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第三章 教師たるものが生徒に責任を持った発言をできない現実が残念なんです。

第二十話 未熟な果実が熟れるまで待つのも時には必要。

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「こ、これは!」

 伊織は自分の席に座り、光はノートを取っている。

「っていうか君達!何してるんだ!」

「何ってどう見ても勉強ですけど。」

 伊織は参考書を読みながら答える。

「ちょっと君たち職員室に…」

「今は授業中なので勉強してるんです。邪魔しないでくれませんか?」

「田野先生、ひとまず彼らの事は後です。救急車を呼びましょう。」

「まだ救急車呼んでなかったんですね。遅すぎませんか?その間、光は二次関数の平行移動の理解まであと一歩の所ですけどね。」

「お前いい加減に…」

「いい加減に現実を見たほうが良いのは先生達の方でしょう。」

 伊織は田野と呼ばれた教師の言葉を遮り伊織は背中を向けながら背後にいる教師にある本を開いて見せる。

 それは多くの悪口が書かれていた光の教科書だった。

 昨日担任の恵に見せた教科書とは別の科目のものだ。

「なんだ…それは…。」

「書かれている内容ごとに筆跡がそれぞれ違うので俺が自作自演しようとしても多分無理ですよ。それより早く優先順位決めてもっと手際よく動かないと2人とも死にますよ?」

「私が先生の1人だったら…応急のための止血とかするかな…。私が何かされた時は誰も何もしてくれなかったけどね…。伊織くん以外は…。」

 光がノートにグラフを書きながら呟く。

「し、止血を!誰か生徒の止血を!」

「私がやります!」

「その声は黛先生じゃないですか。家庭科の授業はどうされたんですか?」

「自分のクラスの生徒が血まみれで倒れてるって聞いて駆けつけたんです!」

 恵は応急処置をしながら答える。

「私のときは…何もしてくれなかったのに…。」

「ッ!」

 恵は動揺する。

「今日の2限って家庭科でしたよね。中止ですか?」

 光はそれを聞いて筆を止め、2限目に備えて準備していた机の横にかかってる裁縫用具を取り出して開ける。

「シャキンッ!」

 光はある物を取り出してその先端を見つめる。

「ラシャ鋏…。」

「光、タイミングが大事だよ。今はまだ我慢して。」

 恵がその言葉を聞いて青ざめた。

 ラシャ鋏。

 布地を裁断する鋏のこと。

 応急処置をしていても家庭科を担当している恵には光が何をしようとしたのかがこの状況とこれまでの経緯を照らし合わせて何となくわかった。

「伊織くん…好奇心失うなって…」

「それはそうだけどタイミングを間違うと折角の好奇心が燻って終わってしまう事もある。未熟な果実が熟れるまで待つのも時には必要。その先に必ずもっといい事が待ってるから。」

「伊織くんがそう言うなら…私信じる…。」

 そう言って光は裁縫用具にラシャ鋏をしまう。

 恵には2人のやり取りがとても恐ろしく感じた。

「救急車が到着したようです!」

 教師が1人声をあげる。

 そしてしばらくすると救急隊員が到着するが、伊織と光は何事もないかのように勉強をしている。

「担任の黛先生が同乗を…」

「いえ!私は黒田くんと橘さんとお話しさせてください!」


 次回 第二十一話 まさか本当に誰にも言わずご自分で建て替えたんですか?
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