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第二章 俺は好きかどうかわからないって答えたからそういう意味ではあるんじゃないの。

第十話 彼女にとっての先生の授業が勿体なくありませんか?

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『なんか…あの2人和解したみたいだけど…。』

『あの黒田くんが…信じられない…。』

 伊織と光がやり取りをしたあと、2人がそれぞれ机に向かって勉強していたら塾生が次々と入ってくる。

 入ってくる塾生は皆大人しく席に着く。

 ただ1人だけ、困惑している塾生がいた。

「………。」

 しかしその生徒は黙ったまま立っていて、他の生徒も黙っていたままだった。

「よし、始めるぞ。田端、お前も席につけ。」

 講師と思われるスーツの男が入ってくる。

「……はい…。」

「無料体験の橘さん、今日はそこの席で授業を受けてくれるかい?」

 そう言われて指を刺されたのは光が座っている伊織と反対側の1つ隣の席だった。

「は…はい…。」

 光は一つ右隣の席にずれたあと、田端と呼ばれた女子生徒が光の座っていた席に着く。

「これ、今日の分のテキストの範囲ね。学校で進んでないところもあるだろうから分からなくても大丈夫だからね。」

 講師にそう言われて光はテキストをコピーされたプリントを渡された。

「あ…ありがとうございます…。」

 そして講師は教卓に戻る。

「そしたらまず前回の宿題からだ。1問目、長島。」

「はい…ええっと…x=2とy=3…です。」

「そうだな。次2問目、田端。」

 田端は鞄の中身をずっと漁っている。

「……すみません…ノート…忘れてきてしまいました…。」

「なんだと?お前宿題はちゃんとやったのか?それにお前今日の板書どうやって取るんだ?」

「やりました…板書は学校のノートに…」

「学校のノートと塾のノートは分けないと進度が分からなくなるだろ?次からちゃんと持って来い。」

「は…はい…すみません…。」

「じゃあ代わりに、米元。」

 そんな感じで1限目の数学の授業が進んでいくが、光はやはりまだ手をつけたことのない範囲で授業にはあまりついて行けなかった。

「先生。」

 その声にクラスの全員はドキッとする。

「どうした?黒田。」

「橘は授業の内容が分からないと思うので俺と田端、席交換してもいいですか?俺が教えるので。」

「教えるってお前、授業中に私語をするのは授業の妨げになるだろ?」

「折角無料体験に来た生徒が何も分からないまま手ぶらで帰ってしまったら、彼女にとっての先生の授業が勿体なくありませんか?わからない人の話を聞くのは葬式に参列した人達がお経を唱えられてその意味が理解できないのと同じことだと思いますよ。」

「…わかった、そこまで言うなら、最低限の会話で教えてやれ。」

「はい。それじゃあ田端、そこどいて。」

 伊織がそう言うと田端が立ち上がる。

「は…はい…。」

「それと、」

 伊織と田端が席を交代する時に伊織が小声で田端に耳打ちした。

「本当は宿題やってないくせにノート忘れたとか何で嘘ついてんの?」

 それを聞いて田端は青ざめる。

「…え…なんでそれを…」

「塾通うの面倒なら通うのやめなよ。そんなことしても意味ないから。」

 伊織にそう言い捨てられた田端は何も言い返せなかった。

 そうして伊織は光の隣の席に座る。

「黒田くん…自分の勉強は大丈夫なの…?」

 光が伊織に声をかける。

「俺はいつでも自分で勉強できるけど、お前に教えられる時間はこうしてお前と会ってられる時間しかない。」


 次回 第十一話 『加減法』というものが1つ使える。
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