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第五章 血縁編

第二十六話 沈没

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「よくやったなぁ土屋ぁ?南グループを動揺させ、敵陣の弱点を暴くことにしては十分な成果だと思うぜぇ。キッキッキ…。なぁ天宮ぁ?」

「………。」

「私にしてはもう一押ししたかったところですね。あのグループは馬鹿が多いので。ただ、中には少々頭のキレる隠し玉のような者を持っているようでしたね。私が変装して屋敷に伺ったときも警戒されてましたし。」

「ならそいつ攫っちゃえばよくね?小賢しいことされるとめんどくせーし?竜巻の襲撃もそいつに読まれて失敗したかもしれねーだろ?」

「キッキッキッキッキ…そいつぁおもしれぇなぁ…。南グループの情報もそいつから聞き出せそうだしなぁ?土屋ぁ、お前物足りなかったなら、行ってくるかぁ?」

「ええ、そうですね…クックックックック…。それと、陸斗、あなたも一緒にどうですか?」

「…めんどくせー…」

 ……………

「…ねぇ…黎…。」

「なんでしょうか、お嬢。」

 同じ布団で2人はベッドで隣り合わせに横になりながら話す。

「…初めて…だったのよね?」

「…なにがですか?」

「…私が…初めてじゃ…ないの?」

 お嬢が黎を見つめて、黎もお嬢を見つめる。

「…俺の記憶…持ってますよね…?」

「…黎の口から…聞きたいの…。」

「…勿論、お嬢が初めてですよ…。」

「…私も…黎が…初めて…。」

「…しかし、本当によろしかったのですか?舎弟の俺が…」

 黎がそう言いかけた時、お嬢が唇で黎の口を塞いで、

「黎が良かった…。」

 と言い、

「…黎、すごく大胆で私ずっとドキドキしてた…。私、あんな黎見たの、初めて…。」

 そしてお嬢が黎にまたがって、

「今度は…私の番ね…。絶対に離さないんだから…。」

 と言う。

 ……………

「リソス様ぁぁぁ♡この私を抱きしめて欲しいんですのぉぉぉ♡」

「わかったわかった!ほら!これでいいか!?」

 リソスが嫌々ながら江戸村を前から抱きしめる。

「まだまだ足りないですのよぉぉぉ♡」

「テメェこれデートっつわねーだろが!なんかちげーだろ!?こんなのが1ヶ月も続くのかよ!?」

「『咲』って呼んで欲しいんですの!♡」

「っチッ!ったくしょーがねーな…。」

 するとリソスが目を瞑って江戸村の後ろに周った。

 そして目を見開いて、

「咲、こんなに着てたら暑いだろ?12枚も着てたら脱がすの大変なんだぜ?」

 と江戸村の耳元で囁いて十二単衣を1枚ずつ脱がす。

「キャッ…♡♡♡」

「ほらっ、こっちこいよ。ったく、しょーがねーやつだな。俺様の側から離れんじゃねーぞ?それと…」

 リソスが江戸村を抱きかかえてあぐらをかいて自身の脚に座らせ、江戸村の顎に手を回して江戸村の顔をのぞき込んで見つめて、

「俺様意外の男には見向きをするな。これは俺様からの命令だ。もし逆らったら…その口塞ぐぞ?」

「キャーーーーーッッッッッッ♡♡♡♡♡」

 江戸村は興奮のあまり気絶した。

「…結局コイツの相手はこれが一番楽だぜ…。」

 ……………

「ジャジャーン!遂に完成したゾ!名付けてムテキの城郭都市3号だゾ!」

 お嬢と舎弟達は驚いていた。

 以前の屋敷の周囲の景色とはうってかわってそれはまさに千佳の言う通り城郭都市という他ない。屋敷の周囲に建物は特にないため屋敷を大きな壁で取り囲む。そしてそこから少し離れた住宅街を取り囲む城郭を彼女一人で作ってしまったのだ。

「1号と2号も作ったことがあるんですか?」

「うーん、忘れちゃったゾ。」

「周りの人の被害も最小限に抑えなくてはいけないから立派な城郭も作ってもらったし彼女はとても偉いわよ。」

「わーい褒められたゾ!」

「それにしてもお嬢様、このように大規模な防衛体制に入ったことで周囲の一般人の方々の不安をかえって煽ってしまって反感を買ってしまうことにもなりかねないのではないでしょうか?」

 菱沼の言う事ももっともだ。

「そのことなら、予め舎弟達に城郭内と、その境界付近に住む人達の全住宅に事情内容を書面で輸送するように連絡したわよ。」

 さすがはこの世界最大規模の組織だ。仕事が早い。だがそれでも納得しない者はいるだろうが何もしないよりはマシだろうと黎は思った。

「それにしてもあの竜巻は八代は人為的に生成されたものだとおっしゃっていましたが、誰の仕業なのか目処がついているのですか?」

「まだ確定したとは言えませんが、この間お屋敷を襲撃してきた組織の誰かの可能性があります。そしてワタクシはあの組織にどこか見覚えがありました。」

 するとお嬢があの時の出来事を思い出す。

「花梨ちゃんやっぱりあの組織のこと、何か知ってるのね。」

「はい。それでは皆様一度広間に入ってワタクシの知ってる限りのお話をさせていただきましょう。」

 そう言ってお嬢達は八代について行った。

 そして八代は時前のノートパソコンのフォルダの『組織一覧』という項目から『高柳グループ』という項目を開いた。

「高柳グループ…。」

 お嬢が呟いた。

「ええ、目的のためならば手段を選ばないという点では革命前の南グループとの共通点がございます。最近情報機関から南グループを敵視しているとの連絡が入るようになり現在警戒中の組織の一つになります。」

 そしてそのファイルの中に『名簿』という項目があり、八代がそれを開いてみると数々の名前があるが、どれも皆知らない名前ばかりだった、はずだったが、

「あ!コイツ知ってるゾ!」

 千佳が唐突に声をあげ画面に指を差した。

 そこには『土屋』と書かれた名前があった。

 名簿の振り分けを見る限り高柳グループではかなりランクの高い部類に当たるようだ。

「千佳ちゃん!顔とか、何か特徴とか、覚えてない!?」

 お嬢が千佳に尋ねる。

「うーん、なんか千佳に弟子入りしたいって言い出して沢山軍を率いていたゾ。でも突然明るかった空が暗くなった時にチームを分けるとか言って別行動したら突然姿を消してしまったんだゾ…。顔はよく覚えてないゾ…。」

「黎の皆既日食の時ね…。」

「…ええ…。」

 お嬢と黎は思い出す。あの時の黎の偽物、あの時の大勢の軍団。

「八代、例の反革命運動を陰で操っていたのは…」

 八代の表情はかなり集中していた。

「恐らく、彼は、変装ができるのかもしれません。もっと言ってしまえば…」

 全員が八代の言葉を待っていたその時だった。

「”外部ヨリ侵入者確認"、"外部ヨリ侵入者確認"」

 突然警報音と共に機械音声が流れ始め、屋敷の広間が赤い点灯で光り始めた。

「侵入者です!千佳様の壁に飛行型輸送機器を遠隔操作で城郭のあらゆる箇所に物理的な衝撃を受けた際に作動するセンサーを取り付けておりました!」

 八代の仕事が早すぎる。

「千佳の作品を壊すなんて許さないゾ!」

 ……………

「なんかうるせー音してるけどめんどくせーからこのまま沈めるぞ?」

「バコンッッッッッ!ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…」

「流石は『陸の魚雷』、陸斗です。彼の弟というだけのことはありますね。」

「アイツのことは口にするんじゃねぇよ。お前も沈めるぞ?」

「冗談ですよ。さぁ、思う存分暴れてください。」

「命令すんじゃねーよ。…めんどくせー…。」

 ……………

 お嬢達は屋敷の外に出てみる。

 そして全員が驚いた。

 千佳の築き上げてき城郭が地響きと共にみるみるうちに低くなっていくのが分かる。

「ゆ!許さないゾ!」

 その光景はまるで城郭が地面に沈んで行くようであった。


 次回 第二十七話 撹乱
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