を奪わんとワタクシに挑み敗れ捕らえられたかつての神々、それがあなたがたの今の姿です。二度と同じ過ちをを犯さぬようよく覚えておいてください。ウッフフフフ…。」


 次回 第六十五話 神秘
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