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第二章 下剋上編

第十一話 捕食

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「黎様、これで本当によろしかったのでしょうか?これではお嬢様が…。」

 眠っている裕也を抱えた二階堂が黎に尋ねる。

「………。」

 黎はうつむいたまま黙っていた。

 そしてしばらくの静寂の中、黎は口を開いた。

「二階堂、俺はこれからまだやることがあります。このことは今は他言無用でお願いします。それと裕也が目を覚ますまで、様子を見ていていただけますか。」

「…わかりました。」

 すると黎は屍の塔を後にした。

 一方お屋敷では…

「お嬢様…何かお飲み物などお持ちいたしましょうか?」

 お嬢は菱沼に自室に誘導されてベッドに座り虚ろな表情を浮かべていた。

「………。」

 お嬢の部屋の前にはダンテとライトが護衛のための見張りについていた。

「お嬢様、私はいつでもお嬢様のお側におります。何かありましたらいつでもお声掛けくださいね。」

「………。」

 菱沼はお嬢を信じていた。またお嬢に笑顔が戻ることを。お嬢の笑顔が大好きだった。だからいつもお嬢には笑顔でいてほしい…。

 一方その頃上空にて…

「オラァッ!千佳のやつ何処にもいねーじゃねーか!?」

 竜が空を飛んで千佳を探しているようだ。

「あいつまた何かくだらねーこと企んでるんじゃねーだろーな?大陸のエリアは大体探し回ったぞ…。」

 すると竜は思い当たる節を考えてみる。

「大陸にいねーってことは…」

 竜はある方角へと向かう。

 そこは竜のいる位置から最も近い浜辺だ。

 そして浜辺につくと何やら男女が話合いをしているようだ。

「俺様は耳がいいから遠くからでも会話の内容ぐらい聞き取れるぜ!」

 浜辺にて…

「…っていうことで海斗にとっても悪い話じゃないと思うんだゾ!」

 茶色い瞳に茶髪のショートヘアの女が言う。

「ふむ、確かに千佳にしては考えましたね。しかし相手はお嬢同様S級舎弟です。何か作戦はあるのですか?」

 白髪の眼鏡をかけた男が言う。

「もちろんだゾ!海斗の海中戦で右に出るものはいないゾ!竜には竜をぶつけるんだゾ!S級舎弟達の位を引きずり降ろし千佳たちが新たなS級舎弟の座につき、咲を時期お嬢にすればいいんだゾ!」

「しかしお嬢が時期お嬢になりたいのは現S級舎弟のあの方の存在があるからでして…」

「おしゃべりはそこまでだテメェら!」

 空高くから竜の気高い声が2人の耳に響く。

「アイツは!?」

「現れましたか、しかし…」

 男女が声を揃えて

「誰なんだゾ?」

「誰でしょうか?」

「ヒュウウウウウウ…」

 竜が急下降してきた。

「ズザアアアア…」

 砂浜に落下した。

「落ちてきましたね。美しくないです。」

「ほんと情けないゾ。」

 すると竜は

「俺様を忘れるな!特にそこのバカ女!俺様はリソス様だ!」

 リソスは千佳を指差して言った。

「 ああ、あなたがS級舎弟のリソス様ですか。お嬢は口を開けばリソス様リソス様とおっしゃるので…」

「お嬢だと!?あの南香歩は実はそんなに俺様のこと愛していたのか!?こうしちゃいられねー!今すぐ俺様を待つの愛しの妻の元へ…」

「いえ、南香歩様ではなく江戸紫咲様です。」

「なッ!?」

 リソスの顔が絶望に満ちた。

「今すぐそいつに伝えておけ!俺様の妻は南香歩!あんな頭のおかしいストーカーのせいで俺様はどれだけこれまで悲惨な目に合ってきたことか…。」

「そのお言葉、聞き捨てなりませんね。千佳、今はゆっくり話合っている場合ではありません。彼の相手は私が引き受けます。」

「わかったゾ。でも千佳はこれから何処に行くべきか迷ってるんだゾ。」

「太陽のところに行かれてはどうです?彼は4人の中で最強と言われてますから彼の力を借りない手はありません。」

「それは名案だゾ!今すぐ太陽のいる日のいずる砦に向かうゾ!」

「おいまてコラァ!俺様の愛しき妻のお願いで千佳の尻拭いをさせにきたんだ!逃がす訳にはいかねぇぞ!」

「あなたの相手は私がするとおっしゃいましたよね?出番ですよ、海竜(シードラゴン)!」

 すると海が激しく波をうち、海面から巨大な生物が姿を現す。

 そして陸に近づき、魚介のような鱗を持った竜の背中に海斗が飛び乗り、リソスに向かって口から大量の海水を噴射する。

「上等じゃねぇか!陸と海、どっちの竜がつえーか思い知らせてやるよ!」

 リソスが海竜に向かって滑空し前足で海竜に殴りかかろうとするのを海竜がかわし、リソスが前足を強く噛みつかれたまま海中に引きずり込まれた。

「なんだと!?くそ!!」

 リソスは噛みつかれた前足をもう片方の前足で海竜の頭を蹴り必死に離そうとするが水圧でなかなか威力が発揮できない。

「大地の王リソス。海中戦はやはり苦手分野でしたか。美しくない。」

「まずい!このままでは呼吸が!」

 一方その頃日のいずる砦にて…

 軍団を率いた千佳が太陽のいる砦の頂上に向かった。

 千佳と土屋は砦の各所に軍団を配置し、千佳自身は砦の頂上につき、長身で赤い鎧と兜、そして大剣を背中に携えた男が陽の光を見つめていた。

「何をしに来た。」

 男は陽の光を見つめながら言った。

「千佳達も刺客に備えて応戦しにきたゾ!砦を利用するなら千佳の地形マジックでより頑丈にすることもできれば…」

「無用だ。」

「どうしてだゾ?敵に勝つためには戦略は大事だゾ?千佳だって色々考えて行動してるんだゾ!」

「お前、天宮を唆して南グループの監獄を襲撃させ、例の殺し屋兄弟を好き勝手させたらしいじゃないか。それがお前の言う戦略か?」

「そ、それはちょっと魔が差したというカ…」

「俺はもうお前達の力は借りない。もうじき奴が来る。俺はそいつとサシで戦いたい。巻き込まれて死にたくなければ失せろ。」

「千佳様、ここは太陽様にお任せしましょう。」

 土屋が割って入ってきた。

「そ、そこまで言うならわかったゾ…。総員を撤退させさせるゾ。」

 そう言って千佳は軍団を率いて砦を後にした。

「そう、もうじき来るだろう。空が明るいうちに。」

 ……………

 黎はある場所に向かっていた。その場所は…

 日のいずる砦。

 八代の情報が正しければ太陽はここにいる。それもたった一人で。

 しばらくして砦の頂上に着くとそこには日の光を見つめている男がいた。

「待ちわびたぞ。」

「ええ、あなたの目的はわかっています。始めましょう。」

 太陽が大剣を片手に握り、

 黎がナイフを右手に握り、

 お互い見合った。

 そして太陽が炎の羽を生やし急激に距離を詰め黎に大剣を振り下ろした。

 黎はそれをかわし太陽の背後をとった。

 すると直ぐ様太陽が薙ぎ払うように大剣を横に素早く振り、黎はジャンプでかわして太陽の首をナイフで切りつけようとするが、太陽がバックステップでそれをかわす。

 そして太陽が羽で空を舞い、大剣の中心部分が砲撃型のような形に変形し、地上にいる黎に向かって熱線を発射する。熱線で焼かれた地面は黒く焦げた。

 黎はジャンプして熱線を回避しながら空を跳び、ダークネスブラスターを太陽の心臓目掛けて発射するも、太陽はそれを空中にいるまま回避する。

 そして地上に降りた黎に太陽が大剣を空高くから振り下ろし、黎の体を切り裂き血飛沫が飛ぶ。

「S級舎弟っていうのはこんなものなのか?」

 黎は吐血をしながらも口元は笑っていた。

「何がおかしい?」

「あなたは不死身なのにどうしてそこまで強さを求めるのですか?」

「…。」

「あなたがそこまでして戦う目的は何ですか?」

「そんな事聞いてどうする。」

「今回の反革命運動で最強と呼ばれる男を止めること。それが俺の使命です。」

 太陽が黎の違和感を感じ取った。

「…この凄まじい殺気は。」

「あなたのその心を俺は知りたいです。そのために…あなたを捕食します。」

 黎は帽子を深く被り、呟いた。

「…皆既日食。」

 その瞬間、一瞬にして月が日を覆い空は陽の光が差さずに真っ暗になった。

 そして黎を中心に黒い球体が形成され瞬く間にそれが拡大し辺り一面は闇に包まれた。

 太陽もその闇にのまれ、そこから抜け出すことは決してできなかった。

 …そしてやがて黎を中心にした球体は消滅し、黎は生命が一切存在しない荒廃した場にただ一人立って呟いた。

「…ご馳走様です。この戦い、最初から俺の一人勝ちだったんですよ。」

 黎は不気味な笑みを浮かべて呟いた。


 次回 第十二話 裏切り
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