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第五章 血縁編

第三十話 粛清

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 倉庫に残っているのはついにお嬢と黎と、八代姉妹だけとなった。

 天宮はいつの間にか何処かへ消えてしまっていた。

「ねぇ…あなたたち…姉妹なんでしょ…?どうしてこんなことするのよ…。」 

「お嬢様…!いけません…!このお2人は…」

「ドカンッッッ!!!」

 紅葉が八代の側に巨斧を振り下ろす。

「花梨お姉様のお嬢様ってバカなんだね。血縁関係だろうと高柳グループは目的のためなら手段を選ばないんだよ。」

 紅葉が答える。

 黎にはわかる。この姉妹とさっきの機械兵士は陸斗達とは格の違う戦闘力を兼ね備えており、さらに南グループ側は八代まで人質にとられているため、あれだけA級舎弟達の助太刀を借りてもまだ分が悪いことを。

「ねぇお願い…あなた達と争いたくないの…花梨ちゃんを返して…。」

 お嬢が泣きながら2人に訴える。

 そういうお嬢に楓がお嬢の元に歩み寄る。

「お嬢!下がってください!」

 直ぐ様黎が間に入る。

「紅葉、バカというのはあのお方に失礼だぞ。オレはコイツらの度胸を買ってやる。だが…」

「シャキンッ!」

 黎の首元に槍の先端が向けられる。

「オレ達がお前達と争って負けるなど誰が決めた?」

 楓の表情が険しい。

 黎にも気づいていた。お嬢と黎が力を合わせてもこの姉妹に絶対に勝てるという保障がないことを…。しかし、

「それでも、俺は八代を守るとお嬢と約束したんです。お嬢があなた達と争いたくないと思っている以上、俺もそのつもりはありません。」

 と、黎は一歩も引かなかった。

「………いいだろう。ひとまず花梨を返してやろう。」

「楓お姉様、本気?」

「だが忘れるな。こちらはその気になればいつだって花梨を攫うことなど容易い。」

「そんな…。」

 お嬢は黎の後ろでしがみついて怯えていた。

 すると楓が花梨の元にゆき、花梨を解放してお嬢と黎達の元へ向かわせる。

 お嬢が花梨を涙を流しながら抱きしめる。

「…こちらの要求に応えていただきありがとうございます。それでは俺達は失礼し…」

「待ちな。」

 楓が黎の言葉を遮る。

「…なんでしょうか。」

「お前達に会わせたいお方がいる。」

「…一体誰なの…。」

 とお嬢が聞くと、

「ボクたちのボスだよ。」

 と紅葉が答える。

 高柳グループのボスが直接来るのか?

「もうじきお越しになるだろう。」

 すると黎はとてつもない邪気を感じ始める。

 …黎達の元に足音が聞こえてくる。

「お嬢、八代、絶対に俺の側を離れないでください。」

「…うん…。」

「…はい…。」

 するとある男が黎達の元に姿を表した。

 身長はお嬢と黎よりも高い。

 髪と瞳の色はお嬢と同じような赤色だが髪の長さはお嬢のように長くない。

 そして男は立ち止まり。口を開く。

「随分と大きくなったね。香歩。」

 男はお嬢を知っているかのように馴れ馴れしく呼んだ。

「…あなた…誰…。」

「遥輝だよ。高柳遥輝。ああ、元々は南遥輝だったけどね。」

「遥…輝…?それに…南って…。」

「そう、君の兄さんだよ。香歩。それも血縁のね。」

「そんな…私…南家で一人娘だったはずじゃ…?」

「それは父さんが香歩にしていた表の話だと思うよ。父さんは実力主義者だったから俺が3歳の頃に父さんとその舎弟達を力でねじ伏せて以来俺は南グループを出て、苗字を変えて自分たちの組織を作ったんだ。香歩はその頃まだ1歳だったから覚えてないのも無理はないよ。」

 黎は衝撃を受けた。3歳で大人達の力を上回った?しかも相手はあの元南グループのボスであった南源蔵とその舎弟達複数を相手に?

 そして誰よりも驚いていたのはお嬢だった。

 突然存在の知らなかった生き別れた兄との再会を果たしたのだから。

「それにしても、あの南グループをここまで香歩が大きくするなんて大したものだね。」

「…私の力だけじゃないわよ…。みんなのおかげよ。…それにあなた…私の舎弟達にどうして酷いことばかりするのよ…。」

「人聞きが悪いね。俺は直接命令してるわけじゃないし、俺の舎弟が勝手にしてることだよ。俺は舎弟達に自由を与えてるんだ。俺だって自由になりたくて家を出たわけだしさ。まあでも、高柳グループで成果を出さない舎弟は粛清するけどね。」

『粛清』。その言葉を聞いてお嬢はあの時みた悪夢を思い出した。

「そうだね、例えば…。」

 そう言って遥輝が天宮にやられて倒れた土屋の方に向かって行った。

 そして遥輝が屈み込んで土屋の髪を掴んで顔を上げさせ、

「土屋?まだ生きてるよね?まだ動ける?」

 と言うと、土屋が目を覚まして…

「ボ、ボス…申し訳ございません…天宮のやつ…」

 土屋がそう言いかけた途端、

「ドカッッッッ!!!!!」

 土屋が遥輝に蹴られてお嬢達の方に飛んできた。

「ちょっとあなた…!何して…!」

 瞬く間に遥輝が土屋のもとへゆき、土屋を仰向けにして馬乗りになり、

「グシャッ!」「グシャッ!」「グシャッ!」「グシャッ!」「グシャッ!」「グシャッ!」

 遥輝が土屋の顔面を何度も殴り続ける。

「ちょっとあなた!!止めなさいよ!!」

 お嬢が止めにかかりに行こうとするのを黎が、

「近づいてはいけません!お嬢!」

 と止めにかかる。

「この男は…この男はこれでも自分の力の1%も出していません…。」

 その言葉を聞いた遥輝は黎を見て、

「香歩の舎弟、いや、ほぼ彼氏みたいだけど、なかなか人をみる目あるね。」

 と言った。

 遥輝の両手には土屋の血が滴る。

 そして原形は最早なく赤く染まった顔をし、完全に気絶した土屋に向かって、

「土屋?生きてる?今日のところは香歩に免じて許してあげるけど、次はないからね?」

 と言い放った。

「あとは影山と陸斗か。」

 遥輝は思い出したように言った。

「…あなた…最低よ!」

 そう言うお嬢に悪びれもなく遥輝は、

「それで本題なんだけどさ、南グループ、うちの高柳グループの傘下に入らない?」

「あなた正気!?お断りに決まってるじゃない!!」

 お嬢の怒りは限界寸前まで達していた。

「そっか。賢い選択ができないのは残念。じゃあ今まで通り、香歩の舎弟の命の保障はできないね。今日のところは引き上げるとするよ。楓、紅葉、行くよ。」

 楓と紅葉は遥輝を先頭にその場を後にして行った。

「ちょっとあなた!どういう意味よ!!待ちなさい!!」

 お嬢が立ち去っていく遥輝に向かって叫ぶ。

「お嬢!落ち着いてください!」

 そんなお嬢を黎が止めて落ち着かせようとする。

 黎は今のところ全員が一命をとりとめた事には安堵したものの、お嬢のことが心配だった。

 黎は考える。

 あの高柳遥輝というお嬢の血縁の兄。高柳グループのボスのようだがとてつもなく冷酷無慈悲で自分の舎弟を痛めつけることに全く躊躇いがなかった。それに戦闘力も底知れない。黎がわかったのは彼があの時まだ自分の力の1%も出していないということ。

 屋敷に戻る道中、お嬢はずっと黙ったままだった。

 黎は感情を読み取ることもできたが、干渉しすぎてはいけない気がしてお嬢の感情を読み取らなかった。

 そして気持ちが複雑だったのはお嬢だけではないだろう。

 八代の姉と妹。情報を知りたかったが今はその時ではないことを黎は理解していた。

 そして3人は屋敷に到着する。

「皆さん!おかえりなさいませ!ご無事で良かったです!八代さん!すぐに手当しましょう!」

 菱沼が出迎えてきてくれた。

「千佳は戻ってないのですか?」

 黎が陸斗を押し上げた柱を思い出して聞いた。

「はい、あの後千佳様はお目覚めになってから、『アイツ絶対に許さないゾ!』とおっしゃって飛び出して以来…。」

 その頃千佳は…

「ここは何処だゾ?アイツにムカついて飛び出して来たものの迷子になってしまったゾ…。まぁ千佳は家を造れるから何処に居ても大丈夫だゾ!」

 そしてお屋敷にて…

「なんとか無事だといいですが…。」

 そしてずっと黙っていたお嬢が、

「黎、今回は随分長旅だったし、お風呂に入るわよ。」

「お嬢、お先に入って…」

「一緒に入るわよ。」

 お嬢が黎を風呂場まで腕を引く。

「ほら。服、脱がしてあげる。」

「…自分で脱げますよ…。」

 黎にはお嬢の考えてることがわからなかった。お嬢の感情を読み取っていないから。

「黎。」

「…なんでしょうか?」

「私のも脱がして。」

「…それはご命令ですか…?」

「…命令じゃないわ。お願いよ。」

 黎はお嬢の後ろに手を回してお嬢の服を脱がす。

「…さぁ、入るわよ。体も私が洗ってあげるわ。」

「…いえ、ですから…」

「これから私と一夜をともにするんだから、清潔感は大事よ。それと…」

「…はい…?」

「…お風呂場は…ちょっと明るすぎるわね…。」

 なんだかお嬢が恥ずかしそうにしている。

 黎はお嬢に体を洗ってもらうと、

「黎、私の体も洗って。」

「…わかりました。」

 黎は泡を手に取り、その手でお嬢の肌に触れる。

「………ッ!」

 黎の手がお嬢の肌に触れるとお嬢が少し声を上げそうになる。それにお嬢の体が少しビクビクしてる。

 くすぐったいのだろうか。

 お嬢は口元をずっと左手で抑えている。

「…お嬢、大丈夫ですか?」

「 …だ…大丈夫…よ…続けなさい…。」

「…ですが、口元を手で抑えていると、手を洗う時に口に泡が入ってしまいますよ…。」

「そ…そうね…。」

 お嬢がゆっくり左手を離してから黎が左手を丁寧に洗う。

 そして黎がもう一度泡を手に取り、

「では、今度は体全体的に柔らかく撫でるようにして洗っていきますね。」

「…えッ…!…うそっ…!」

「お嬢、体を洗う時は強くゴシゴシ洗うよりも丁寧に撫でるようにして洗うほうが肌へのダメージが少なくていいんですよ。」

 すると黎の手が再びお嬢の肌に触れる。

「…あッ…!」

「…どうかされましたか?」

「…ちょッ…待って…」

 お嬢の息があらい。

「ダメですよお嬢。十の掟その一、人と交わした約束は絶対に守ること。でしたよね。俺はお嬢の体を洗う約束をしたんですからそれは守らないといけません。さぁ続けますよ。」

 黎がお嬢の肌を撫でる。

「…あッ…イヤッ…!」

 お嬢の体がさっきよりもビクビクしてる。

 お嬢の手は泡だらけで口を抑えることもできない。

「イヤと言われても止めませんよ。それに…」

 黎が不気味な笑みを浮かべてお嬢の耳元で、

「一夜をともにするのに清潔感が大事と言ったのはお嬢なんです。本番は…まだまだこれからですよね?」

 と囁く。

「…だッ…ダメッ!」

 それでも黎は撫で続ける。

「…黎ッ…私…もう…我慢できなッ…」

「いいですよ。ここでイッてしまってもお嬢へのお楽しみはまだまだ沢山残してありますから…。ンッフフフフフッ…。」

「…ッあんッ…!♡」

 お嬢は絶頂に達したようだった。

 ぐったりして痙攣し続けるお嬢を黎は支える。

 お嬢は体の全てを黎に委ねてしまう。

 そんなお嬢の体を黎はさらに撫で続け、風呂場からは幾度となくお嬢の喘ぎ声が響き渡るのであった。


 世界線Ⅱ 第五章 血縁編 ~完~


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