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モンブラン

第三話 予告

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「それで!どういう事なんですかポンコツメイド!モンブランに毒が盛られていないなんて!!」

「私だって知らないですよー…。でもおかしいと思いません?屋敷の時計が全て30分ズレてたんですよ?」

「そんな事よりあなた最初からモンブランに毒が盛られてないって気づいててどうしてあんな嘘をついたんですか!?」

「いやぁ…だってぇもし本当に毒が入ってたらぁ…危ないじゃないですかぁ…。私だってそのぉ…色々考えてるんですよぉ…?お陰でリサラ様も安全に食べられたんですからそれでいいじゃないですかぁ…?まさかメイド長ともあろうお方があんな獣みたいにお皿を舐め回すなんて事をするなんて思いませんでしたがぶわははははははッッッ!!!」

「うおっほんっ!!あのですね!それとこれとは話が別なんです!いいですか!?とにかく!このお屋敷で奇妙な事が起きてるのは事実なんですから何か手がかりを掴まないとご主人様に合わせる顔がありません!本当にこの部屋では何もおかしな事は起きてなかったのですか!?」

「銅像の顔がおかしかったはっはっはーーーーーーッッッ!!!」

「それは言えてるハッハハハハハハハハじゃなくて!!あなた何でそもそも時計の針なんて持ってきたんですか!?」

「あー、ご主人様の観察がしたかったからだよ。」

「は?観察?」

「探偵っていうのは不可解な出来事の真実を追求するための細かい事がらの観察が常に必要なの。だから私は潜入する上では特に潜入現場に関わる人間、場所、物、あらゆる事について観察する癖がつくんだよ。例えばさっきご主人様は時計の針を見た時に時計の針だと言う事は分かったけれどもどこから持ってきたものなのかは分からなかった。これがどういうことか分かる?」

「ポンコツメイドのくせにメイド長のこの私に説教!?小生意気ね!!時計に興味がないのよご主人様はきっと!」

「うーん…全然だめだねぇ…。」

「はぁ!?なんですって!?」

「だってご主人様は屋敷の物品のそれぞれの価格を把握してるし物に興味がないとは私は到底思えない。時計に関してもそれは例外じゃないだろうし短針を見ただけでどのメーカーであるとかどのブランドであるとかそういうマニアの域には達していないにしてもある程度こだわりはあると思うんだよね。それに時計にこだわりがなかったら1億もする時計をあんな地味な廊下に飾るかなぁ?」

「っくうううっっ!!こいつうううっっ!!」

「カチッ………」

「フゥー………。それにご主人様は嫌煙家じゃんか?飾り物にヤニが付着したらそれだけ物の価値が下がるのは事実だろうし健康にも良くな…」

「1本…」

「え?」

「1本吸わせなさい。」

「自分の持ってないの?」

「ご主人様が嫌煙家だから禁煙してたのよ。でもね…」

「………」

「あんたが吸ってるの見るとこっちまで吸いたくなるのよ早く吸わせなさいよーーーーーッッッ」

「アッハハハハハハこりゃ傑作だ!!!どうぞどうぞ!!!」

 そう言ってアユメは煙草を一本とライターをリサラに手渡す。

「カチッカチッ!!」

「……プハーッ………うんめぇーーー♡」

「あ、お姉さん、楽しんでる所申し訳ないんですけど…」

「誰がお姉さんよこのポンコツメイドが!『リサラ様』でしょーが!」

「いやもうヤニカス女にしか見えねぇっすよぶわはははははは!!!」

「このポンコツメイドが根性焼き入れてやろうかゴルァアアアアアアア!!」

「はっははははははは!!!そんな事より…」

「カチャ…」

「私の正体、誰にも話してねーだろうな?」

 アユメが煙草をくわえ鋭い表情でリサラに拳銃を突きつけながら言う。

「…随分物騒な探偵さんじゃない…。フゥー…。」

「ジュウウウ…」

 リサラは吸っていた煙草を素手で握り潰す。

 そして同じように鋭い表情をアユメに見せて両手をあげる。

 てのひらに握られていた吸い殻が床に落ちる。

「スモーキングタイムはもういいのかい?」

「こちとら禁煙中の身である事を忘れていてね。」

「………」

「あなたが探偵である事はご主人様と私以外は知らないわよ。今のところはね。」

「………」

「でも気をつけといたほうがいいわよ。あなたがご主人様と長く居ること、私と長く居ること、それを不自然に思う人はきっとそのうち現れる。だから…」

「ピュー…」

 突然リサラのメイド服に水がかかった。

「はぁ?」

「ピューっピューっピューっ」

 アユメはリサラに向けて水鉄砲を撃ち続ける。

「おい。」

「ピューっピューっピューっピューっピュ…」

「ベシッッッ!!!」

 アユメは頭を叩かれた。

「何してんだおめぇ。」

「いや、私の正体がバレてないなら別にいいかなって思って。」

「………」

「………」

「おどかすんじゃねーーーーーッッッ!!!」

「………あい?」

「こちとら死を覚悟して人生初の根性焼きをてのひらに入れたところだったんじゃ!!人に緊張感掻き立てて何がしてぇんだてめぇはアアアアアアア!!」

「………へい?」

「人生最後に食べたものがあんなモンブランの残骸で済まされるほど私の市場価値は下がってないんじゃーーーーーッッッ!!」

「………おん?『あんなモンブラン』…?」

「せめて前回食べたモンブランで一生を終えるならまだ許してやる所だがどこにでもある市販のモンブランより少し格を上げた程度のものじゃ私は一生を終えられねぇなあああ!!!お前もそう思うよなアアアアポンコツメイドオオオ!!!?」

「あー………なるほど…。」

「ジュウウウ…」

 アユメが銅像の口元に煙草の吸殻を押し付けて床に捨て、食されたモンブランの机のもとにあゆみよる。

「確かにこれじゃあ一生を終えられないかもね。」

「そうだよなア!?」

「前回より味が落ちてたんだね?」

「そうなんだよ!不味くはねーけど私には分かる!あれはいつものモンブランじゃない!私には…」

「『いつもの』?リサラ前回が初犯じゃないんだね?」

「………アッ…!」

「食べかけだったとは言えここまでリサラが人生最後に食べるものに相応しくないと主張するなら調べてみる価値はありそうだ。」

 そう言ってアユメはエイトの部屋の時計を確認する。

「待ちなさい!ポンコツメイド!それには触るな!その時計の値段は…」

「うん、わかってる。だからこそ確かめる必要がある。」

 アユメは先程指を差した部屋の掛け時計を手に取った。

 ギリシャ数字で白い盤面に黒い文字で1から12まで表記されていて縁は黒色でコーティングされていて少し厚みのある円形をした時計だ。

「カッ…カッ…カッ…カッ…」

 1秒毎に秒針がアユメの耳に鳴り響く。

 アユメは裏面を見てみる。

「うーん、やっぱりちょっとおかしいよなぁ…。」

「カッ…カッ…カッ…カッ…」

 もう一度表面を見つめる。

 アユメがスマホを取り出して時間を確認する。

「カッ…カッ…カッ…カッ…」

 ……………

「……コツ…イド…、…ンコツ…イド…!、ポンコツメイド!!」

「………あい…?」

「何をしてるんですか!?早く時計を元の場所に戻しなさい!!その時計の価格は…」

「それはできないね。この時計は私が頂く。」

「カチャ…」

 アユメが拳銃をリサラに向ける。

「ふんっ!何言ってるのよ!またそんなおもちゃで私を脅そうとしたって…」

「パァンッ!」

「………はぁ?」

 リサラが気づいた頃にはアユメは部屋から姿を消していた。

 ……………

「はっはーーーーーッッッ!!!こんな高級な時計があるなんていい土産になったぜぇええええええ!!!!!今日はメシは焼肉だオルァアアアアアアア!!!」

「アユメ!大丈夫か!?どうしたんだ!?そんな大声を上げて!!」

「………アアアアアアアアアアアアアアッッッご主人様アアアアアアア!!!!!ファッキュンクレイジータイミングでございまああああああす!!!!!」

「………はぁ…?」

 ……………

「あのポンコツメイド私に実弾をなんのためらいもなく撃ちやがってゴルァぁぁぁぁぁぁ!!!私の崇高なる神回避がなければヘッドショットしとったわどこ行きやがったオルァアアアアアアア!!!?」

 ……………

「いやぁ…あのですねぇ…急にご主人様が現れたもので驚きのあまり思ってもないことを口走ってしまったんですよぉ…。」

「急に現れて驚いたって、俺は遠くからお前に声を掛けたんだぞ。そんなに驚くことないだろう?」

「…そんなにぃ…遠かったですかぁ…?」

「ああ、100mは離れていた。」

「………オー…マイゴぉッ…ドゥ…。」

「それに、それは俺の部屋の時計じゃないか、そんなものを持ち出して一体何をしているんだ?」

「これはそのぉ…調査のために必要だったんですよぉ…。」

「調査?お前ここがどこだかわかっているのか?」

「………あい…?」

「屋敷の庭だぞ。屋外だぞ。お前はどこに向かおうとしていたんだ?」

「………」

「………答えようによってはお前は…」

「あーーッ!!!あんなところに時計がアアアアアアア!!!」

「当たり前だろう。俺は屋敷の各場所に時計を設置しているんだ。」

「…ところでぇ…なんで高級な時計を屋敷の各地に設置しているんですかぁ…?」

「仕事をしている上でどこにいても時間が分かるようにするために決まっているだろう。腕時計は仕事をする上で邪魔になる事も多いからな。特に雑務の多い下っ端メイドのお前なら手作業が多いのだからよくわかるだろう。」

「そ…そうですねぇ…へへ…へへへ…(雑務なんてやったことねーや)。」

「それで、お前はこんなところに何をしにきたんだ?」

「…う…うおっほん!おかしいと思いませんかご主人様!この時計とあの時計はズレてるんです!」

「それはさっき、お前が屋敷の時計は全部ズレてると言っていたんだからあの時計もズレていた、というだけの事だろう?」

「違います。私が言っているのは『この時計』と『あの時計』の針のズレの事です。」

「何?」

 アユメが時計の表面をエイトに見えるように掲げるとエイトはアユメが持っている時計と庭の時計を確認する。

「確かに…僅かだかズレているな。だがこれで何でおかしいんだ?少しぐらいズレる事は人間が操作している以上は仕方のないことだろう。」

「ご主人様の時計は実際の時間から30分丁度ズレているんです。」

 アユメが時計を抱えてスマホを取り出し画面をエイトに見せる。

「時計の秒針とスマホの画面をよく見比べていてください。」

 スマホ画面は『16:33』

 時計は『16:03』辺りを指しており秒針は10時の方向を指している。

「カッ…カッ…カッ…カッ…カッ…」

 静寂の屋敷の庭で時計の秒針が静かに音を立てている。

「カッ…カッ…カッ…カッ…カッ…」

 時計の秒針が12時の方向を向くと同時にスマホ画面の時間が『16:34』に切り替わる。

「…!」

「いくらなんでも正確すぎると思いませんか?」

「…ああ…でも…誰がどうやって…」

「タイマーでしょう。」

「…タイマーだと?」

「誰かがタイマーをセットして丁度30分だけこの時計の時間を止めるようにセットしたんです。その証拠に私はこの時計を持って試しに走ってみましたが中でカチャカチャ音がしてましたから時計の中に何かが入ってる事は間違いありません。高級時計が何かに振られてこんなに音を立てるなんて事は普通はないでしょうからね。」

「カチャカチャカチャカチャカチャ」

 アユメは手に持った時計を揺すってみる。

「なるほど…だがそんな事をして一体何になるというんだ…?犯人は一体何の目的でそんな事をしたんだ…?」

「モンブラン…あれはご主人様宛に向けた予告状か或いは警告のようなものだったんです。」

「予告状か警告?」

「期間限定数量限定のモンブランの味をいつもと変える事が犯人の予告状を意味するか、もしくは犯人に脅されてモンブランを作った誰かが犯人に気づかれないようご主人様に警告を出したのだという事です。」

「待てアユメ、味をいつもと変えたとはどういう事だ?それでは味見してみないとわからないじゃないか。あのモンブランには毒が盛られていたのではなかったのか?」

「………」

「………」

「アアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」


 次回 第四話 陰
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