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黄鴬 鳴く
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「おにい、今年もお願いしていい?」
夕飯を作り終えた台所で、テーブルに参考書を広げていた俺に、帰って来たばかりの妹が見慣れないビニール袋を抱えてやってきた。
無言で見つめる俺の前で、がさがさと袋が広げられて、たくさんのオレンジと板チョコと、なんか女子が好きそうなラッピング素材みたいなのが転がり出す。
目の前でテーブルから落っこちそうなオレンジを思わず右手で捕まえて、大きく一つため息をついた。
「咲子、分かってるよな? 俺が来週、最後の期末あるって事」
「うん……。わかってるけど、あたし一人じゃバレンタインの準備、間に合わないんだもん!」
「……。またクラス女子と部活の子全員に配る気か……」
「だってあたし寮入っちゃうから、これが最後だし……来月はお別れになっちゃうし」
来月でお別れ、で妹の顔をじっと見て、もう一つため息をついた。
仕方ない、教科書とは晩飯食った後での付き合いにしよう。眠気が出てくるから、あんまり長時間出来ないんだが。
「……。しょうがねえな、ただ、今回は一緒に作り方覚えておけよ。寮でもしかしたら作るようになるかもしれないだろ」
「はーい!やった、じゃあ、今回はちゃんとレシピもメモっとく!」
「……メモするのもいいけど、今回は作らせるからな、味見だけじゃなく」
釘指すようにじっとにへらっと笑う妹の顔を見据えてから、ざっと妹の買ってきた材料を見て、冷蔵庫からクルミとピスタチオ、牛乳、バター、薄力粉にバニラエッセンス、母さんの酒棚からコアントローも出しておく。
こうやって妹のバレンタインの菓子を代わりに作るようになったのは、何時からだったろう。
少なくとも、俺が中学入る頃は毎年作っていたし、小学校の時もセンセの台所で何かしら作っていた気がする。
……となると、咲子が小学校上がったくらいからか。
確か最初は温めて形を整えただけのチョコだった。
それがそのうち、色々と果物が入ったものになり、チョコ入りマシュマロになり、クッキーになって、確か去年はチビ達もいたからケーキを焼いた。
ただ、今年は妹が覚えやすくて、初心者でも作りやすいものにしないと不味いだろう。
かつ、そこそこ見栄えがして、個包装できるものだ。
……そうなると、俺が考えていたブラウニーよりマフィンだな。
もう一つ、ベーキングパウダーの缶も取り出すと、教科書や参考書類をカバンに戻して、テーブルの上のものを一回シンクへ避難させた。
粉だらけにならないように、カバンは部屋の外だ。どうせ後で二階に上がるから、別にいい。
そうして台所の隅に吊るしてあるエプロンを二枚とって、一枚を妹に渡した。
「……え、ホントにあたしもやるの?」
「やるに決まってるだろ、お前の分作るんだぞ。それに、手を動かさないと覚えないからな」
「……はぁい」
しょんぼりしながらも、ちゃんとメモとシャーペンを出す妹の髪を軽く撫でて、ビニール手袋も用意して着けさせた。
とりあえずオレンジジャムとクルミとチョコレートのマフィンと、チョコ掛けオレンジピールを作る。
妹には大量のオレンジの中身を薄皮と実に分けさせてボウルに入れていってもらう。
俺の方はよく洗い直したオレンジの皮の下処理だ。
うすく、オレンジ色の部分にあまり白い皮が残らないように剥かないと、苦みが強すぎて美味くならない。
一つずつ丁寧に向いたものを適度な大きさに切って、何回か煮零しした後、大量の砂糖と一緒に弱火でコトコトと煮る。
「おにい、こっち終わった!」
「おー、お疲れさん。じゃあ、実の方は深めの皿に移して、そこの秤に乗せてくれ。計ったら重さの30%の砂糖入れて、よく混ぜてからレンチンな」
「……え、それだけでいいの?」
「時間ないからな。さすがにオレンジピールは一からやんないとダメだけど、そっちは時短でいいだろ。はい、手を動かす」
「うー、おにいの鬼!」
そうして、妹の手伝いもしつつ作り終えて、ラッピングまで終わった頃にはけっこう深夜近くだった。
オーブンをフル稼働させたせいで、家中にチョコとオレンジの香りが充満している。
途中、テーブルの隅でもそもそ晩飯は食べたから、夕飯食べ損ねたって事はないが、咲子は既に結構眠そうだ。
寝落ちしないうちに、風呂を沸かして送り込む。
テーブルの上にずらっと並んだ菓子屋が開けそうな量を眺めて、小さく息をついた。
「…………」
例年、妹のバレンタインを代理する代わりに、一つだけ余らせてセンセに渡していた。
中学後半と去年はやってなかったけど、つい今年も作ってしまって、咲子作のかわいらしいリボン付きのマフィンとオレンジピールが俺の手元にもある。
「…………まあ、例年通りでいいか」
例年だと咲子からって体で渡していたが、今年はどうしようかと迷ったのはセンセが好きだって自覚が出来たからだ。
最初はセンセにバレないように殺すつもりの恋だったのに、センセが気付かないのをいいことに俺の恋は暴走している。
……たぶん、センセだと抱き着いて押し倒……せないが、したとして、キスしても下手したら気づかない。
笑って、ヨシヨシと頭を撫でられてそれで終わりになると思う。
どんなに背伸びをして、センセに大人に見てもらおうと頑張っても、小さい頃から面倒見てるコドモは視界に入らないんだろう。
センセの思考が分かっていて、分かるからこそ切なくて、諦めたはずなのに諦めきれない。
結局、妹が風呂を上がって戻ってくるまで、俺は自分の椅子から動けなかった。
次の日、当然のように咲子は大量の菓子をもってウキウキで出かけて行ったし、俺は俺で昨日カバンに詰め込んだままでガッコに来てしまった。
俺のとこは男子校なので、バレンタインなんてものは存在しない。
大体、あっても翌月には何か買うなり作るかして返さなきゃならないことを考えると、貰えたら貰えたで面倒だし、貰えた貰えないの悲喜こもごもなアレまであるとすると、共学のやつらかわいそうだなってなるイベントだ。
喜ぶのは、センセみたいな甘党のみだろうしな。
センセの事を考えたとたん、カバンの中身を思い出し、思い出したからには頭を抱えたくなる。
自分の席で重くため息をついていたら、珍しく航太が話しかけてきた。
「……なんだ、どした」
「いや、藤谷にしては重いため息ついてるから、どうしたのかなと思って。どったん?……体調悪くなった?」
「……いや、別に……。あれ、今日、ソノは?」
保護者、というか最近は航太の方が面倒見てたが、お守役の姿を探したが席にはとりあえずいなかった。
「あー、今日は休み。試験まであと一年近いのに、根詰めすぎたからなー、最近……」
「マジか……まあ、本番で崩すよりいいかもだけど、来週試験なのに大丈夫か?」
「……たぶん?ソノの事だし、手は抜いてないと思う」
「いや、お前の方」
「…………たぶん?」
……ソノ相手じゃあるまいし、首傾げてえへらっと笑えば誤魔化せると思うなよ。
コイツも志望校あるんじゃないのかと思って、後ろをなにげなく振り返ったら、こっちもハヤシしかいない。
「あれ、まさかモモも休みか?」
「……ああ、ちょっとな。多分、最近ずっとデッサンに夢中になってたから、やりすぎて体調崩したんだと思う」
「うわー、モモのがヤバいんじゃん。来週の結果次第って言ってたよな、先週」
「……ってか、これ風邪流行ってるって事じゃねーの? 俺らも気を付けようぜ、今かかってる奴らより、俺らがかかった方が時期的に試験中になるぞ」
そう、みんなで真剣な顔で頷き合ったはずだったのに、なんかいつも俺はフラグ回収する羽目になってる気がする。
「…………、キヨくん、もういいからちょっと家の方で休んできて」
「……え、なんですか?」
いつものようにバイト先で一通りの掃除を終えて、掃除用具を片付けようとしていたら、調剤室からちょうど出てきたセンセに呼び止められた。
とりあえず、掃除用ロッカーに全部しまって、手招きされるままセンセの傍に寄る。
アルコールで軽く手を消毒したセンセは、そのまま珍しく真剣な顔つきで、俺の眼の下を軽く指で押し下げ、言われるままに開けた口を覗き込み、軽く俺の喉元に手を当てた。
俺も同じようにアルコールで手を消毒しながら、されるがままにセンセの真顔を眺める。
いつもほわほわふにゃふにゃのセンセだけど、こうしてる時はちゃんとカッコいいのだ。
「……もう、ちょっと腫れてきてるね。薬処方するから、こないだみたいにしっかり飲んでから眠っていって」
「……もしかして俺、今風邪引いてます?」
「うん、いつもよりかなり体温高いし、声がもうちょっと枯れ始めてるもん。顔にも出てるけど、昨日夜更かししたでしょう」
「……あー、ちょっと昨日は咲子に付き合わされて……、待ってください」
一応、昨日菓子作りの時は二人ともちゃんと使い捨て手袋をしていたし、なんならマスクもしていたから今日配っていたはずの菓子には問題ないと思うんだが。
このままだと渡すの自体忘れそうだから、今のうちにセンセに渡してしまいたい。
慌てて、自分のカバンを取りに行くと潰さないようにしていたマフィンとチョコレートを、そのままセンセに手渡した。
「……わっ、バレンタイン? それで頑張ってたんだねえ。すごい、今年は二種類なんだ!頑張ったねえ、キヨくん」
「咲子の配りたいっていう数が思ったより多くて……材料的にイケそうだったんで」
センセが手放しで誉めてくれるのも、俺が作ったって見ただけでわかってくれるのも嬉しくて、舞い上がっていたんだと思う。
あと、センセの言う通り、風邪のせいで熱も上がっていたんだと思う。
手渡したまま、センセのでっかい手をひしっと握って、
「本命なんで」
とか言ったらしい。脇で見てたリンさんの記憶では。
当人の俺は、センセの手を握ったくらいから記憶がすっ飛んでいて、気づいたら夜でセンセの家で、そのままほわほわ幸せな気持ちで朝まで眠っていた。
夕飯を作り終えた台所で、テーブルに参考書を広げていた俺に、帰って来たばかりの妹が見慣れないビニール袋を抱えてやってきた。
無言で見つめる俺の前で、がさがさと袋が広げられて、たくさんのオレンジと板チョコと、なんか女子が好きそうなラッピング素材みたいなのが転がり出す。
目の前でテーブルから落っこちそうなオレンジを思わず右手で捕まえて、大きく一つため息をついた。
「咲子、分かってるよな? 俺が来週、最後の期末あるって事」
「うん……。わかってるけど、あたし一人じゃバレンタインの準備、間に合わないんだもん!」
「……。またクラス女子と部活の子全員に配る気か……」
「だってあたし寮入っちゃうから、これが最後だし……来月はお別れになっちゃうし」
来月でお別れ、で妹の顔をじっと見て、もう一つため息をついた。
仕方ない、教科書とは晩飯食った後での付き合いにしよう。眠気が出てくるから、あんまり長時間出来ないんだが。
「……。しょうがねえな、ただ、今回は一緒に作り方覚えておけよ。寮でもしかしたら作るようになるかもしれないだろ」
「はーい!やった、じゃあ、今回はちゃんとレシピもメモっとく!」
「……メモするのもいいけど、今回は作らせるからな、味見だけじゃなく」
釘指すようにじっとにへらっと笑う妹の顔を見据えてから、ざっと妹の買ってきた材料を見て、冷蔵庫からクルミとピスタチオ、牛乳、バター、薄力粉にバニラエッセンス、母さんの酒棚からコアントローも出しておく。
こうやって妹のバレンタインの菓子を代わりに作るようになったのは、何時からだったろう。
少なくとも、俺が中学入る頃は毎年作っていたし、小学校の時もセンセの台所で何かしら作っていた気がする。
……となると、咲子が小学校上がったくらいからか。
確か最初は温めて形を整えただけのチョコだった。
それがそのうち、色々と果物が入ったものになり、チョコ入りマシュマロになり、クッキーになって、確か去年はチビ達もいたからケーキを焼いた。
ただ、今年は妹が覚えやすくて、初心者でも作りやすいものにしないと不味いだろう。
かつ、そこそこ見栄えがして、個包装できるものだ。
……そうなると、俺が考えていたブラウニーよりマフィンだな。
もう一つ、ベーキングパウダーの缶も取り出すと、教科書や参考書類をカバンに戻して、テーブルの上のものを一回シンクへ避難させた。
粉だらけにならないように、カバンは部屋の外だ。どうせ後で二階に上がるから、別にいい。
そうして台所の隅に吊るしてあるエプロンを二枚とって、一枚を妹に渡した。
「……え、ホントにあたしもやるの?」
「やるに決まってるだろ、お前の分作るんだぞ。それに、手を動かさないと覚えないからな」
「……はぁい」
しょんぼりしながらも、ちゃんとメモとシャーペンを出す妹の髪を軽く撫でて、ビニール手袋も用意して着けさせた。
とりあえずオレンジジャムとクルミとチョコレートのマフィンと、チョコ掛けオレンジピールを作る。
妹には大量のオレンジの中身を薄皮と実に分けさせてボウルに入れていってもらう。
俺の方はよく洗い直したオレンジの皮の下処理だ。
うすく、オレンジ色の部分にあまり白い皮が残らないように剥かないと、苦みが強すぎて美味くならない。
一つずつ丁寧に向いたものを適度な大きさに切って、何回か煮零しした後、大量の砂糖と一緒に弱火でコトコトと煮る。
「おにい、こっち終わった!」
「おー、お疲れさん。じゃあ、実の方は深めの皿に移して、そこの秤に乗せてくれ。計ったら重さの30%の砂糖入れて、よく混ぜてからレンチンな」
「……え、それだけでいいの?」
「時間ないからな。さすがにオレンジピールは一からやんないとダメだけど、そっちは時短でいいだろ。はい、手を動かす」
「うー、おにいの鬼!」
そうして、妹の手伝いもしつつ作り終えて、ラッピングまで終わった頃にはけっこう深夜近くだった。
オーブンをフル稼働させたせいで、家中にチョコとオレンジの香りが充満している。
途中、テーブルの隅でもそもそ晩飯は食べたから、夕飯食べ損ねたって事はないが、咲子は既に結構眠そうだ。
寝落ちしないうちに、風呂を沸かして送り込む。
テーブルの上にずらっと並んだ菓子屋が開けそうな量を眺めて、小さく息をついた。
「…………」
例年、妹のバレンタインを代理する代わりに、一つだけ余らせてセンセに渡していた。
中学後半と去年はやってなかったけど、つい今年も作ってしまって、咲子作のかわいらしいリボン付きのマフィンとオレンジピールが俺の手元にもある。
「…………まあ、例年通りでいいか」
例年だと咲子からって体で渡していたが、今年はどうしようかと迷ったのはセンセが好きだって自覚が出来たからだ。
最初はセンセにバレないように殺すつもりの恋だったのに、センセが気付かないのをいいことに俺の恋は暴走している。
……たぶん、センセだと抱き着いて押し倒……せないが、したとして、キスしても下手したら気づかない。
笑って、ヨシヨシと頭を撫でられてそれで終わりになると思う。
どんなに背伸びをして、センセに大人に見てもらおうと頑張っても、小さい頃から面倒見てるコドモは視界に入らないんだろう。
センセの思考が分かっていて、分かるからこそ切なくて、諦めたはずなのに諦めきれない。
結局、妹が風呂を上がって戻ってくるまで、俺は自分の椅子から動けなかった。
次の日、当然のように咲子は大量の菓子をもってウキウキで出かけて行ったし、俺は俺で昨日カバンに詰め込んだままでガッコに来てしまった。
俺のとこは男子校なので、バレンタインなんてものは存在しない。
大体、あっても翌月には何か買うなり作るかして返さなきゃならないことを考えると、貰えたら貰えたで面倒だし、貰えた貰えないの悲喜こもごもなアレまであるとすると、共学のやつらかわいそうだなってなるイベントだ。
喜ぶのは、センセみたいな甘党のみだろうしな。
センセの事を考えたとたん、カバンの中身を思い出し、思い出したからには頭を抱えたくなる。
自分の席で重くため息をついていたら、珍しく航太が話しかけてきた。
「……なんだ、どした」
「いや、藤谷にしては重いため息ついてるから、どうしたのかなと思って。どったん?……体調悪くなった?」
「……いや、別に……。あれ、今日、ソノは?」
保護者、というか最近は航太の方が面倒見てたが、お守役の姿を探したが席にはとりあえずいなかった。
「あー、今日は休み。試験まであと一年近いのに、根詰めすぎたからなー、最近……」
「マジか……まあ、本番で崩すよりいいかもだけど、来週試験なのに大丈夫か?」
「……たぶん?ソノの事だし、手は抜いてないと思う」
「いや、お前の方」
「…………たぶん?」
……ソノ相手じゃあるまいし、首傾げてえへらっと笑えば誤魔化せると思うなよ。
コイツも志望校あるんじゃないのかと思って、後ろをなにげなく振り返ったら、こっちもハヤシしかいない。
「あれ、まさかモモも休みか?」
「……ああ、ちょっとな。多分、最近ずっとデッサンに夢中になってたから、やりすぎて体調崩したんだと思う」
「うわー、モモのがヤバいんじゃん。来週の結果次第って言ってたよな、先週」
「……ってか、これ風邪流行ってるって事じゃねーの? 俺らも気を付けようぜ、今かかってる奴らより、俺らがかかった方が時期的に試験中になるぞ」
そう、みんなで真剣な顔で頷き合ったはずだったのに、なんかいつも俺はフラグ回収する羽目になってる気がする。
「…………、キヨくん、もういいからちょっと家の方で休んできて」
「……え、なんですか?」
いつものようにバイト先で一通りの掃除を終えて、掃除用具を片付けようとしていたら、調剤室からちょうど出てきたセンセに呼び止められた。
とりあえず、掃除用ロッカーに全部しまって、手招きされるままセンセの傍に寄る。
アルコールで軽く手を消毒したセンセは、そのまま珍しく真剣な顔つきで、俺の眼の下を軽く指で押し下げ、言われるままに開けた口を覗き込み、軽く俺の喉元に手を当てた。
俺も同じようにアルコールで手を消毒しながら、されるがままにセンセの真顔を眺める。
いつもほわほわふにゃふにゃのセンセだけど、こうしてる時はちゃんとカッコいいのだ。
「……もう、ちょっと腫れてきてるね。薬処方するから、こないだみたいにしっかり飲んでから眠っていって」
「……もしかして俺、今風邪引いてます?」
「うん、いつもよりかなり体温高いし、声がもうちょっと枯れ始めてるもん。顔にも出てるけど、昨日夜更かししたでしょう」
「……あー、ちょっと昨日は咲子に付き合わされて……、待ってください」
一応、昨日菓子作りの時は二人ともちゃんと使い捨て手袋をしていたし、なんならマスクもしていたから今日配っていたはずの菓子には問題ないと思うんだが。
このままだと渡すの自体忘れそうだから、今のうちにセンセに渡してしまいたい。
慌てて、自分のカバンを取りに行くと潰さないようにしていたマフィンとチョコレートを、そのままセンセに手渡した。
「……わっ、バレンタイン? それで頑張ってたんだねえ。すごい、今年は二種類なんだ!頑張ったねえ、キヨくん」
「咲子の配りたいっていう数が思ったより多くて……材料的にイケそうだったんで」
センセが手放しで誉めてくれるのも、俺が作ったって見ただけでわかってくれるのも嬉しくて、舞い上がっていたんだと思う。
あと、センセの言う通り、風邪のせいで熱も上がっていたんだと思う。
手渡したまま、センセのでっかい手をひしっと握って、
「本命なんで」
とか言ったらしい。脇で見てたリンさんの記憶では。
当人の俺は、センセの手を握ったくらいから記憶がすっ飛んでいて、気づいたら夜でセンセの家で、そのままほわほわ幸せな気持ちで朝まで眠っていた。
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