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第二章 下剋上編
第十話 断罪
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赤い瞳に黒髪の4歳の幼き少年は知っていた。
この世界はとてもつまらないのだと。
両親を含め大人の考えてることなどくだらない。
少年には全てわかっていた。
身の回りの大人の記憶を読み取ることが出来るから。
大人がしてきた人生の体験を記憶を通じて全てこなしてしまった気分だったから。
しかし、大人でもしたことがない体験ってこの世界にあるのだろうか。
少年はふと疑問に思うことがあった。
そんなある日、少年の頭の中に何かを呼びかける声がした。
「…知りたいか?」
なんだろう。
「…貴様の抱える疑問に、私が答えてやろう。」
少年は思いがけない体験をした。
自分の知らない世界がまだあるのだろうと期待した。
周りの大人の知らない世界…それは…。
「…殺せ。」
…『殺せ』?よく意味が理解できなかった。『殺せ』ってなんだろう?
「…貴様の両親を貴様の手で殺すのだ。」
少年は初めて聞く言葉に戸惑った。
「…簡単なことだ。両親が寝ている隙に貴様の家にある包丁で動かなくなるまで刺すのだ。」
そんな体験、大人の記憶にはなかった。
「…そしてそれが出来たら私のもとへ来るがよい。貴様の知りたいことをいくらでも教えてやろう。」
少年はその言葉に大きな希望を抱いた。
早速今晩やってみよう。
夜を迎えて両親が寝ているのを確認した。
そして台所から母がいつも料理で使っている包丁を持ってきた。
まずは父の首の中心を思いっきり両手で包丁の持ち手を握りしめて刺すのだと言われた。
そうすれば声が出せなくなり隣で寝ている母を起こさずに仕留められる可能性が高いと言われた。
そして僕は父の首元目掛けて大きく包丁を振りかざし、
「ザシュッ!」
「クカッ!」
聞いたことのない音と聞いたことのない父の声を聞いて少年は楽しくなった。
その後は何度も包丁を抜いては刺してを繰り返した。
「ザシュッ!」「ザシュッ!」「ザシュッ!」
「ザシュッ!」「ザシュッ!」「ザシュッ!」
父は凄く暴れている。楽しい。面白い。少年の顔と着ているパジャマが赤く染まる。
父は段々大人しくなってきて、遂には動かなくなった。
すると突然隣から、
「キャーーーーーッッッ!!!」
という叫び声が聞こえてきた。
「ドンッ!」
少年の母だった。母は慌ててベッドから落ちた。
「な…な…何してるのよ!!??」
母が少年に向かって震えながら叫んだ。
すると少年は静かに口を開いた。
「…断罪。」
そして少年が間髪入れず母に近づき両手で包丁を振りかざしたが少年の両腕を母に両手で止められてしまった。
それでも少年は楽しかった。
「 お母さん、一緒に遊べて嬉しいですよ。今までの遊びで一番楽しいです。こんな楽しいことを今まで教えてくださらなかったお父さんとお母さんを、俺が断罪してあげるんですよ。」
少年は母や父を『ママ』、『パパ」、とは呼ばない。大人の記憶を知っているから丁寧語が相手に対して敬う意味であることもわかっている。そして一人称はその年齢に見合わず『俺』。少年は4歳にしてアイデンティティが完成しつつあった。
「 やめなさい!黎!」
少年の母は少年を『黎』と呼び叱った。
「この遊びはどちらかが動けなくなるまで止められないってある人が俺に教えてくれたんですよ。」
少年は母の右腕に力強く噛みついた。
噛みつかれた母が痛みに耐えながら少年の両腕をを押さえ続けた。
少年には母の考えていることがわかる。
このまま耐えきった後で少年を出し抜き外に逃げ出すのであろう。
持久戦に持ち込まれて子供が大人に勝てるはずがない。
全てを見透かした少年はここで獲物を逃がす訳にはいかなかった。
少年は両腕を掴まれたまま母に馬乗りになって首元まで上がりもう一度両腕を振り上げて今度は包丁を右手で持ち振り下ろすと見せかけて背中側に腕を周した。
「ザシュ!」
「ハッア!」
母の左脇腹に包丁が刺さった。それを引き抜き刺された事に動揺した母の意表をついて今度は少し下にさがり首元を狙って思いっきり両腕を振り下ろした。
「ザシュッ!」
「クカハァッ!」
少年は大量の血飛沫を浴びた。そして今度は両腕を何度も何度も振り下ろしめった刺しにする。
「ザシュッ!」「ザシュッ!」「ザシュッ!」
「ザシュッ!」「ザシュッ!」「ザシュッ!」
そして遂に母も動かなくなった。
これが『殺す』ということ。
「…よくやった。」
少年が初めての体験を遠い昔の出来事のように思いを馳せていると、以前頭の中に呼びかけてきた声がまた聞こえてきた。
「…私のもとへ来るとよい。迎えのものを用意しよう。」
少年がしばらく家で待っていると、
「ピンポーン」
とインターホンが鳴る。
すると少年は玄関に向かって扉を開けた。
沢山の大人達がいた。
彼らの記憶は少年にとって知らないことばかりだった。
そして一人の男が少年を担いである場所へ物凄いスピードで連れて行かれた。
他の大人たちも一緒についてきた。
そこは大きな屋敷だった。
大きな玄関が開くと迎え入れてくれたのは40代程の男性。
今までの大人とは比べ物にならないぐらいのオーラを感じる。
「…ようこそ、南グループへ。まずは私の指示のもとで任務を遂行し、完了したことを褒めてやらねばならぬな。」
任務ってなんのことだろう?少年は戸惑っていた。
「貴様は今日からうちの舎弟だ。それも一番位の高いS級のな。」
すると一人の男が割って入ってきた。
「ボス!本気ですか!?この幼子があの四天王と呼ばれるS級舎弟になるというのですか!?こんなこと今までに例がないです!S級舎弟というのはさすがに…」
するとボスと呼ばれた男がその男に向かって鋭く睨みつけた。
「それを決めるのは私だ。」
そしてボスと呼ばれた男は少年の方に再び振り返り、
「貴様、他人と記憶を共有できる能力を持っているようだな?私はこの世界の全ての者の存在を認識し、貴様をS級に推薦した。それに…」
すると突然長い赤髪の少年と同じぐらいの少女が部屋の一室から広間にやってきた。
「お父様!この子がS級舎弟になるっていう子ですか!?」
少女はボスと呼ばれた男に聞いた。
「丁度貴様と同じぐらいの年の一人娘が居てな。仲良くしてやってほしいのだ。」
しかし少女は少年に近づくと何やら怯えた様子だった。
「この子の着ているパジャマ…真っ赤じゃない…もしかして…血…?」
恐る恐る聞いた少女にボスが答えた。
「その通りだ。私がこの小僧に両親を殺すように命じたのだ。」
すると少女は逃げるようして、
「イヤーーーーーーーッッッ!!!」
と叫んで部屋に戻っていってしまった。
少年は不思議に思った。
人を殺すことって悪いことなのか?
どうして自分の姿を見て少女が少年に怯えたのかがわからない。
でも少年はこのボスと呼ばれた人からもっと色々教わりたいと思った。
「今日はゆっくり休むとよい。貴様の部屋は既に用意してある。」
少年は少女のことが気がかりだった。
ボスに少女と仲良くするように言われた。
そして少年はある事を思いついた。
少女に自分の記憶を供給しようと…。
一方その頃少女は眠れずにいた。
血まみれのパジャマの少年の姿が頭から離れない。
すると突然少女の頭の中に違和感が感じた。
「なに…これ…。」
この世界についての多大な知識と多くの大人達がしてきた体験、そして、少年自身がボスに命じられてした殺しの体験。
全てが少女の頭の中に入り込んでくる。
「なにこれ!?怖い…!誰か…!誰か助けて!」
「ドンドンドンッ!」
すると一人の男が少女の扉を慌ててノックした。
「お嬢!お嬢!どうされましたか!?」
「頭の中が…!何か変なの…!嫌な夢を見てるみたいで凄く怖いの!」
少年の部屋までさっきの少女の叫び声とその男のやり取りの声が聞こえてきた。
すると少年は自分の部屋を後にして声がする部屋のもとまで行った。
そして少女の部屋の前にいた男に
「ちょっといいですか。」
男は警戒した様子だった。
「貴様!?何をするつもりだ!?」
少年は冷静だった。
「俺はS級舎弟です。あなたはB級舎弟ですよね?大人しく言うことを聞いていただけませんか?」
「なッ」
男は後退りした。
「大丈夫です。俺はあの少女と仲良くするように命じられていますから。」
そして少年が少女の扉を開けると少女は布団で全身を覆っていた。
「俺はあなたと仲良くするようにボスに命じられました。黎といいます。俺のことをいち早く知って頂くためにあなたに俺の記憶を供給しました。」
すると少女は恐る恐る布団から顔を出して少年の姿を見て、
「いやっ!来ないで!お願い…殺さないで…!」
と言い少女は再び布団で顔を覆った。
少年は気になっていたことを素直に少女に聞いた。
「人を殺すのって、そんなにいけないことなんですか?」
少女は驚いた。
「あなた…本気で言ってるの…?」
少女は恐怖の感情から徐々に怒りの感情へと移り変わっていった。
そして布団から出て起き上がり、
「ダメに決まってるでしょ!?私は嫌よ…人が死ぬのなんて…。」
少女の目は涙ながらも真剣そのものだった。
「どうしてダメなんですか?俺はあなたのお父様に両親を殺すように命じられました。」
少年の疑問は深まるばかりだった。
「お父様は…人の命をなんとも思ってないけれど…私は違うの…。」
少女は続けた。
「私は難しいことはよくわからないけれど、お父様のしてること、なにか間違ってる気がする…。生まれた時から私はここにいたから、今の私にはどうすることもできない…。逆らえば何されるかわからない…。だから、実は私、今いるこの場所が怖いの…。」
少年は涙ながらに語る少女の事が気になった。
少女の記憶をまだ見てはいないが、きっと少年の知らない世界がこの少女の記憶の中にあるような気がした。
「あの、もしよろしければ、あなたの記憶を見せて頂けませんか?」
少女は涙ぐんだ瞳で少年を見つめた。
「 え…?私の記憶を…?でも、そんな事お父様に知られたら、私もあなたも…」
「 大丈夫です。俺がなんとかします。」
少女は戸惑いながらも答えた。
「…わかったわ…。私達、常に記憶の共有をしましょう。その代わり…。」
「なんでしょうか?」
「もう誰も殺さないと約束してちょうだい…。」
「………わかりました。ではお嬢…。よろしくお願い致します。」
「うん…。よろしくね…。黎…。」
……………
赤い瞳に長い黒髪をシニヨンで束ね、たれつきのキャップを常に被っている男、田本黎は屍の塔で泡にまみれて動けなくなった2人の男に言い放った。
「…断罪。」
すると黎は右手を掲げ黒い球体のような物を創り出した。
男2人はその黒い球体にのみ込まれていった。
黒い球体にのまれた男2人は跡形もなく姿を消した。
次回 第十一話 捕食
この世界はとてもつまらないのだと。
両親を含め大人の考えてることなどくだらない。
少年には全てわかっていた。
身の回りの大人の記憶を読み取ることが出来るから。
大人がしてきた人生の体験を記憶を通じて全てこなしてしまった気分だったから。
しかし、大人でもしたことがない体験ってこの世界にあるのだろうか。
少年はふと疑問に思うことがあった。
そんなある日、少年の頭の中に何かを呼びかける声がした。
「…知りたいか?」
なんだろう。
「…貴様の抱える疑問に、私が答えてやろう。」
少年は思いがけない体験をした。
自分の知らない世界がまだあるのだろうと期待した。
周りの大人の知らない世界…それは…。
「…殺せ。」
…『殺せ』?よく意味が理解できなかった。『殺せ』ってなんだろう?
「…貴様の両親を貴様の手で殺すのだ。」
少年は初めて聞く言葉に戸惑った。
「…簡単なことだ。両親が寝ている隙に貴様の家にある包丁で動かなくなるまで刺すのだ。」
そんな体験、大人の記憶にはなかった。
「…そしてそれが出来たら私のもとへ来るがよい。貴様の知りたいことをいくらでも教えてやろう。」
少年はその言葉に大きな希望を抱いた。
早速今晩やってみよう。
夜を迎えて両親が寝ているのを確認した。
そして台所から母がいつも料理で使っている包丁を持ってきた。
まずは父の首の中心を思いっきり両手で包丁の持ち手を握りしめて刺すのだと言われた。
そうすれば声が出せなくなり隣で寝ている母を起こさずに仕留められる可能性が高いと言われた。
そして僕は父の首元目掛けて大きく包丁を振りかざし、
「ザシュッ!」
「クカッ!」
聞いたことのない音と聞いたことのない父の声を聞いて少年は楽しくなった。
その後は何度も包丁を抜いては刺してを繰り返した。
「ザシュッ!」「ザシュッ!」「ザシュッ!」
「ザシュッ!」「ザシュッ!」「ザシュッ!」
父は凄く暴れている。楽しい。面白い。少年の顔と着ているパジャマが赤く染まる。
父は段々大人しくなってきて、遂には動かなくなった。
すると突然隣から、
「キャーーーーーッッッ!!!」
という叫び声が聞こえてきた。
「ドンッ!」
少年の母だった。母は慌ててベッドから落ちた。
「な…な…何してるのよ!!??」
母が少年に向かって震えながら叫んだ。
すると少年は静かに口を開いた。
「…断罪。」
そして少年が間髪入れず母に近づき両手で包丁を振りかざしたが少年の両腕を母に両手で止められてしまった。
それでも少年は楽しかった。
「 お母さん、一緒に遊べて嬉しいですよ。今までの遊びで一番楽しいです。こんな楽しいことを今まで教えてくださらなかったお父さんとお母さんを、俺が断罪してあげるんですよ。」
少年は母や父を『ママ』、『パパ」、とは呼ばない。大人の記憶を知っているから丁寧語が相手に対して敬う意味であることもわかっている。そして一人称はその年齢に見合わず『俺』。少年は4歳にしてアイデンティティが完成しつつあった。
「 やめなさい!黎!」
少年の母は少年を『黎』と呼び叱った。
「この遊びはどちらかが動けなくなるまで止められないってある人が俺に教えてくれたんですよ。」
少年は母の右腕に力強く噛みついた。
噛みつかれた母が痛みに耐えながら少年の両腕をを押さえ続けた。
少年には母の考えていることがわかる。
このまま耐えきった後で少年を出し抜き外に逃げ出すのであろう。
持久戦に持ち込まれて子供が大人に勝てるはずがない。
全てを見透かした少年はここで獲物を逃がす訳にはいかなかった。
少年は両腕を掴まれたまま母に馬乗りになって首元まで上がりもう一度両腕を振り上げて今度は包丁を右手で持ち振り下ろすと見せかけて背中側に腕を周した。
「ザシュ!」
「ハッア!」
母の左脇腹に包丁が刺さった。それを引き抜き刺された事に動揺した母の意表をついて今度は少し下にさがり首元を狙って思いっきり両腕を振り下ろした。
「ザシュッ!」
「クカハァッ!」
少年は大量の血飛沫を浴びた。そして今度は両腕を何度も何度も振り下ろしめった刺しにする。
「ザシュッ!」「ザシュッ!」「ザシュッ!」
「ザシュッ!」「ザシュッ!」「ザシュッ!」
そして遂に母も動かなくなった。
これが『殺す』ということ。
「…よくやった。」
少年が初めての体験を遠い昔の出来事のように思いを馳せていると、以前頭の中に呼びかけてきた声がまた聞こえてきた。
「…私のもとへ来るとよい。迎えのものを用意しよう。」
少年がしばらく家で待っていると、
「ピンポーン」
とインターホンが鳴る。
すると少年は玄関に向かって扉を開けた。
沢山の大人達がいた。
彼らの記憶は少年にとって知らないことばかりだった。
そして一人の男が少年を担いである場所へ物凄いスピードで連れて行かれた。
他の大人たちも一緒についてきた。
そこは大きな屋敷だった。
大きな玄関が開くと迎え入れてくれたのは40代程の男性。
今までの大人とは比べ物にならないぐらいのオーラを感じる。
「…ようこそ、南グループへ。まずは私の指示のもとで任務を遂行し、完了したことを褒めてやらねばならぬな。」
任務ってなんのことだろう?少年は戸惑っていた。
「貴様は今日からうちの舎弟だ。それも一番位の高いS級のな。」
すると一人の男が割って入ってきた。
「ボス!本気ですか!?この幼子があの四天王と呼ばれるS級舎弟になるというのですか!?こんなこと今までに例がないです!S級舎弟というのはさすがに…」
するとボスと呼ばれた男がその男に向かって鋭く睨みつけた。
「それを決めるのは私だ。」
そしてボスと呼ばれた男は少年の方に再び振り返り、
「貴様、他人と記憶を共有できる能力を持っているようだな?私はこの世界の全ての者の存在を認識し、貴様をS級に推薦した。それに…」
すると突然長い赤髪の少年と同じぐらいの少女が部屋の一室から広間にやってきた。
「お父様!この子がS級舎弟になるっていう子ですか!?」
少女はボスと呼ばれた男に聞いた。
「丁度貴様と同じぐらいの年の一人娘が居てな。仲良くしてやってほしいのだ。」
しかし少女は少年に近づくと何やら怯えた様子だった。
「この子の着ているパジャマ…真っ赤じゃない…もしかして…血…?」
恐る恐る聞いた少女にボスが答えた。
「その通りだ。私がこの小僧に両親を殺すように命じたのだ。」
すると少女は逃げるようして、
「イヤーーーーーーーッッッ!!!」
と叫んで部屋に戻っていってしまった。
少年は不思議に思った。
人を殺すことって悪いことなのか?
どうして自分の姿を見て少女が少年に怯えたのかがわからない。
でも少年はこのボスと呼ばれた人からもっと色々教わりたいと思った。
「今日はゆっくり休むとよい。貴様の部屋は既に用意してある。」
少年は少女のことが気がかりだった。
ボスに少女と仲良くするように言われた。
そして少年はある事を思いついた。
少女に自分の記憶を供給しようと…。
一方その頃少女は眠れずにいた。
血まみれのパジャマの少年の姿が頭から離れない。
すると突然少女の頭の中に違和感が感じた。
「なに…これ…。」
この世界についての多大な知識と多くの大人達がしてきた体験、そして、少年自身がボスに命じられてした殺しの体験。
全てが少女の頭の中に入り込んでくる。
「なにこれ!?怖い…!誰か…!誰か助けて!」
「ドンドンドンッ!」
すると一人の男が少女の扉を慌ててノックした。
「お嬢!お嬢!どうされましたか!?」
「頭の中が…!何か変なの…!嫌な夢を見てるみたいで凄く怖いの!」
少年の部屋までさっきの少女の叫び声とその男のやり取りの声が聞こえてきた。
すると少年は自分の部屋を後にして声がする部屋のもとまで行った。
そして少女の部屋の前にいた男に
「ちょっといいですか。」
男は警戒した様子だった。
「貴様!?何をするつもりだ!?」
少年は冷静だった。
「俺はS級舎弟です。あなたはB級舎弟ですよね?大人しく言うことを聞いていただけませんか?」
「なッ」
男は後退りした。
「大丈夫です。俺はあの少女と仲良くするように命じられていますから。」
そして少年が少女の扉を開けると少女は布団で全身を覆っていた。
「俺はあなたと仲良くするようにボスに命じられました。黎といいます。俺のことをいち早く知って頂くためにあなたに俺の記憶を供給しました。」
すると少女は恐る恐る布団から顔を出して少年の姿を見て、
「いやっ!来ないで!お願い…殺さないで…!」
と言い少女は再び布団で顔を覆った。
少年は気になっていたことを素直に少女に聞いた。
「人を殺すのって、そんなにいけないことなんですか?」
少女は驚いた。
「あなた…本気で言ってるの…?」
少女は恐怖の感情から徐々に怒りの感情へと移り変わっていった。
そして布団から出て起き上がり、
「ダメに決まってるでしょ!?私は嫌よ…人が死ぬのなんて…。」
少女の目は涙ながらも真剣そのものだった。
「どうしてダメなんですか?俺はあなたのお父様に両親を殺すように命じられました。」
少年の疑問は深まるばかりだった。
「お父様は…人の命をなんとも思ってないけれど…私は違うの…。」
少女は続けた。
「私は難しいことはよくわからないけれど、お父様のしてること、なにか間違ってる気がする…。生まれた時から私はここにいたから、今の私にはどうすることもできない…。逆らえば何されるかわからない…。だから、実は私、今いるこの場所が怖いの…。」
少年は涙ながらに語る少女の事が気になった。
少女の記憶をまだ見てはいないが、きっと少年の知らない世界がこの少女の記憶の中にあるような気がした。
「あの、もしよろしければ、あなたの記憶を見せて頂けませんか?」
少女は涙ぐんだ瞳で少年を見つめた。
「 え…?私の記憶を…?でも、そんな事お父様に知られたら、私もあなたも…」
「 大丈夫です。俺がなんとかします。」
少女は戸惑いながらも答えた。
「…わかったわ…。私達、常に記憶の共有をしましょう。その代わり…。」
「なんでしょうか?」
「もう誰も殺さないと約束してちょうだい…。」
「………わかりました。ではお嬢…。よろしくお願い致します。」
「うん…。よろしくね…。黎…。」
……………
赤い瞳に長い黒髪をシニヨンで束ね、たれつきのキャップを常に被っている男、田本黎は屍の塔で泡にまみれて動けなくなった2人の男に言い放った。
「…断罪。」
すると黎は右手を掲げ黒い球体のような物を創り出した。
男2人はその黒い球体にのみ込まれていった。
黒い球体にのまれた男2人は跡形もなく姿を消した。
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