漢方薬局「泡影堂」調剤録

珈琲屋

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番外編:真衣優夢さん企画 ハロウィンTRPG『かなしいやかた』リプレイ

1 ※御園視点(「閑話 筍 生ず」のお化け屋敷から出た後、くらいの時間軸です)

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ここに置いてあったはずの物がない、というのはよく聞く。
家でもよく母さんが、「ここに置いてあったはずの〇〇、知らない?」って家中探し回るのをよくやるし、俺もスマホだとよくやる。一回、ガッコに置いてきてたことがあって、あの時は焦ったけど。


では、ここについ数分前まで在ったはずの建物がないというのは?

俺はこれもたまにある。
一度は小学校の通学路で、一度は爺ちゃんちの近所で。
爺ちゃんちの近所はまあまあ、見間違いだったと思えば何とかなるが、小学校の通学路のやつは、航太も一緒だったから間違いなかった。


……たぶん、アイツはもうそんなことがあったこと自体、覚えてないんだろうけど。









うちの高校の遠足は、ある意味遠足という名の修学旅行みたいなもんで、基本遠すぎなければ、どこに行ってもいい。
それを最大限に有効活用して、今回やってきたのが山梨県の某遊園地だ。
そして俺たちは、名物の富士山の見えるジェットコースターで無事死亡し、次の名物の絶叫系廃病院お化け屋敷を楽しく遊んできた所だった。航太以外は。

散々泣き叫んで疲れた航太がちょっと気絶している間に、トイレに行っていた俺は、みんなが待ってるはずの小さな広場のベンチまで戻って気づいた。
……なぜか、航太以外の3人が全員いない。
航太もいつの間にか起きていて、目が覚めたばっかりみたいなキョトンとした顔で、ベンチに腰掛けていた。

「……あれ、他の3人どこ行った?」

「……俺も気づいたらいなかった……。てか、俺寝てた?」

「うん、まあ、寝てたというか……。しょうがねーな、スマホで連絡だけつけとくわ。後で気づいたら連絡くれるだろ」

スマホを取り出して弄りだした俺を、しばらくぼうっと見ていた航太は、あ、と声を上げて俺の後ろを指さした。

「見て見て、ソノ! あれ、俺が入るつもりだったお化け屋敷、あんな感じ」

「……あ?」

とりあえずモモに、と思って作りかけた文面をひとまず置いて、無邪気に航太が指さす後ろを振り返る。
そこには、ついさっきまで目立たな過ぎて気づいてなかった、こじんまりとしたお化け屋敷があった。

なんか、昭和を感じるペンキ絵みたいなタッチの洋館の絵が描かれていて、入口の上には「かなしいやかた」と、これもおどろおどろしい書体で書かれた看板がある。
入り口にはちょっと暇そうなスタッフらしい男性が立っていた。

「あれなら俺でも楽しくクリアできると思う!」

「いや、お前の場合は……どうだろうな」

明らかに作り物でもギャン泣きするからな、お前……。
それは言わずに口を濁していたら、とたんに航太がムッとした顔になる。

「なんだよー、俺だって大丈夫だもん! みんなも他の乗りにいってるだろうし、俺らもアレ、遊んでみよ!」

「あー、わかったわかった。モモ宛にこれだけ送るから、ちょっと待て。……よし」


パパッと連絡さえつけてしまえば、あとは自由だ。
ちょっと元気になった航太に引っ張られて建物に近づくと、ココは他のと違って、チケットの購入が必要らしい。
それぞれ一枚ずつ買って、入口の暇そうで眠そうなスタッフに近づくと、思ったより人好きする顔でニコッと笑って「こんにちはー」と明るく声をかけてくれた。
差し出された手にそれぞれチケットを渡して、明るくてよく通る声で説明を受ける。

「はーい、まずはチケット拝見しますねー。『かなしいやかた』にご来場ありがとうございます! こちらは、出口で回収するペンになります。途中で落とさないよう、気をつけてお持ちくださいませー」

チケットの代わりに、俺の方にペンが差し出されたので受け取って、とりあえず学生服の胸ポケットに刺しておく。

「こちらはポケットベルです。リーダー役の方がお持ちください。持っていっていい物がある時は『リリリ』、持ってっちゃダメな物を持っている時は『ブー』っと鳴りますので、音にはよく注意してくださいねー」

「リーダー……とりあえず、俺が持ってていいか?」

「うん! 俺だとどっかやっちゃうかもしれないし、ソノが持ってて」

「わかった。……じゃあ俺にください」

そっちは腰のポケットの方に突っ込んで、改めてスタッフの人を見ると、ニヤッといたずらっぽく笑う。

「はじめての方には、ヒントを差し上げます。『長く遠く回りましょう』 ……それでは、どうぞ館の大扉へお進み下さい。 大扉が開きますよー」

言われてみれば、確かに少し先に大きな扉がある。
ギギギッといかにもな軋む音を立てて、扉が開き切るのを待たずに、俺は先に中へと入った。

「……え、ちょ、待ってソノ! いきなり入るなって!」

「お前が入りたいって言ったんだろ、置いてくぞー」

「……だって、暗いと怖いじゃんー……」

そしてずんずん進む俺に続いて、おそるおそる航太が扉から完全に中へと入った後。
ガシーン、と鉄扉を閉めるような音を立てて、中は一気に真っ暗闇になった。
そして、ポケベルがぶるぶるっと振動し、「リリリ」と音が鳴る。

「ギャッ!!!」

一気に暗くなったのにびっくりしたのか、ポケベルの音にビビったのか、航太の悲鳴が響き渡る。
それだけ声が響くって事は、それなりに広い空間があるらしかった。
そしてまた唐突に、空間の天井からパッと明かりが一筋落ちる。



スポットライトらしき灯りは、部屋の中心を丸く黄色く切り抜いていて、そこに何か落ちているのが見えた。
とりあえずズンズンそっちに進む俺に、いつの間にか腕に張り付いていた航太も一緒についてくる。

「え、なんだろ、これ……。警棒?」

「……いや、懐中電灯じゃねーの? あ、点いた。さすが、こういうトコはやっぱしっかりしてるな。……ちょっと航太、あんまガッツリ引っ付くな。動けねーって」

「だって、ここ暗いから怖すぎるんだよー……」

拾いあげて、外側の暗闇に向けてカチカチやると、パッとビームみたいに光の筋が伸びていく。
そのままスポットライトの回りをぐるりと照らすと、右、左、真ん前にそれぞれ一つずつ、扉があるのが見て取れる。
そして、それぞれの扉の前に一人ずつ、小学生くらいの小さな子供が立っていた。

「……ふぎゃっ!!」

その姿をパッと懐中電灯が照らしだしたとたん、航太の悲鳴がまた響く。

「……航太、いちいち叫ぶなよ、こっちの耳が痛くなるわ」

「だって、だってー! ……ってか、もうおばけいるじゃん!いるじゃん!なんで、そんなソノ平気なんだよー!」


お化け役の子供は、みんな違うタイプの服を着ていて、全員そろって俯いている。

左の子はちょっとぽやっとした雰囲気で、外国っぽいカチっとした子供服を着た男児、真ん中の子はどっか痛いのか辛そうで、野良着みたいな服を着た男児だった。
右の子だけが女の子で、ドレスを着て、ギュっと自分を抱きしめている。

パッと見て気になったのは、いかにも具合が悪そうな野良着の子だった。
お化け役の子だって人間だから、当然体調悪くなったり、腹が痛くなったりするだろう。
その子の前まで行って、目線を合わせるようにしゃがもうとしたとたん、くるんと扉の方へ向き直った子供が、扉をパッと開けて逃げていく。

「……大丈夫か? あ、おい! …………まあ、走ってけるくらいなら、具合悪いって事もないか……」

「なんで見てわかるお化けに近寄ってくんだよー!ソノのバカ―! ……うぉ、え、なんで逃げたん? ……これなに、地図?」

「……あ、バカ、そっちの子も逃げちゃったじゃんか……。あんま怯えさせるなよ、航太」

「いや、先に子供逃げさせたの、ソノだったじゃん……! なんで俺のせいになってんの、ひどい!」

迂回するように来たかったのか、左の扉側から回り込んできた航太が、逆に左の扉にいた子供にも近寄ってしまい、その子もパッと扉に振り向くと走るように逃げていく。

その子の下に地図が置いてあったらしく、航太が恐る恐る拾い上げているのが見えた。
懐中電灯で足元を照らしてみれば、自分の方にも同じように地図が落ちている。
とりあえず拾い上げて、ソワッとこちらを見てくる航太に手招きすると、パッと顔を輝かせて俺の方に走ってきた。

「なになに?」

「お前の方にも地図落ちてただろ? こっちにも地図あった」

二人して顔を一瞬見合わせ、揃って地図を覗き込む。
見た感じだと、どうやらさっきの子供が逃げていった先はAの部屋へ続くようだ。
学生服の胸ポケットに刺しておいた受付のペンを使って、ぐるりと部屋順をなぞってみると、上手く回れば同じ部屋を経由せずにある程度は回れそうだった。

「……航太、ちょっとお前の地図も出してみろ。同じ奴か?」

「たぶん……?」

二人分の地図を重ねて、懐中電灯で透かして見ると全く同じ図なのが分かる。
よし、と頷くと一つは返して、俺は自分の方の地図の『A』のところに丸を付け、キョトンとしている航太に説明した。

「こっからこう回ると、あんまり同じ部屋いかずに済みそうだから、こっちから回ろうと思う。ちょうどアルファベット順だしな。……こっちの部屋はいるなら……航太が逃がした子の扉だな」

「だからなんで俺のせいばっかり強調するのさ!ひどい! ……行くけど……ソノ、腕掴んでていい?」

「俺がいいっていう前から、ガッシリ握り込んでるじゃんか……」

「だって、暗いとこ怖いんだもん!」

「…………」

じゃあ、なんでまたお化け屋敷入るって言い出したんだ、お前は……。

ため息をつきながら左の方の扉をギィッと押し開けると、真っ暗なその長い廊下を懐中電灯の丸い光だけを頼りに、俺たちは恐る恐る先へと歩いて行った。
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みんなの感想(20件)

結月てでぃ
2025.01.02 結月てでぃ
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珈琲屋
2025.01.02 珈琲屋

結月さん、5話もまとめて読んで頂き、本当に有難うございます!

はい、キヨくんとセンセは遠い血のつながりがあります。
そして最初の刷り込み故に、キヨくんはセンセに絶対の信頼を置いています。
どんなに生活力0でも、台所が汚くても、野菜室が溶けてても!

キヨくんのその思いがセンセに通じるか、見守って頂ければ嬉しいです。

すてきな感想、本当に有難うございました!
私もまだ悪バド読みかけなので、続き読ませて頂きます!

解除
結月てでぃ
2025.01.02 結月てでぃ
ネタバレ含む
珈琲屋
2025.01.02 珈琲屋

結月さん、おはようございます!
丁寧に読んで頂いた上に、すてきな感想まで付けて頂き、すごく嬉しいです!



センセにこんな好意的な感想頂いたの、初めてかもしれない……!
元々の人格や性格的には好人物なんですが、諸事情ありまして現在はこうなっております。


そうだ、登場人物紹介、付けておいた方が親切かな、と思ってたんですがすっかり忘れてました!
後で用意することにします、有難うございます!

先生は185センチ以上くらいですね。
縦もデカいですが、筋肉ついてるのでそれなりに幅もあります。
センセの自室、実はあんまり描写してないんですが、結構筋トレグッズを置いていて、トレーニングをちょこちょこしています。
朝夕のジョギングも趣味の一つです。

キヨくんは物語開始時点は170ギリないかな……。
本人は先生を見慣れてるために、身長をすごく気にしています。
まだ成長期ではあるので、もしかしたらセンセくらいまで伸びるかもしれない。
それを希望にキヨくんは牛乳を飲んでいます。

そして、荷物全部ポッケに詰めるタイプ、大正解です!
日本だと特に気が緩んでいるので、カギも時計もちょっとしたアメとかも全部ポッケに入っていて、キヨくんが洗濯する時にはたぶんポッケというポッケはひっくり返されてますね……。

ここまで読んで頂き、ご感想まで頂き、本当に有難うございます!

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オオオカ エピ
ネタバレ含む
珈琲屋
2024.12.31 珈琲屋

わー、エピさん、大晦日にもありがとうございます!

そして通知が仕事してない!
お昼に覗きに来た時は通知なしになってたのに!
お返事遅くなりましてすみません!気づいて良かった!


おさななでほんわかして頂いてる!嬉しいです!ʕ ›ᴥ‹ ʔ
そして彼らの内面を深く見て頂いて有難うございます。
そうですね、航太くんは特に陸上出来なかった期間であれもこれも、と好奇心を広げていっている感じです。
大事なものの見極めはソノくんより彼の方が得意かもしれません。


こちらこそです、私もエピさんと仲良くなれて本当に楽しい一年でした!
お互いの作品を読み合って、作品世界に浸かりながら感想を言い合えるのがこんなに楽しいのに気付けたのは、エピさんのおかげだと思います。
来年もぜひ仲良くして頂きたいです!
タビスも続き楽しみに読んでいきたいと思います!目指せ最新話!

エピさんもどうぞよいお年を!
今回も感想、有難うございました!

解除

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