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第二章 下剋上編

第十三話 悲劇

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 八代がお嬢の部屋へと足を運ぶ。

 八代のジェスチャーによってダンテとライトに部屋を開けてもらうようにお願いする。

「お嬢様、少々よろしいですか?」

「………花梨ちゃん?」

 お嬢が菱沼の支えのもとなんとか立ち上がり、部屋の扉を開けた。

「黎様が戻られました。」

「黎が…戻ってきたの?」

 お嬢が八代の両手を掴む。

「はい。ただ…少し様子がおかしいのです。」

 お嬢は涙ぐんでいた顔で少し考えた後、真剣な表情になった。

「………わかったわ。私が直接行く。教えてくれてありがとう。皆は下がってて。」

 お嬢は一人で玄関に向かって行った。

 玄関の前に立つと扉越しに、

「黎…帰ってきたのね…。」

 すると扉の向こう側から、

「はい、ただいま戻りました。」

 と黎の声が返ってきた。

「今まで…何処に行っていたの…?私一人を置いて…。」

 お嬢が俯いた表情で言った。

「申し訳ありません、私はお嬢をお守りするために反革命運動を起こすもの達の制圧にあたっておりました。そして今…」

 するとお嬢は俯いていた表情から一転して扉に向かって鋭い表情を向けて、

「あなた、黎じゃないわね。何者なの!?」

 と言葉を遮った。

 扉越しの黎と呼ばれた男は不敵な笑みを浮かべる。

「何をおっしゃるのですか?お嬢、私は…」

「黎は自分のことを『私』だなんて言わないわ。彼の一人称は『俺』よ。」

「クックックックック…そうでしたか…。ばれてしまったら仕方がないですね?」

 突然男の声色が変わった。お嬢には聞いたことのない声だった。

「ドカーンッ!!」

 屋敷の扉が蹴破られた。

 蹴破られた扉の先には黎と瓜二つの見た目をした男が大量の軍勢を率いてやってきた。

「はじめまして香歩お嬢様。あなたを攫いにやって参りました。ノックまでしてお行儀よくしたのですが開けていただけなかったので少々手荒な手段を取らせて頂きました。」

 お嬢は一瞬で気づいた。

「こいつら…南グループの舎弟じゃないわね…。あなた一体何もッ…!?」

 お嬢は男に手を伸ばされ口を抑えられた。

「ムぐッ…ッ!」

「私達はあなたを攫うためにここに来ました。それ以上は話す必要ありませ…」

「バコーンッ!」

 男は右から強い打撃を受けお嬢の抑えた口を思わず離した。

 ライトがかけつけて男の顔を殴ったのだ。

 男は跪いて吐血していた。

 ダンテもかけつけてきて押し寄せてくる軍勢にライトと太刀打ちした。

「ちょっとあなた!本物の黎を何処にやったの!?」

 お嬢がライトに殴られた男の下に寄り聞いた。

「さぁ?私にはわかりかねます。ただ、日食が起きてるのですからあなたも気づいているのではありませんか?」

「そんな…まさか…。」

「彼は反革命派の舎弟を殺したのだと。クックックックック…」

「パチンッ!」

 お嬢が左手で男の顔を平手打ちした。

「黎が…黎がそんなことするはずないわ!だって…私とあのとき約束したんだもの!もう誰も殺さないって…!」

 遠くで見ていた八代は嫌な予感がしていた。

 ダンテとライトが戦っている軍勢、そしてお嬢と揉めている黎と瓜二つの男、どこかで見覚えのある組織だったからだ。

「…まさか!」

 八代がお嬢のもとへぎこちない足取りで駆けつけた。

「私達は、あのお方のご意向に応えるのみです、さもなくば…」

「お嬢様!いけません!」

 八代がお嬢の手を強く引く。

「きゃっ!?花梨ちゃん!?」

「クックックックック…」

「ドカーーーーーーーーーンッッッッ!!!」

 ……………

 その頃深海にて…

「海斗、どういうことか説明してくれますの?」

 江戸村は深海のベッドでは寝ておらず、海の底に立ち開眼していた。

「言葉もありません、お嬢、私にとってお嬢はあなた様だけでした。それに従い行動したまでです。」

「チャキッ」

 水圧をものともしない速さでエドムラサキの刃が海斗の首元を掠める。

「あのアマの座は私直々サシで交えて獲りに行くつもりですの。あなたは余計なことしないでくださいますの?それと…」

 江戸村の目が鋭くなる。

「リソス様をお見かけしたら直ぐに私にお伝えすることですの。あの方は私のことを首を長くして待っておられるのですから。」

 そして江戸村はさらに続ける。

「しかし今回、慎重な性格のあなたにしては随分と珍しい失敗ではありませんの?何か悩み事でもあるんですの?」

「チャキッ」

 江戸村はエドムラサキを鞘に納めた。

「…実は…。」

 ……………

「………ん…うん?ここは……砂浜か…??俺様は…あのとき海に沈められて…そうだ!香歩のやつがあのバカを止めろと俺様にお願いしていたんだった!こうしちゃおられん!」

 一方その頃平原にて…

「全く土屋のやつ、千佳だけこんなところで待ってろなんてなに考えてるかわからないゾ!」

 千佳は退屈で広い平原のど真ん中であぐらをかいていた。

「ギャアアアアアアオオオオオオオン!!!」

 すると遠くから天を切り裂くような音がするのが聞こえてきた。

 千佳が辺りを見回すと遠くから飛行物のようなものが近づいてくるのが見えた。

「な?何かこっちに向かって来るゾ!」

「おいテメエエエエエ!何を呑気にくつろいでやがんだゴルァ!!!!」

「あわわわわわわ!!」

「千佳ァァァァ!!テメエの尻拭いを俺様が…」

「誰なんだゾ?」

「ヒュウウウウウウ………ズザアアアア………」

 飛行物は落下して落ちてきて人の形になった。

 すると人の形になったそれが起き上がって、

「リソス様だゴルァ!!テメェはいつも俺様が世話をしてやってたときから俺様に会う度に忘れやがって!何度も忘れるな!」

 と言うと千佳は、

「土屋が知らない人にはついて行っちゃいけないって言ってたゾ?」

「知らない人じゃねーだろこのバカが!つーか誰だ!?その土屋って!」

「千佳の弟分だゾ!最近弟子入りして千佳の部下を一瞬でまとめてくれてたんだゾ!」

「テメェはA級舎弟になれたのが不思議なくらいバカだから部下なんて呼べるやつ一人も居なかっただろうが!?」

「土屋が千佳のために部隊を作ってくれたんだゾ!」

「テメェみたいなバカに部隊をつけるなんて何考えてやがるんだ!?いっぺんそいつのツラとその部隊って奴らを拝ませろ!」

「さっきからバカバカってうるさいゾ!バカって言ったほうがバカなんだゾ!土屋がここで集団でいると危ないからって別行動をとりはじめたんだゾ!でも何故か千佳だけここに残されて今は千佳の部隊も土屋も何処にいるのか分からないんだゾ…。」

「なんだと!?…じゃあ手当たり次第探すしか…ん…?そーいやテメェあのとき砂浜で白髪メガネと何話してやがったんだ?俺様は途中からしか聞き取れなかったが、なんかS級舎弟の座を奪うとかなんとか言ってなかったか?テメェ俺様に勝てると思ってんのか?」

「んー…あれ?何の話ししてたか忘れちゃったゾ…。ていうかお前S級舎弟なのカ?」

 千佳は鼻をほじっていた。

「あたりめーだ!ナメてんのかテメェ!俺様はあの南グループのお嬢と呼ばれる南香歩の時期夫と呼ばれる男だ!」

「よくわかんないけどお前空飛べるなら千佳を乗せてどこか楽しいところに連れてってほしいゾ!」

「テメェ人の話聞いてねーだろゴラァ!それと何で俺様がテメェの言う事聞かなきゃなんねーんだ!?」

「千佳の部下にしてやるんだゾ!」

「テメェが俺様の部下なんだよバカが!」

 リソスと千佳のやり取りはこの後も続くのであった…


 次回 第十四話 刺客
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