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第四章 別世界編
第二十一話 約束
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互いに手のひらを合わせたお嬢と黎はしばらく見つめ合って黙っていた。
沈黙を破ったのは黎だった。
「お嬢、記憶の共有を再開しましょう。」
「ええ、私も同じことを考えていたわ。」
お嬢は迷わず答えた。
「ドミニオン…。」
黎が呟く。
お嬢の記憶が黎に…
黎の記憶がお嬢に…
それぞれ共有される。
黎がお嬢がいない間にこれまでしてきた行為をお嬢は全て理解した。
お嬢が黎がいない間にこれまで抱いてきた感情を黎は全て理解した。
「黎…私との約束…。」
お嬢がまた泣きそうな表情を浮かべる。
「申し訳ございません。」
「12年前にした、誰も殺さないって約束、破ったの…?」
「…厳密には、殺していません。別世界に送り出したという方が正しいです。お嬢のお父様も、殺し屋兄弟も。」
「…別世界?」
「はい。その世界とは、『世界線0』です。」
「…世界線0、そこはどんな世界なの?」
「全てが存在しない世界です。その世界に送られた万物は存在しないものとされ、その世界にはなにも存在しません。」
「その世界に送られた者は、存在しないものとされてしまうということなの…?」
「その通りです。」
「…ッ!それって、命を奪うことと変わらないじゃない!!」
「パチンッ!!」
お嬢は左手で黎の右頬を平手打ちした。
それでも黎は続けた。
「いえ、命を奪うことよりも残酷かもしれません。この世界では命を奪われた者は二階堂のような屍人使いによってアンデッドとして意志ある者として現世に実体化することもできます。しかし世界線0に送られたものはそれすらできません。」
冷静な黎にお嬢は押し倒して馬乗りになった。
そしてお嬢は黎に思わず手を上げようと左腕を振り上げたが、何故か黎を殴ることはできなかった…。
そしてお嬢はまた涙を流す…。
「…どうして…。…どうしてなの黎…。私との約束…。どうして守ってくれないの…。」
「…俺は…お嬢に辛い思いをさせる者たちを…許せないのです。」
黎は真剣にお嬢を見つめた。
「お嬢はお父様にずっと怯えていました。そのせいでお嬢はずっと笑えませんでした。殺し屋兄弟が脱獄したときもお嬢はとても取り乱していました。…俺は…お嬢にずっと笑顔でいてほしいのです…。…ですが俺にできることはやはり…所詮は俺にしかできないことに過ぎないのです。」
それを聞いてお嬢は涙をボロボロと流し黎の方へ顔を近づけた。
するとしばらくの静寂の時が流れ…
「………黎、私自分の価値観ばかり押し付けて、黎はいつも私の約束と自分の最善の選択に葛藤していたんだね…。私も…ちょっと反省しないといけないわね…。」
「お嬢…俺はお嬢の考え方、間違ってるとは思いません。」
「…ありがとう…黎…。」
「…いえ、俺は約束を破ってしまいましたから寧ろ処罰を受けるべきで…」
「…ねぇ、黎…。」
「…なんでしょうか、お嬢…。」
「…私ね…。」
「…はい。」
「…黎と…ずっと一緒にいたいの…。」
お嬢が黎の瞳を見つめる。
「…それは、今までも、これからも…」
「…ううん、そういう意味じゃなくてね…。」
黎はお嬢の言葉を待つ。
「…私ね、実はずっと黎のことが頭から離れなくて…」
「俺もお嬢のことは一番に考えてますよ。」
「違うの!そうじゃなくて…私黎が側にいなくなるのもう嫌なの…。黎を…離したくない…。」
「お嬢…わかりました。必ず俺はお嬢の側にいます。今度こそ必ず約束を守ってみせます。」
「…本当に約束してくれる…?それじゃあ…また一緒に…寝よ…。抱きしめてほしい…。」
「はい…わかりました。」
お嬢は黎の隣に横になり、黎はお嬢を抱きしめた。
お嬢と黎はそのまま眠りについた。
次回 第二十二話 悪夢
沈黙を破ったのは黎だった。
「お嬢、記憶の共有を再開しましょう。」
「ええ、私も同じことを考えていたわ。」
お嬢は迷わず答えた。
「ドミニオン…。」
黎が呟く。
お嬢の記憶が黎に…
黎の記憶がお嬢に…
それぞれ共有される。
黎がお嬢がいない間にこれまでしてきた行為をお嬢は全て理解した。
お嬢が黎がいない間にこれまで抱いてきた感情を黎は全て理解した。
「黎…私との約束…。」
お嬢がまた泣きそうな表情を浮かべる。
「申し訳ございません。」
「12年前にした、誰も殺さないって約束、破ったの…?」
「…厳密には、殺していません。別世界に送り出したという方が正しいです。お嬢のお父様も、殺し屋兄弟も。」
「…別世界?」
「はい。その世界とは、『世界線0』です。」
「…世界線0、そこはどんな世界なの?」
「全てが存在しない世界です。その世界に送られた万物は存在しないものとされ、その世界にはなにも存在しません。」
「その世界に送られた者は、存在しないものとされてしまうということなの…?」
「その通りです。」
「…ッ!それって、命を奪うことと変わらないじゃない!!」
「パチンッ!!」
お嬢は左手で黎の右頬を平手打ちした。
それでも黎は続けた。
「いえ、命を奪うことよりも残酷かもしれません。この世界では命を奪われた者は二階堂のような屍人使いによってアンデッドとして意志ある者として現世に実体化することもできます。しかし世界線0に送られたものはそれすらできません。」
冷静な黎にお嬢は押し倒して馬乗りになった。
そしてお嬢は黎に思わず手を上げようと左腕を振り上げたが、何故か黎を殴ることはできなかった…。
そしてお嬢はまた涙を流す…。
「…どうして…。…どうしてなの黎…。私との約束…。どうして守ってくれないの…。」
「…俺は…お嬢に辛い思いをさせる者たちを…許せないのです。」
黎は真剣にお嬢を見つめた。
「お嬢はお父様にずっと怯えていました。そのせいでお嬢はずっと笑えませんでした。殺し屋兄弟が脱獄したときもお嬢はとても取り乱していました。…俺は…お嬢にずっと笑顔でいてほしいのです…。…ですが俺にできることはやはり…所詮は俺にしかできないことに過ぎないのです。」
それを聞いてお嬢は涙をボロボロと流し黎の方へ顔を近づけた。
するとしばらくの静寂の時が流れ…
「………黎、私自分の価値観ばかり押し付けて、黎はいつも私の約束と自分の最善の選択に葛藤していたんだね…。私も…ちょっと反省しないといけないわね…。」
「お嬢…俺はお嬢の考え方、間違ってるとは思いません。」
「…ありがとう…黎…。」
「…いえ、俺は約束を破ってしまいましたから寧ろ処罰を受けるべきで…」
「…ねぇ、黎…。」
「…なんでしょうか、お嬢…。」
「…私ね…。」
「…はい。」
「…黎と…ずっと一緒にいたいの…。」
お嬢が黎の瞳を見つめる。
「…それは、今までも、これからも…」
「…ううん、そういう意味じゃなくてね…。」
黎はお嬢の言葉を待つ。
「…私ね、実はずっと黎のことが頭から離れなくて…」
「俺もお嬢のことは一番に考えてますよ。」
「違うの!そうじゃなくて…私黎が側にいなくなるのもう嫌なの…。黎を…離したくない…。」
「お嬢…わかりました。必ず俺はお嬢の側にいます。今度こそ必ず約束を守ってみせます。」
「…本当に約束してくれる…?それじゃあ…また一緒に…寝よ…。抱きしめてほしい…。」
「はい…わかりました。」
お嬢は黎の隣に横になり、黎はお嬢を抱きしめた。
お嬢と黎はそのまま眠りについた。
次回 第二十二話 悪夢
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