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第一章 逆襲編

第四話 決戦

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 裕也と菱沼は黎に抱えられながら物凄いスピードで移動していた。

「黎兄ちゃん!これからどこに行くの!?」

「とりあえずお二人の血色が悪いので南病院に行きますよ。」

 そして数分後…

 黎達は南病院に到着した。裕也と菱沼は診察の後毒抜きのための点滴を受けるようになった。

 裕也はともかく菱沼は傷の手当も必要で呼吸もかなり苦しそうだ。そしてお嬢の手術の結果もまだ知らされていない。

 黎は病院に入るとある女性に出くわした。
 
 八代花梨だ。

 青い瞳と緑の髪のショートヘアにメイド服のような格好を普段からしている。

 


 彼女は勤勉であらゆる分野において研究しているため南病院にいることも珍しくない。

 そして彼女はお嬢の手術の結果を知っているようだった。

「黎様。大変お疲れ様でございました。お嬢様の手術の結果についてですが…それが南病院一の名医であるA級舎弟のレフトス様を以てしてもかなりの困難を極めまして…」

 黎は固唾を呑んだ。

「手術は成功したのですがお嬢様の身体の中で弾丸が粉々になっておりましてそれを全て取り出すのが非常に困難でしかもその弾丸を調べてみるとそれがなんと!スナイパーライフルでかなり貫通性の高い弾丸だったのですよ!?しかもお嬢様の傷の修復力もかなりのもので傷跡も一切残らない!一体お嬢様の体の仕組みとスナイパーライフルの弾丸が粉砕した原因はなんだったのでしょうか!?ワタクシ気になって気になって…うへ…うへ…うへへへへへ…」

 そう、この女は一度興味を持った分野について語り出すと止まらないのだ。

 八代は目をキラキラさせながら黎に顔を擦り寄せてきた。

 それにお嬢が無事なのは知らされてこそいないが記憶を共有している以上分かりきっている。

 勿論お嬢の体で弾丸が破壊されていたことも知っていたし、あの時お嬢は出血して目が虚ろになって目を閉じたのだが恐らく眠くなってしまっただけだったのだろう。

「ありがとうございます。八代。また後ほどお嬢の病室にお越しください。後でお話があります。」

 そして黎は八代の話を無視しながらお嬢の病室へと向かうも八代はもういなくなった黎に気づかず虚無に向かって語り続け…

「きっとあのお嬢様の体の中には新種の細胞が…あるいは…ってあれ?黎様?はて、ワタクシ黎様に何かご命令を頂きました気がするのですが…。」

 一方お嬢の病室では…

「みんなごめんねー心配かけちゃって!それにしても晶ちゃんが無事で本当に良かったよー!」

 お嬢は元気でピンピンしている。

「私こそ軽率でうかつでした…。本当に申し訳ありません…。」

 菱沼も少しずつだが顔色が良くなってきている。

「晶ちゃんが気にすることじゃないよー!事の発端は私だしさ!私こそ怖い思いさせちゃって本当にごめんね…。」

 お嬢が菱沼に頭を下げる。

「そんな!お顔を上げてくださいお嬢様!それよりも、皆様がご無事で本当になによりですよ!」

 菱沼は空気を明るくできるムードメーカー的な側面があって色んな人から好かれる。

「そーだよー。お嬢も晶お姉ちゃんも無事だった。それが一番じゃんね?」

 裕也が微笑む。

「…その通りね。裕也も助けに来てくれてありがとう。あなたは立派な南グループのA級舎弟よ。」

「へっへーん当然じゃんね?それよりも僕たち、何か忘れてない?」

「ガラガラガラ」

 病室の引き戸の扉が突然開く音がした。

「皆様、ご無事で何より…」

「ゴンッ!!」

 黎の頭上で超新星爆発が起こった。

「イテッ!!」

「コラーーッ!!女子部屋にノックせずに入ってくる男子がいる!?ねぇ晶ちゃん?」

「ええ…まぁ…それは、その…そうかもしれないですね…。」

「す…すみません。皆様ご無事で何よりです。そして改めまして今回の件についてお話しなくてはならないことがあります。」

 部屋中の皆が顔を合わせた。

「ええ、今回の事件、元A級舎弟の二階堂レナを主犯とする親睦会の襲撃事件よね。」

「はい。あの後会場ではダンテの記憶により、一般人は皆無事に避難できたとの事です。」

「流石私の舎弟達ね。彼らに出来ないことなんてないのよ。」

 お嬢は鼻高々に言う。

「そして今回の事件、恐らく二階堂レナとそれに従う者たちの例の事件に対しての報復によるものだと考えられます。」

「お父様がまだ南グループを率いていてた時の事件ね…。」

「はい。詳しい情報については八代からこれからお話して頂けます。」

 八代が病室へやってきた。

「皆様お疲れ様です。お話は伺っておりますのでまずこれまでのことを整理します。そもそも二階堂レナとその傘下にいた市香と桃香がなぜ生きていたのかについてです。」

 皆が頷く。

「その前に一つ確認させていただきたいのですが、菱沼様は司会席の場で二階堂レナとどんなお話をされていたのですか?」

 菱沼は出来事を思い出すような表情を浮かべた。

「私は二階堂様が、『あのとき消息を絶っていたのですけど、今こうして生きて帰ってきました~。再会できて嬉しいです~。あなたと仲の良かった市香と桃香も無事だったんですよ~。』とおっしゃっていて、その時は私も素直に嬉しく思いました。」

 すると八代はまるで全てを見透かしているようだった。

「ええ、ワタクシもお嬢様達からの報告を受けて菱沼様が二階堂レナにそう言われたのではないかと思い直ぐに気づきました。二階堂レナはA級舎弟の屍人使いと呼ばれ、死んだ者を眷属のように操ることができます。そしてそれは自分に対しても例外ではないのかと思われます。」

 菱沼は青ざめた。

「それってつまり…。」

「はい。二階堂レナも、市香も桃香も戦死したアンデッドなのだと思われます。裕也様の戦闘中に桃香が毒霧を浴びても無事であったのはそれが恐らくそれが理由なのでしょう。」

 裕也も疑問が晴れたかのような表情だった。

 そして八代は続ける。

「そしてここからはワタクシの南グループの歴史から辿った推測ですが、裏社会において活動していたかつての南グループのボスであった南源蔵は舎弟を道具のように扱い、戦闘要員であった二階堂レナ、市香、桃香も例外ではなかったのだと思われます。そして戦場に向かわされた彼女達は戦死しました。そしてお嬢様と黎様を筆頭とする革命によって南グループの在り方が大きく変わり彼女達はお嬢様達に対して逆恨みをしているのかもしれません。『なぜ十の掟を私達が生きている内に適用しなかったのか。なぜ革命をもっと早く起こしてくれなかったのか。私達が生きている内に、どうして南源蔵を止められなかったのか。そうすれば私たちも幸せになれたのかもしれないのに。』と。」

 それが、死にゆく者たちの未練。それを具現化されたもの。それが彼女達。

「お嬢…。」

「ええ、わかってるわ。花梨ちゃんの仮説が正しければこれは私達の問題よ。特に私にとっては大きな責任よ。このままだと彼女達は私達がここにいるのを察知して医療機関を戦場に防衛戦にもなりかねないわ。そうなる前にけりを付けましょう。」

「お嬢。俺も行きます。」

「頼りにしてるわ。裕也と晶ちゃんはちゃんと大事をとって。」

「待って!お嬢!黎兄ちゃん!僕も行く!」

 裕也が声を荒げた。

「だめよ。完全に毒が抜けるまでちゃんと治療しなさい。」

「僕、アイツに負けたの悔しい…。A級舎弟として、皆を守れなかったの、悔しい…。」

 裕也の悲しみの感情と仲間を傷つけられた怒りの感情が感じられる。

「いい?裕也。あなたは立派な南グループのA級舎弟よ。あなたのお陰で皆が助かったのよ。目の前の敵を倒せたかどうかだけで私はあなたを評価しないわ。私にとってあなたは大事な存在なの。だからあなたを失いたくないの。だから今はゆっくり体を休めるのよ。これはお嬢からの命令よ。」

 お嬢は裕也の頭を優しく撫でながら囁いた。

 裕也の目からは涙が溢れた。

「うわあはああああああん…」

「よく…頑張ったわね。」

 お嬢は裕也をそっと抱きしめた。

 そしてしばらくして…

「それじゃあみんな、待っててね。行くわよ、黎。」

「はい。」

 黎は感じていた。何かが引っかかる。二階堂レナはどうやって…。

 そんなことを考えながらお嬢と黎は病院を後にした。

「屍の塔から病院までの経路で彼女達とバッティングするのでしょうか。八代も彼女が今どこにいるのか把握出来ないとのことですし。」

「そうね…もしかしたら屍の塔が彼女達の一番力が発揮できる場所だとしたらそこで待ち伏せてる可能性もあるし、もし万が一入れ違っても病院には侵入者に備えて戦闘員を配置してるから私達は塔に向かいましょうか。じゃあ早速、お姫様だっ…」

「わかりました。それでは急ぎましょう。」

 黎はお嬢を肩に担いで跳んで行った。

「だからー!人の話を最後まで聞きなさいってーーー!コノ!コノ!」

「ペシッペシッ」

 お嬢が珍しく黎の背中を叩いてくれている。日頃の舎弟の疲れを癒すためのリラクゼーションだろうか。

 「お嬢もいい所ありますね…。」

 そして塔のふもとに到着した。

「着きましたね。ですが敵の気配を感じません。頂上まで昇って行きますか?」

「ええ、嵐の前の静けさといった感じがするけれど…とりあえず向かってみましょう。」

 前のような弾丸の雨やアンデットの出没もなかった。そしてあっという間に頂上に到達した。

 するとあの3人が背を向けて立っていた。

 風の音だけがする静寂の間。

 それを破ったのは二階堂レナだった。

「八代花梨の言った通りです。」

「そう、だったら話が早いわね。」

 黎はここに来る前に八代からの仮説を二階堂の記憶に与えたのだ。勿論それはお嬢もわかっている。

「あなた、南グループのトップとして責任を感じているのですよね?」

「ええ。」

「じゃあ、私からお願いがあるのですが聞いて頂けます?」

「何かしら?」

「…ここで死んでいただけますか?」

 桃香が振り返って猛スピードでお嬢に襲いかかってきた。

 しかしお嬢は抵抗する素振りを見せなかった。

 完全に一撃で仕留める勢いだ。

 お嬢は静かに目を瞑った。

「カキィン!」

 桃香のナイフが弾かれた。

 黎がナイフで弾いたのだ。

「パァン!パァン!」

 その直後に市香が二丁拳銃で2発お嬢目掛けて発砲した。完全にお嬢のヘッドショットを狙っている。

「カキィン!カキィン!」

 黎が弾を弾いた。

「お嬢…十の掟その四…。絶対に死んではいけない。ですよ。」

 そう呟いた途端3人の血相が変わった。

「私達は死んだんだよ!!あんたらの改革が遅すぎたから!!」

 桃香が声を荒げる。

「そう…私達はあいつの道具だった…。必要なときに利用され、使えなくなれば切り捨てられる。それが南グループの掟だった…。」

 市香からはふつふつと怒りが込み上げて来るのが感じ取れる。

「私達だけじゃない。あいつに殺された者たちは何万といる。その声を聞く度に私は居てもたってもいられなくなる…!あんたが憎い…!!」

 二階堂レナはこれまでにないほどの怒りを爆発させている。

 桃香が再びお嬢に襲いかかる。もう一本のナイフを取り出し片手持ちから両手持ちに切り替える。

「カキィン!カキィン!カキィン!」

 さっきよりも格段にスピードが上がっている。だが…。

「キィン!!」

 桃香の左ナイフが弾け飛んだ。そして…

「ガキィン!!」

 それに動揺した隙に右ナイフを黎が弾き飛ばした。

「アハハハッ…勝負ありね…。さっさと、トドメを刺…」

 お嬢が突然黎の横を抜け、桃香を抱きしめた。

「ごめんね…。」

「は…はぁ??何よ…そんなんで私の感情を揺さぶるつもり!?」

「許してくれるなんて思ってないの。でも…今の私にはこれしかできない…。」

 お嬢の目からは涙が溢れていた。

「ちょっと桃香!そんなやつに絆されるんじゃないわよ!そんな綺麗事で組織を革命させた奴の言う事なんて信じるんじゃないわよ!」

 市香は桃香に必死に呼びかけた。

 しかし桃香は動けずにいた。言葉も出なかった。お嬢は魔術を用いていない。

 そしてお嬢は静かに桃香を離し、頭をなでた。

「よく、頑張ったわね。あなたは立派な南グループの舎弟よ。」 

 桃香は気づいた。戦闘においてあらゆる努力をしてきた。南源蔵の言われるがままに、ただひたすら認められたくて、一人前と認められたくて、努力を常に欠かさなかったC級舎弟だ。

 そして今、お嬢に認めてもらえたような気がして、思わず彼女の瞳からは涙が溢れた。

 そしてお嬢は二丁拳銃を構える市香のもとに涙を流しながら静かに向かう。

「何よ…。来ないでよ…!」

「パァン!」

 弾がお嬢から外れる。

「来ないでってば…!!」

「パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!」

 市香が弾を乱射するも、弾がまるで真っ直ぐ歩いてくるお嬢を避けるようだった。

 そして市香のもとまでお嬢が遂に接近すると市香は右手の拳銃をお嬢の額に向ける。

「う…撃つわよ…!」

 するとお嬢が拳銃を握りしめた。

「ッ!!」

 市香は引金を引けなかった。何故か引きたくなかったのだ。

「どうして…どうして私はコイツを殺したい程憎いのに…!」

 市香の手は震えていた。その震える手を抑えて上げるようにお嬢が拳銃を強く握りしめた。

「今その引金を引けなくて、私を殺せなくても、またいつか気が変わって殺せる時が来るかもしれないでしょう?初め私達が塔の途中であなたが私を狙撃したときのようにね。」

「カシャン。」

 市香は拳銃から手を離して拳銃は地面に落ち、膝から崩れ落ちた。

 自分の感情が分からなくなってしまった。

 ただ恐らく、自分の感情に心の底から正直になれるとしたら…この人の下の舎弟でありたかった…。

「魔術を使わずに話術だけで私の魔術で従える力を上回るなんて、さすが南グループのトップ、『お嬢』ですね。」

 二階堂レナは皮肉を込めたように言った。

「私は自分の本心に従って対話をしたまでよ。話術なんて如何わしいもの知らないわ。そんなことよりあなたはこれからどうするの?」

 お嬢は涙を拭って言った。

「そうですね。先程は少々感情的になってしまいましたがこれ以上足掻いても何もできませんし、大人しく成仏でもしようかと考えてます。」

「そんなことをすれば桃香と市香も成仏することになるのではありませんか?」

「そうですね…。私達があなた達を怨み続けても現実は何も変わらないでしょう?なので潮時だと思うのです。」

「じゃあここで一つ率直な提案なんだけど、私の舎弟に戻らない?勿論桃香と市香もね。舎弟ランクはそのままでさ。あなた達、そもそも今の南グループの在り方を求める子たちだったんでしょう?」

「私達が今から舎弟…?それは不可能です。私達はあなた達の多くの関係者を傷つけてしまいました…。それに…。」

 そう、黎がずっと疑問に思っていた事。それはそもそもなぜ屍人使いの二階堂レナが屍人として蘇る事が出来たのか。

「私が蘇る事が出来たのは、私だけの力ではないのです。」

 やはりそういうことだったか。いくら屍人使いでも死んでしまえば意思を持たない以上魔術を唱えることができない。

 それを唱えるための条件を揃える者がいたか、あるいは他の何者かが二階堂レナを蘇らせたか…。

 そしてその目的とは一体…。


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