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第三章 修羅編
第二十話 調和
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部屋を追い出された菱沼と八代は空気が重たかったが、沈黙を破ったのは菱沼の方だった。
「あの…ありがとうございます…。それと…ごめんなさい…。」
八代は全てわかっていた。自分をいじめていた首謀者も、その理由も。
「ワタクシは、それでも菱沼様に南グループにいていただきたいと思っただけです。」
菱沼の目から涙が溢れてきた。
「どうして…どうしてあなたはいつもそうやって…落ち着いていられるのですか…。どうしてこんな私を憎いと思わないのですか…?」
「当たり前の事をお聞きになるんですね。」
八代は続けた。
「好きだからですよ。菱沼様も、南グループの皆様も。ここはワタクシ、いえ、ワタクシ達のいるべき場所だと思うからです。」
「そんな…でも…私…あなたに…あんなひどいこと…」
「大丈夫です。あなたは1人ではありません。皆様がいらっしゃるのが南グループなのです。自分のした事が過ちだと認められるかどうかはこれからの人生を大きく左右します。そのお手伝いができたのならばワタクシは光栄でございますよ。」
「 う…う…うわあああああん…!!」
菱沼が泣き崩れ、八代が優しく菱沼を抱きしめた。
一方、お嬢の部屋では…
「…あの…お嬢…これは一体どういう…。」
黎がお嬢に立ったまま抱きしめられていた。
「…あなたが花梨ちゃんと一緒にいた分を…取り返してもらうのよ…。」
黎には意味がわからなかった。
「…どういうこと…したのよ…。」
「…はい…?」
「花梨ちゃんとどういうことしてたのよ…。」
黎は思い出しながら答えた。
「そうですね…まずは屋敷が千佳によって修復されたことの説明を受け…」
「その後は…?」
「海斗から先日の反革命運動の謝罪のメールを受け取り…」
「その後は…!?」
「太陽が例の刺客であったという仮説が正しくなかったと推測され…」
「その後は…!!?」
「八代が俺の手を突然握り…」
「ストーーーーーップ!!はい!!アウト!!アウトです!!退場でーす!!」
「え…退場…部屋を出ろってことですか?」
「出るな!出さないわよ!!」
「ギュウウ…」
お嬢がさらに強く抱きしめてきた。
「その後は!?その後はどうなったのよ!?」
「八代の提案で彼女の書斎についていくことにしまし…」
「ダメダメダメダメダメダメ!絶対にダメ!!」
「ギュウウ…!」
お嬢がさらにさらに強く抱きしめてきた。
「え…なんでだめなんですか?」
「ダメに決まってるでしょ!ダメなものはダメなの!私がダメって言ったものはダメなの!」
「では、これ以上話さないほうが…」
「その後は!!!?」
「書斎に入って八代が鍵をかけて突然八代が書斎で服を脱ぎ始め…」
「コラーーーーーッッッ!この犯罪者ッ!!」
「ギュウウウウウ!!!」
黎は背骨が折れそうだった。
「…お…お嬢…く…苦しいです…。」
「そ、の、あ、と、は!!????」
「や…しろ…の…せ…なか…に…たい…りょ…う…のあ…ざが…」
「え!!?はっきりしゃべりなさい!!よく聞こえないわよ!!」
「で…すか…ら…あざ…あざで…す…」
「ん…?あざ…?」
お嬢が突然腕を離して考え込んだ。
「ハァ…ハァ…」
黎は呼吸を整える。
「なるほど…そういうことだったのね!黎っ!分かっちゃったわよ!これで謎が解けたわ!私ってば天才かもっ!?」
お嬢以外はみな既に全てわかっていたがここで黎はお嬢を怒らせる訳にはいかなかった。
「さ…さすがは…お嬢…ですね…。それで…菱沼の…ことなのですが…。八代も…ああ言ってますし…。今回の件は…」
「ダメよ。」
お嬢の顔は真剣だった。
「お嬢…。そこをなんとか…。」
「許さないわ。」
「お嬢…。」
黎は戸惑った。なんとかしてお嬢の許しを頂きたい。菱沼は今回仲間でありお嬢の大切な舎弟達を傷つける主犯であったという大きな罪を背負ってしまったもののやはり南グループの皆は菱沼に愛着がある。それに人を手懐けるのが上手いならやり方次第で組織を上手く纏める技術だってあるし今までもムードメーカーとしてそうしてきてくれていた。まだまだ伸びしろがあると黎は感じていたのだ。
「あなた、晶ちゃんの服がはだけてる姿見ちゃったでしょ?」
「…え?はい…」
「だからあなただけは許さないわ。」
「…菱沼の事は許して頂けるんですか?」
「当たり前じゃない。何言ってるのよ。あの子は私の大事な舎弟よ。」
黎にはもうお嬢が何を考えているのか全然わからなかった。
記憶を共有していないことがこんなにも不便に思うことはない。
「…それにしても、私よりも先に他の女の子の服がはだけてる姿を見るなんて…。ほんと、隅に置けないわね…。」
お嬢がボソッと何か呟いた気がしたが黎はよく聞き取れなかった。
「黎、ちょっとこっちに来なさい。」
お嬢に導かれた先はベッドだった。
お嬢と黎は昨晩と同じようにそれぞれ左、右に隣り合わせに座る。
すると突然お嬢が自分のハーフアップの髪をほどき始める。
続いて黎の被っているタレつきのキャップを外し、シニヨンをほどいた。
「お嬢…今度は何を…。」
髪色だけが違う瓜二つの2人が見合ってるすがたはまるで2人の間に鏡が挟んであるかのようだった。
髪の長さは同じ。顔の輪郭もパーツも瞳の色も形も全て同じ。利き手だけが違う。お嬢は左利きで黎は右利き。いや、本当は間に鏡があって逆に見えてるのかもしれない。
お嬢は左手を、黎は右手を掲げ2人の手のひらが重なる。まるで1人の人間が鏡に手を当てているだけかのようにタイミングが合う。
そしてお嬢と黎は声を揃えて言う。
「私達、2人で1人だったら、どうなっていたのかしら。」
「俺達、2人で1人でしたら、どうなっていたのでしょう。」
世界線Ⅱ 第三章 修羅編 ~完~
次回 第二十一話 約束
「あの…ありがとうございます…。それと…ごめんなさい…。」
八代は全てわかっていた。自分をいじめていた首謀者も、その理由も。
「ワタクシは、それでも菱沼様に南グループにいていただきたいと思っただけです。」
菱沼の目から涙が溢れてきた。
「どうして…どうしてあなたはいつもそうやって…落ち着いていられるのですか…。どうしてこんな私を憎いと思わないのですか…?」
「当たり前の事をお聞きになるんですね。」
八代は続けた。
「好きだからですよ。菱沼様も、南グループの皆様も。ここはワタクシ、いえ、ワタクシ達のいるべき場所だと思うからです。」
「そんな…でも…私…あなたに…あんなひどいこと…」
「大丈夫です。あなたは1人ではありません。皆様がいらっしゃるのが南グループなのです。自分のした事が過ちだと認められるかどうかはこれからの人生を大きく左右します。そのお手伝いができたのならばワタクシは光栄でございますよ。」
「 う…う…うわあああああん…!!」
菱沼が泣き崩れ、八代が優しく菱沼を抱きしめた。
一方、お嬢の部屋では…
「…あの…お嬢…これは一体どういう…。」
黎がお嬢に立ったまま抱きしめられていた。
「…あなたが花梨ちゃんと一緒にいた分を…取り返してもらうのよ…。」
黎には意味がわからなかった。
「…どういうこと…したのよ…。」
「…はい…?」
「花梨ちゃんとどういうことしてたのよ…。」
黎は思い出しながら答えた。
「そうですね…まずは屋敷が千佳によって修復されたことの説明を受け…」
「その後は…?」
「海斗から先日の反革命運動の謝罪のメールを受け取り…」
「その後は…!?」
「太陽が例の刺客であったという仮説が正しくなかったと推測され…」
「その後は…!!?」
「八代が俺の手を突然握り…」
「ストーーーーーップ!!はい!!アウト!!アウトです!!退場でーす!!」
「え…退場…部屋を出ろってことですか?」
「出るな!出さないわよ!!」
「ギュウウ…」
お嬢がさらに強く抱きしめてきた。
「その後は!?その後はどうなったのよ!?」
「八代の提案で彼女の書斎についていくことにしまし…」
「ダメダメダメダメダメダメ!絶対にダメ!!」
「ギュウウ…!」
お嬢がさらにさらに強く抱きしめてきた。
「え…なんでだめなんですか?」
「ダメに決まってるでしょ!ダメなものはダメなの!私がダメって言ったものはダメなの!」
「では、これ以上話さないほうが…」
「その後は!!!?」
「書斎に入って八代が鍵をかけて突然八代が書斎で服を脱ぎ始め…」
「コラーーーーーッッッ!この犯罪者ッ!!」
「ギュウウウウウ!!!」
黎は背骨が折れそうだった。
「…お…お嬢…く…苦しいです…。」
「そ、の、あ、と、は!!????」
「や…しろ…の…せ…なか…に…たい…りょ…う…のあ…ざが…」
「え!!?はっきりしゃべりなさい!!よく聞こえないわよ!!」
「で…すか…ら…あざ…あざで…す…」
「ん…?あざ…?」
お嬢が突然腕を離して考え込んだ。
「ハァ…ハァ…」
黎は呼吸を整える。
「なるほど…そういうことだったのね!黎っ!分かっちゃったわよ!これで謎が解けたわ!私ってば天才かもっ!?」
お嬢以外はみな既に全てわかっていたがここで黎はお嬢を怒らせる訳にはいかなかった。
「さ…さすがは…お嬢…ですね…。それで…菱沼の…ことなのですが…。八代も…ああ言ってますし…。今回の件は…」
「ダメよ。」
お嬢の顔は真剣だった。
「お嬢…。そこをなんとか…。」
「許さないわ。」
「お嬢…。」
黎は戸惑った。なんとかしてお嬢の許しを頂きたい。菱沼は今回仲間でありお嬢の大切な舎弟達を傷つける主犯であったという大きな罪を背負ってしまったもののやはり南グループの皆は菱沼に愛着がある。それに人を手懐けるのが上手いならやり方次第で組織を上手く纏める技術だってあるし今までもムードメーカーとしてそうしてきてくれていた。まだまだ伸びしろがあると黎は感じていたのだ。
「あなた、晶ちゃんの服がはだけてる姿見ちゃったでしょ?」
「…え?はい…」
「だからあなただけは許さないわ。」
「…菱沼の事は許して頂けるんですか?」
「当たり前じゃない。何言ってるのよ。あの子は私の大事な舎弟よ。」
黎にはもうお嬢が何を考えているのか全然わからなかった。
記憶を共有していないことがこんなにも不便に思うことはない。
「…それにしても、私よりも先に他の女の子の服がはだけてる姿を見るなんて…。ほんと、隅に置けないわね…。」
お嬢がボソッと何か呟いた気がしたが黎はよく聞き取れなかった。
「黎、ちょっとこっちに来なさい。」
お嬢に導かれた先はベッドだった。
お嬢と黎は昨晩と同じようにそれぞれ左、右に隣り合わせに座る。
すると突然お嬢が自分のハーフアップの髪をほどき始める。
続いて黎の被っているタレつきのキャップを外し、シニヨンをほどいた。
「お嬢…今度は何を…。」
髪色だけが違う瓜二つの2人が見合ってるすがたはまるで2人の間に鏡が挟んであるかのようだった。
髪の長さは同じ。顔の輪郭もパーツも瞳の色も形も全て同じ。利き手だけが違う。お嬢は左利きで黎は右利き。いや、本当は間に鏡があって逆に見えてるのかもしれない。
お嬢は左手を、黎は右手を掲げ2人の手のひらが重なる。まるで1人の人間が鏡に手を当てているだけかのようにタイミングが合う。
そしてお嬢と黎は声を揃えて言う。
「私達、2人で1人だったら、どうなっていたのかしら。」
「俺達、2人で1人でしたら、どうなっていたのでしょう。」
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