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第一章 逆襲編

第三話 報復

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「さぁ、ここまでくればもう安全ですよ~。」

 すごく高いところ…。雲の上までという程ではないけれど、風が凄く強い。

 でもどうして私だけこんなところにいるんだろう?

「あの、二階堂様。他の方々は本当にご無事なのでしょうか?それにどうして二階堂様はご無事でいらしたのでしょうか?あの時二階堂様は…」

「そんなに同時に色々聞かれたら二階堂様も何から答えてあげたらわからないよぉ~あ・き・ら・ちゃ・ん・♡」

 突然背筋が凍りついた。この声はまさか…。

 元南グループC級舎弟の桃香だった。私の記憶が確かならこの子は親睦会で55番のリストバンドを付けていたはず…。

 金髪の長い髪に小麦色の肌が特徴的で私の同級舎弟でいつも仲良しだった。

「どうしてあなたがここに…。あなたもあのとき…」

「だから質問が多すぎるつってんだろ小娘がっ!」

「ザシュッ!!」

 ナイフで左腕を切られ出血した。

「痛いッ!!」

「大人しくしてろや小娘。テメェはあいつらを釣るための丁度いい餌なんだよ。」

 そんな…。どうして…。身体の力も抜けて立てなくなってしまった。

「あ、言い忘れてたけど今のナイフ、神経毒塗ってあるからちと動けなくなるんだわ。下手すると呼吸困難で死んじゃうかもだけどそん時は許してね~ん♡」

「ちょっと桃香~、餌死なせちゃったら意味ないんですけど~。」

「冗談ですって二階堂さまぁ。それにもしコイツが死んじまっても二階堂様なら大丈夫でしょう~?」

「勿論問題ないけど、生きたままの方が利用価値が高いのよ~。南グループの十の掟、忘れた~?」

「あんなの今のうちらには関係ないですよぉ~。あんな綺麗事で腸煮えくり返る無意味な言葉の羅列なんざぁ~?」

「そのへんにしておきなさい桃香。今の私達には関係なくても奴らにとっては重要だからこそ生かしておく価値があるのよ。」

 急に二階堂の表情が強張った。

「エヘッ♡すみませぇ~ん♡わぁ~かりましたぁ~♡」

 私は身体が動かない中で、呼吸が苦しく意識が薄れていく中で二人の会話が少しずつ遠くなっていくように感じた。

 元C級舎弟の桃香。私と違い戦闘要員で華麗なナイフ捌きで南グループの殺し屋の一人と呼ばれていた。

 敵を弱らせる神経毒や敵の急所を狙って一撃で仕留めることも可能でその戦闘力はB級舎弟にも匹敵する程と言われる。

 しかし彼女が昇格に推薦されなかったのは恐らくその狂人じみた性格故の人望の薄さだったのではないかと噂されている。

 親睦会で黎様がお嬢様を助けに向かえなかったのも恐らく彼女の神経毒が原因だろう。

 そしてもう一人黎様にしがみついていた女、リストバンド56番。

 こちらも殺し屋の一人と呼ばれて桃香とよく行動を共にしていた。彼女の名前は市香、そして彼女は…

 屍の塔のふもとにて…

 お嬢と俺は屍の塔のふもとに着いた。『彼女』の情報が正しければ塔の螺旋階段を上がり、その頂上に菱沼と奴らがいるとのことだ。

「お嬢、思い出しました。親睦会で俺を足止めした女二人のこと…。」

 俺がお嬢を肩から下ろしながら、お嬢は悟ったように振り向いた。

「ええ、桃香と市香。元南グループの舎弟ね。二人とも南グループの殺し屋として戦闘員だったわ。そして…」

「パァンッ!!」

 発砲音と同時に塔のふもとに弾丸が落ちて来るのをお嬢と俺は直ぐ察知し弾をかわした。

「あれが市香ね。狙撃、拳銃の腕だけでB級舎弟まで昇りつめた。」

「ここからは弾丸の雨を避けながら頂上まで辿り着かなくてはなりませんね。」

 お嬢と俺は顔を見合わせ意を決して塔に入り、階段を昇っていく。

「パァンッ!!パァンッ!!」

 弾丸の雨は容赦なく降り注いでくる。

 なんとかかわし続けて中間地点辺りまで着いただろうか。

 そこで行く手を阻む者がいた。それは親睦会でリストバンドに20と書かれていた中年男だ。

 お嬢と記憶の中で会話をした。

「お嬢、舎弟にこんなヤツいましたっけ?」

「いえ、コイツは舎弟じゃないわ。一般人よ。」

「ではやはり…。」

「ええ、二階堂レナ。彼女の仕業で間違いないわね。屍人使いのレナと呼ばれるA級舎弟だった彼女は死体を眷属として従えることができる。この人はもう話の通じる相手じゃないわ。いわば『アンデッド』よ。最初からね…。」

 そう、お嬢と俺は二階堂が会場に来た時から『彼女』、いや、南グループの『裏の頭』と呼ばれるD級舎弟の八代花梨と連絡を取っていたのだ。

 八代は非戦闘員で天才的な頭脳を持ち合わせ様々な情報を持っておりそれを数学的に分析することもできれば、過去の南グループや他の組織などの歴史を辿ってあらゆる未来を予測することができる舎弟だ。

 その予測力は未来予知にすら到達しうるためお嬢も俺も厚い信頼をおいている。

 そして八代の情報をもとにこの屍の塔の頂上まで二階堂が菱沼を攫い、弱らせたお嬢と俺を菱沼を餌におびき寄せるつもりだと踏んでここまで足を運んだのだ。

 二階堂がこんなことをする目的は恐らく、あのときの事件の報復…だろう…。

「とりあえずアンデッドに闇属性では分が悪です。お嬢、火葬してやってください。」

「ゴンッ!!」

 俺の頭上にメテオが降ってきた。

「いえ…俺ではなくアイツに…」

「何この私に命令してるのよ!ちょっと一回私の靴舐めなさい!」

 お嬢が腿を上げてつま先を差し出してきた。

「いや…そんな悠長なことをしてる場合では…」

「いいから!そしたらこの死に損ないを火炙りにでも何でもしてやるわよ!」

 全くお嬢は横着だ。

「まぁそれで敵を倒して頂けるならそれぐらいのこと…」

 黎がそう言いかけた途端突然悲劇が襲った。

「ビュンッ!ビュンッ!」

 2つの弾丸が俺の横を掠め血飛沫を浴びた。弾丸に気を取られたあと直ぐ様視界を前に向けるとそこには腹部が血まみれのお嬢が横たわっていた。

「お嬢ッ!!」

 俺は直ぐ様お嬢を抱きかかえた。

「お嬢!しっかりしてくださいお嬢!」

 お嬢の目が虚ろになっていた。

「黎…ごめん…ね…。」

「今止血しますから!」

 容赦なく弾丸の雨が降り注ぐのと同時にアンデッドの男が襲いかかってくる。

「一体どうすれば…!」

 俺はお嬢のドレスからトランシーバーを取り出した。

「舎弟達に告げます!緊急事態です!近くにいる者は今すぐ指定された地点へ!」

 アンデッドの男を蹴り倒し階段から落とそうとするが階段にしがみついてすぐにのし上がってくる。

 蹴れども蹴れどものし上がってくる。

 弾丸の雨も降り注ぐ。

 いつもならすぐに駆けつけるダンテとライトも今は会場で戦闘中だ。

 それにお嬢の止血がまだ十分ではない。

 緊急用の包帯だけでは到底足りない。

 俺はパーティ用の黒いスーツをお嬢の出血を抑えるように巻き付けた。

 その時だった。

 急に階段にしがみついていたアンデッド男の動きが止まった。

 弾丸が空中で複数の泡に包まれて動きが止まっている。

 そして螺旋階段の中心から泡が次々と上昇しあれほど鳴り響いていた銃声がついに止んだ。

 俺はすぐにわかった。

『彼』が来たのだと。

 遡ること数ヶ月前…

 とある児童養護施設で誰とも話さず、何にも興味を示さない少年がいた。

 その少年は気づいていた。

 この世界はつまらないのだと。

 自分の考えていることは大人にすら理解されず、自分の好きなものはこの世界には一つもない。

 唯一つを除いて…。

 その少年が唯一笑顔を見せる時があった。

 それはシャボン玉を吹いている時だった。

 そらに浮かんだ泡のような物質を見ると、優雅で自由で羨ましいと心の底から感じたのだ。

 そして少年はある時悟ったかのようにこう呟いた。

「僕はまだまだこの世界のことを知らないのかもしれない。でも、施設にいる以上外の世界のことを知ることは出来ない。僕もシャボン玉のように優雅で自由に生きてみたい。」

 そう強く願ったのであった。
 
 そして少年は消灯の時間になると施設からの脱走を試みる。

 監視の時間、施設の間取りなど施設については大体把握している少年にとって脱走は簡単だった。

 しかし脱走して行き先もないまま走っていると、大人の3人組に出くわす。

 そして大人の一人は言うのだ。

「おい坊主、こんな夜中に一人でウロウロしてちゃいけないじゃんね?」

 僕はその3人組の隙間から一人の男が物凄いスピードで駆け寄って来るのもなんとなく見えた。

 でも僕は大好きなシャボン玉を優雅に吹いた。

「なッ!なんだこれは!?体が!動かない!?」

 3人組の1人が慌てた声で言った。

「おじさん達こそ、相手が子供だからって油断しちゃいけないじゃんね?」

 僕は優雅に微笑みながら言った。

 物凄いスピードで駆け寄ってきた男も僕に驚いていた。

「だ、大丈夫、ですか?」

 男は泡で動きが止まった男3人組にトドメを刺しながら僕に聞いてきた。

「僕は平気だよ?お兄ちゃんこそそんなに慌てて大丈夫?」

 男は答えた。

「ええ、お前が大丈夫なら大丈夫です。そんなことより、こんなところで何をしているんですか?」

 僕はなんて答えればよいのかわからなかった。

「もしかして、帰る場所がないのですか?」

「…うん…。」

 自由になって世界を知りたかったけどどこに行けばいいか分からなかった。

 すると男は独り言のように呟いた。

「お嬢、今の見てました?」

 そして男は独り言を続けた。

「…わかりました。本人に聞いてみます。」

 そして今度は僕に、

「差し支えなければお名前をお伺いしてもよろしいですか?俺は黎と申します。」

 と言ってきたので僕は、

「裕也だよ。」

 と答えた。

「では裕也、うちに来てみませんか?部屋ならいくつか空きがあるので寝床ならありますよ。」

 僕は警戒した。

「あんただって、この男達と同じように僕を攫う可能性だってあるだろ!僕は自由になりたいんだ!」

 僕はシャボン玉を取り出して吹いたがすぐに男に背後を取られた。

「お前を攫うなら力づくで攫った方が早いですよ。」

 男は余裕そうに後ろから僕の耳元で囁いた。

「なっ!このっ!」

 僕は諦めずに後ろへ振り返りシャボン玉を吹き続けたが何度も背後を取られ全く泡が当たらなかった。

「クソッ!なんでだよッ!」

「もし仮に俺がお前を攫えなくても南グループの誰かが出来ます。南グループに不可能はありません。」

 僕は聞き覚えのある名前を耳にして驚いた。

「南…グループ?」

「ええ、お前を南グループに迎え入れようかと言うのがお嬢と俺の率直な提案です。南グループにはお前が求める『自由』の可能性の手助けができるかもしれません。もっとも、それを決めるのもお前の『自由』ですが。」

 南グループ。

 この世界最大の組織で昔は裏社会の活動が主体であったが今では南家の一人娘であったお嬢と呼ばれる南香歩とその舎弟である田本黎の革命によって十の掟に従い行動する団体。

 僕は迷った。

 自由を求めて飛び出したものの宿も食べる宛も無いのではまた施設に逆戻りだ。それならこの男の言う通りに南グループの庇護下で養ってもらいながら自由を模索する方がいいのかもしれない…。

 そして僕は意を決した。

「…わかった…。入るよ…。」

「わかりました。では正式な入団となりますので、今日からお前は南グループの舎弟です。それと、宿と食事が必要かと思われますので、今からお嬢と俺の家に向かいます。」

 そして男は僕を担いで物凄い勢いで風を切りながら跳んでいった。

「うわあああああああああ!!!!」

 僕はあまりの速さに叫んでしまった。

 そして数分でお屋敷のような場所についた。

 屋敷の弊も男がジャンプで跳び越えて玄関の扉を開けた。

「ただいま戻りまし…」

「ゴンッ!!」

 男の頭に鋭い拳が降ってきた。

「イテッ!!」

「コラッ!屋敷の弊は跳び越えずに正面の門からお行儀よく入ってきなさい!!」

「す、すみませんお嬢…。ただいま戻りました…。」

 これが南グループのお嬢と呼ばれる南香歩と一緒に革命を起こしたと言われる舎弟の田本黎…?ていうかなんで弊を跳び越えたってわかるの…?

 するとお嬢と呼ばれた女が僕を見て微笑んだ。

「あなたが裕也君ねー。話は聞いてるわ。あなたは今日からA級舎弟よ!」

 え…?僕は耳を疑った。僕があの南グループのA級舎弟??

「え?南グループって、F級舎弟の試用期間から始まるものなんじゃないの?そもそもA級って100人程度のかなり少数で優秀な位なんじゃ…。」

「あら、詳しくて感心ね!その通りよ。でもあなたは特別。A級舎弟は戦闘、知識、舎弟管理など様々な能力が総合的に要求されるけどあなたには十分それらが備わってると思うわ。それに、もしまだ備わってないとしてもまだまだこれから成長する見込みだってあるからね!」

 そしてお嬢は続けた。

「私達が思うにはあなたが施設に馴染めなかったのって恐らく生まれつき周りの人より知性が高くて大人からも理解されない才能の持ち主だったからなのよ。でもここに来ればもう自由よ。何かに縛られて生きていく必要なんてないし、あなたの生きたいように生きていいのよ。そのための南グループなんだから。あ、でも勿論ちゃんと十の掟は守ってね!」

 僕は驚いた。

「ちょっと待って!なんで僕が施設の子供だったなんて知ってるの!?」

「このS級舎弟の黎は『ドミニオン』っていう能力を持っていて相手の記憶を読み取ったり記憶を共有したりできるのよ。でも、舎弟になったあなたにはそんなことしないから安心して。あなたの記憶を読み取ったのは舎弟になる前だったから。私達は常に記憶を共有しているんだけどね。」

「舎弟の記憶に干渉するのは十の掟その八、"一から七"に反しない限りプライベートにおける活動内容等は一切を問わない。という内容に抵触すると思うのでね。自分の記憶を読まれるのはあまりいい気はしないでしょう。」

 だからあのとき独り言のように話をしたり、屋敷の弊を跳び越えたことを知ってたりしたのか…。

「なので悪いとは思ったのですが、お前の安全を最優先させていただきたく、お前が名前を名乗った後状況把握のためお前の記憶を読み取らせて頂きました。」

「僕は別にいいよ…。これまで碌な記憶なんてなかったし。」

「あら、シャボン玉はあなたにとって素晴らしい記憶をなんじゃないのかしら?あなたが必要ならいくらでも用意してあげるわよ。今まであなたが出会ったことのないシャボン玉も。」

 僕は思わず笑みが溢れた。

「ホントにッ!?やったー!!」

 それが裕也と南グループの出会いだった。

 そして現在…

「やっほー!黎兄ちゃーん!随分苦戦してるみたいだね!それにお嬢の止血もそんなんじゃまだまだ甘いよ!僕の泡で全部止めてあげるからちょっと離れてて!それー!!」

 彼の持つ鉄砲型から吹き出る複数のシャボン玉がお嬢の傷口に瞬く間に張り付く。

 そう、彼は子供A級舎弟の裕也だ。

「ありがとうございます。お陰で助かりましたよ。」

「それじゃあ今日のご飯楽しみにしてるからねー!それで、黎兄ちゃんはお嬢を担いで病院に連れてって、ここは僕に任せて!」

「しかしそれでは…」

「いいからいいから!傷の手当だって一時的なものだし、本格的な手当は早いほうがいいって!」

 確かに彼の言う通りだ。

 一刻も早くお嬢の一命を取り止めなければならない。

「わかりました。お嬢を病院に連れて行ったら、すぐに追いつきます!無理はしないようにしてください!」

 裕也はにっこり微笑んだ。

 すぐにお嬢を担いで南グループが経営している南病院に向かった。

 そこでは医療班の舎弟達が最先端の医療技術で治療に当たってもらうことができる。

「お嬢…どうかご無事で…。」

 屍の塔の頂上には水色の瞳に茶色のマッシュヘアの少年が1人姿を表した。

「あれぇ~?もしかして迷子ちゃん~?か~わい~♡」

 少年の背後に直ぐ様ナイフを持った女が少年の首元にナイフを突きつけた。

「ひいっ…!」

「エヘヘ♡いい声出すねぇ~♡いじめたくなっちゃう♡」

 すると少年はほくそ笑んだように

「なーんてね。」

 と言い女は一瞬で身動きがとれなくなった。

「はぁ!?なによこれ!?泡!?このクソガキィィィィ!!!!」

「お姉ちゃんは全然かわいくないじゃんねー。」

「コ!コイツッッッ!コロ…ㇲ…」

 女が言いかけた途端女の口元に泡が付着して女はそれ以上喋れなくなった。

「お姉ちゃんは黎兄ちゃんに比べたら止まって見えるよ。まぁ、もう本当に止まっちゃったけどねー。」

 裕也はシャボン銃の引金部分を軸にクルクル回しながら余裕そうに吐き捨てた。

「あら坊や~、見かけない顔ね~。でも~…ただ者ではないようね。そんな子がここになんの用かしら?」

 地面に横たわってる茶髪のショートヘアのお姉さんと、僕に優雅に話しかけてきた長い黒髪にウェーブがかかっているお姉さんがそこにはいた。

「えーっとねー、晶姉ちゃんを返してもらうよ?レナ姉ちゃん。」

「あら、私のこと知ってるのね。でもあなた1人に何ができるのかしら?」

 すると二階堂は呪文を唱える。

「いでよ!この世に未練を残し屍達よ!」

 塔の屋上を埋め尽くすようにアンデッド達が地面から湧き上がってくる。

「僕1人?僕はここまで1人できたわけじゃない。それとね、レナ姉ちゃんはもう南グループのA級舎弟じゃないんだよ。十の掟に誓って本当のA級舎弟の実力を見せてやるよ!」

 裕也は自ら膨らませた大きなシャボンを形成して中に入り優雅に宙を舞う。

 その中から両手でシャボン銃を連射し次々とアンデッドを牽制していく。

「アンデッドは再生力や耐久力、闇属性耐性などの強みは沢山あって正直黎お兄ちゃんの苦手分野だと思うけどー、動きを封じることが主流の僕の『バブルバインド』の前ではそんなのなんの意味もないんだよっ!」

「戦闘力だけじゃなくてちゃんと知識量も豊富で感心しちゃうわ~。流石現役A級舎弟ね~。では、こんなのはどうかしら~?」

 辺りに緑色の霧が漂い初めた。

 アンデッド達の泡が徐々に外れて晶お姉ちゃんの方にアンデッド達が襲いかかろうとしている。

 そして最初に牽制したはずの女まで泡が外れてきて遂には喋れる状態にまでなってしまいそうだ。そして何より呼吸が苦しい…。

「あらぁ~、流石に坊やもこの霧は耐えられないかしら~?早くどうにかしないと晶ちゃんも死んじゃうよ~?アンデッドに食べられちゃうか~?毒霧で呼吸困難になっちゃうかでね~?」

 ついに僕を襲ってきた女の口元が動き始めた。それにしても、どうしてこの女は毒霧の中でも平気なんだ?まさかこいつも…。

「コロ…ㇲ!!あのガキ殺す!!!めった刺しにしてやる!!!」

 遂に女に纏わりつく泡が解除され宙に浮かぶ僕の襲いかかってきたその時だった。

「ザシュッ」

「ぐはっ!!」

 何か肉のような物が切れる音と同時に呻き声が聞こえた。

 そして僕は誰かに抱きかかえられた。

「すみません、遅くなりました。それでは、裕也と菱沼の顔色があまりよろしくないので俺達はこれで失礼しますね。」

 黎兄ちゃんだった。

 黎兄ちゃんは晶姉ちゃんも抱きかかえ塔頂上から飛び降りた。

「うああああああああああああ!!!!」

 僕はあまりの急降下に叫んでしまった。


 次回 第四話 決戦
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