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第一章 南ヶ丘区のマドンナ

第三話 勉強してないと、それこそ生きてて飽きないの?

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 2人は下駄箱でそれぞれ靴に履き替え、校門を出て横に並んで下校する。

「お前、このあと暇?」

「ううん、帰ってから勉強しないといけないから。」

「お前、ずっと勉強してんの?」

「うん。だって学校は勉強するところだから。」

「いや、確かにそうなんだけどよ。勉強ばっかしてて飽きねーの?」

「勉強に飽きるも何もないよ。新しい事を学ぶと世界が広く見えるから私は好きだよ。」

「へぇー、俺、勉強した事ねぇからわかんねー。」

「え!?どうやって高校に入ったの!?」

「こんな高校名前書けば誰でも入れるって…。」

「そうなんだ…。でも、勉強してないと、それこそ生きてて飽きないの?」

「生きてて飽きる、か。考えたこともなかったな。もしかしたら每日変わらない日々を惰性で生きてる俺の方がつまらないのかもな。」

 アキが自己嫌悪を抱いたのか俯いてしまう。

「そ…そこまで言ってないよ…!なんか…ご…ごめん…。」

「なーんてなっ!」

 アキが急にケロっとした表情を直巳に向ける。

「え!?」

「いや、こうしてお前と話してるとつい楽しくてからかいたくなっちまった。」

「もうっ!心配して損したっ!」

 直巳がそっぽを向く。

「そんなに怒るなって!じゃあさ、お前、俺に勉強教えてくれよ!」

「嫌ですっ!誰があなたなんかに…キャッ!」

 突然アキが直巳を抱き寄せる。

「今日は勉強俺に教えてくれるまで、離さねぇぞ?」

「な…なんで…?」

「俺も知りたくなっちまったんだ。お前の見てる世界を。」

「わ…わかった!わかったから離してっ!」

「………。」

「ど…どうしたの…」

「なんか、離したくなくなっちまった。」

「なに…なに言ってるの…」

 直巳からの顔にアキの顔がどんどん近づく。

 アキは目を閉じている。

「ねぇ…ちょっと…」

 直巳の呼びかけにアキがゆっくり目を開ける。

「あ、悪ぃ、ウトウトしちまった。」

「…え…。」

 直巳は心なしかアキに抱き寄せられ、顔が近づくに連れて鼓動が速くなって行くのを感じていたような気がした。

「そんで、場所はどうする?お前んち?俺んち?俺も家近いからどっちでもいいよ。」

「わ、私もど…どっちでもいいよ…。」

「じゃあお前んちで。」

「うん…わかった。」

 そうして2人は直巳の家へと向かった。

 そして到着する。

「ここがお前んちかー。」

 直巳の家は一戸建て。

「うん、今は誰も家にいなくて、途中からママが帰ってくるけど大丈夫だよ。」

「そうか。そしたら挨拶しないとな。」

「お水とお茶があるけどどっちがいい?」

「ジュースねーの?」

「体に悪いからうちにはないよ。」

「じゃあお茶貰うわ。」

 直巳がアキを自分の部屋へと案内する。

「ここが私の部屋だから、ここで待ってて。」

 漂うアロマの香りと暖色系で統一された部屋。

 ベッドには熊のぬいぐるみが置いてある。

「部屋まで女子じゃん…。」

 しばらくすると直巳がコップにお茶を2人分持ってきた。

「はい、どうぞ。」

「サンキュー。」

「それで、どこが分からないの?」

「ん?何が?」

「勉強でしょ?分からないところがあるんじゃないの?」

「いや、全部わからねーよ。」

「…中学校のところも分からないの?」

「小学校のところも自信ねぇ。」

「え…どうするの…。」

「どうにかなんだろ。」


 次回 第四話 世の中の基本的なことってちゃんと理解してから大人になった方がいいと思う。
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