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沢鹿の角 落つる
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クリスマス当日、俺たちはぶらぶらと歩きながら薬局に向かっていた。
白いコートに暗めの青いワンピースの妹の背で、キレイにカールした黒い髪が揺れている。
先を歩く咲子の気ままな話にポツポツ返事を返しながら、どうしても足が重くなるのは、つい先日、妹に俺の気持ちが全部バレていたのに気付いたばかりだからだ。
「おにい、ちょっと足遅くない? ……あー、こないだのは大丈夫だって! ホラ、あたしは兄弟でちっちゃい頃からずっと見てたからわかるけど、他のヒトは気づけないから。……センセだって全然気づいてないし!」
「…………」
「……あーもうー! 寒いんだから、こんなトロトロで歩いてたら風邪引いちゃうー!」
「……わかったわかった、行くよ」
俺一人だったら、ともかく、咲子にまで風邪引かせるわけにはいかない。
今までで一番重く遠かった薬局のある商店街までの道のりを、妹にぐいぐい腕を引っ張られながらどうにか歩いた。
いつもみたいに薬局の正面から覗くと、今日は店の方は完全に閉まっていた。
もう夕方だし、俺らも来るからって事で、たぶんセンセが早仕舞いしたんだろう。
後ろで首を傾げる咲子に合図して、一緒に裏口へ向かう。
今まであんまり裏口から入ることはなかったし、久々なせいもあって、先生の家の坪庭が咲子には珍しいようだ。
玄関先で二人で軽く身支度を整えて、改めてチャイムを押す。
しばらくして、はーい、というセンセの声と一緒にバタバタ走るスリッパのような音がして、慌てた感じで玄関が開いた。
「キヨくん、咲子ちゃん、いらっしゃい! 寒かったでしょう、入って入って」
「お邪魔します」
ふんわりしたオフホワイトのセーターにジーパン姿のセンセが笑顔で出迎えてくれて、俺達もそろそろと中に入る。
中に入ったらだんだん思い出してきたらしい咲子が、廊下をさっさと歩いていって、辿り着いた居間から華やかな笑い声が聞こえた。
……もうリンさんも来てるらしいな。
「……なんか、キヨくんが学生服着てないと新鮮だねえ」
のんびりと歩くセンセの後ろをついていきながら、そう言われてチラと視線を下ろす。
そう言えば、今日は俺もコートの中身を紺のセーターと黒のジーンズに変えてきたんだった。
咲子は割としっかり目にクリスマスって感じに気合入れてたが、俺としては通い慣れたバイト先なのでオシャレも何もない。
「中学以来かもしれませんね。高校入ってからは、大体ここ来るときガッコ帰りでしたし」
「キヨくんのガッコ、そういえば中学の時も詰襟だったもんね。その印象もあるのかも」
喋ってる間に着いた居間は、センセにしては珍しくきちんと片付けられていた。
俺の誕生日の時と同じ筆致で、メリークリスマスと書いた垂れ幕みたいのが貼ってある。
あと小さなツリーみたいなのが部屋の隅に飾ってあって、すでに一つ鳴らされたらしいクラッカーのテープもあった。
今日のリンさんは、なんかあんまり見たことない白のフワフワキラキラした大きめのセーターに黒のパンツを合わせていて、咲子と並ぶとかなり華やかだ。
どこまでも通常営業の俺とセンセの方がちょっと浮いている。
「ごはんは台所のテーブルに並べてあるから、キヨくん、そんなキョロキョロしなくて大丈夫だよ」
「……え、あ、いや、別にそれを心配してたわけじゃないですけど、……あのツリー、あれですか、ウンと前にセンセが浮かれて買ってきたヤツ」
こんなん置くとこないでしょう、って俺が怒ったせいで坪庭の住人になってた植木鉢のツリーだ。
まだちゃんと生きてたんだな。
「……うん、一応水やりはちゃんとしてたから。俺がいない時はリンちゃんも水まいてくれてたしね。……ちゃんと飾るとキチンとクリスマスツリーでしょ」
「はい。 ……あ、センセ、クリスマスの準備有難うございます、言い出したの俺なのに、準備全部やらせちゃって」
俺がなんとなくソワソワするのは、今日の自分が完全にお客になってるせいもあるかもしれない。
自分がいなくても、センセは一人でもなんとかできるんだ、って見せつけられた気がして、それも根っこにあるのかもしれない。
俺の表情に気づいてか、センセがふわっと笑った。
「普段たくさんお世話してもらってる俺が言うのもなんだけど、こういう時はゆっくりしてくれていいんだよ、キヨくん。 ……さてと、じゃあみんな揃ったし、ご飯食べよっか。リンちゃーん、咲子ちゃん、台所いこ」
センセが声をかけると、待ちかねたようにリンさんが動き出したので、ぞろぞろと全員で台所に向かった。
普段は雑に色々物が乗っていたテーブルはキチンと白いクロスが掛けられていたけど、クリスマスに定番のケーキ、チキン、オードブルなんかはセンセが受け取ったままの姿で、ちょっと安心して笑う。
「ハジメくん、期待してなかったけど、せめてお皿には移しときなさいよ……。もういいけど」
「え、だって冷めちゃうし……。でも、掃除は頑張ったよ!」
リンさんとセンセのいつものやり取りに、咲子が声を立てて笑っている。
……うん、なんかいつも通りになってきたな。
俺もようやく落ち着いた気分で、取り皿とフォークとナイフをそれぞれの分取り出して並べ始めた。
「はい、後は俺も手伝いますから。 ……リンさん、何から取ります?」
「……あ、リンちゃんからなんだ……」
「あ、おにい、あたしチキン多めに食べたい!」
「シャンパン持ってきたから、オードブルからでいいわよ、キヨくん」
キラキラした目で待ってたらしいセンセがしょげてるが、今日の功労賞はセンセだけど、ここの権力者はリンさんだからな。
そして、そのセンセに被せてくる咲子の声とか、相変わらずマイペースなリンさんとか。
結局はいつもの通りで、みんなでワイワイしながら過ごす時間は俺が思ってたよりも暖かかった。
「キヨくん、お風呂あがったー」
「はい、……あ、風呂すすいで水抜いといてくださいね。 こっちも台所の片づけ終わりました」
「うん、やっといたー。 ……咲子ちゃん、今日はもうおねむだねえ」
居間の座布団をいくつか並べた上で、猫みたいに丸まってウトウトする咲子を見て、センセが優しく笑う。
台所から戻ってきた俺も、チラッと眺めて頷いた。
「今日はセンセもリンさんもいて、大分はしゃいでましたからね。 ……昔からすれば大きくはなりましたけど、まだ中学生なんで。 ……咲子、ちょっとここで寝るとアレだから、布団いこうな」
「んー……、いく……」
「…………なんか、ホントにお兄ちゃんだねえ、キヨくん」
ニコニコ笑って見守ってるセンセの視線が気恥ずかしいので、そそくさと咲子に肩を貸してセンセの寝室に連れていく。
見覚えのあるセンセのとこの客用の布団に寝かせて、風邪をひかないようにしっかり首まで布団をかけておいた。
こういうのが出来るのも、もうたぶんあと少しだ。
数か月後には咲子も家を出てしまうから。
「……」
そっと襖を閉めながら、俺は小さくため息をついた。
「……眠った? あとで、枕元にプレゼント置いておくね」
「はい。 いつもすみません、センセ。色々手間かけさせちゃって……」
居間まで戻ってくれば、ちゃんとちゃぶ台を片付けて、布団も敷いてくれていた。
クリスマスは俺が言い出したことなのに、ほとんどセンセが手もお金もかけてくれている。
恐縮しながら俺が言うと、優しく笑ってううん、とハジメさんは首を振った。
「普段キヨくんに負荷かけちゃってるのは俺だもの、こういう時くらいは大人ぶらせてよ。 それにみんなでワイワイできて楽しかったし、こうやってみんなで寝れるのも嬉しいし」
「実質、俺と雑魚寝ですけどね」
「ソレがいいんじゃない。……寒いからくっつくと温かいよ」
「…………」
笑ったまま一瞬固まった俺を見て、ハジメさんが慌てたように続ける。
「……あ、嫌だったら全然大丈夫だから、」
「嫌じゃないんで、大丈夫です。 ……ただ、センセ、潰さないでくださいね」
「……うん、たぶん大丈夫……だと思う」
俺が食い気味に返すと、なんだか安心したようにセンセが笑う。
引っ付くと俺の心音がばれそうな気がしてヤバいけど、好きなヒトに正々堂々くっつけるタイミングを逃すわけにはいかない。
ハジメさんが前言撤回しないうちに、そそくさと電気の紐を引っ張って、冷えた布団に横になる。
暗い中にさら、と衣擦れの音がして、隣に大きくてあったかいハジメさんの体が来た。
大きく息をつく音が聞こえる。
「なんかこう言うの久しぶりだね。ちっちゃい頃はみんなで寝てたけど」
「そうですね……もうみんな大人になったんで。ハジメさんから見れば、まだまだ子供ですけど」
「そうでもないよ、……」
まだ目の慣れない薄闇の中、ハジメさんがこちらにゴロン、と体ごと向き直ったのが分かる。
「キヨくんも咲子ちゃんも、ちゃんと大人になってってるよ。 ……それは分かってるんだけど、俺がまだ二人とも子供でいてほしいだけ」
わがままでゴメンね、と笑う声が寂しくて、俺はセンセの大きくて硬いゴツイ手を包むように捕まえた。
ドキドキと大きく速くなる心音は無視して笑う。
「……何かセンセの方が子供みたいですね。今日は俺が隣にいてあげますから、安心してください」
「うん……。ありがと、キヨくん。おやすみ、キヨくんもゆっくり寝てね」
そう言ってハジメさんの笑う吐息が静かになって、スウスウと落ち着いた寝息に変わるまで。
俺はただ息をひそめて、ハジメさんの暖かい手の感触を確かめていた。
白いコートに暗めの青いワンピースの妹の背で、キレイにカールした黒い髪が揺れている。
先を歩く咲子の気ままな話にポツポツ返事を返しながら、どうしても足が重くなるのは、つい先日、妹に俺の気持ちが全部バレていたのに気付いたばかりだからだ。
「おにい、ちょっと足遅くない? ……あー、こないだのは大丈夫だって! ホラ、あたしは兄弟でちっちゃい頃からずっと見てたからわかるけど、他のヒトは気づけないから。……センセだって全然気づいてないし!」
「…………」
「……あーもうー! 寒いんだから、こんなトロトロで歩いてたら風邪引いちゃうー!」
「……わかったわかった、行くよ」
俺一人だったら、ともかく、咲子にまで風邪引かせるわけにはいかない。
今までで一番重く遠かった薬局のある商店街までの道のりを、妹にぐいぐい腕を引っ張られながらどうにか歩いた。
いつもみたいに薬局の正面から覗くと、今日は店の方は完全に閉まっていた。
もう夕方だし、俺らも来るからって事で、たぶんセンセが早仕舞いしたんだろう。
後ろで首を傾げる咲子に合図して、一緒に裏口へ向かう。
今まであんまり裏口から入ることはなかったし、久々なせいもあって、先生の家の坪庭が咲子には珍しいようだ。
玄関先で二人で軽く身支度を整えて、改めてチャイムを押す。
しばらくして、はーい、というセンセの声と一緒にバタバタ走るスリッパのような音がして、慌てた感じで玄関が開いた。
「キヨくん、咲子ちゃん、いらっしゃい! 寒かったでしょう、入って入って」
「お邪魔します」
ふんわりしたオフホワイトのセーターにジーパン姿のセンセが笑顔で出迎えてくれて、俺達もそろそろと中に入る。
中に入ったらだんだん思い出してきたらしい咲子が、廊下をさっさと歩いていって、辿り着いた居間から華やかな笑い声が聞こえた。
……もうリンさんも来てるらしいな。
「……なんか、キヨくんが学生服着てないと新鮮だねえ」
のんびりと歩くセンセの後ろをついていきながら、そう言われてチラと視線を下ろす。
そう言えば、今日は俺もコートの中身を紺のセーターと黒のジーンズに変えてきたんだった。
咲子は割としっかり目にクリスマスって感じに気合入れてたが、俺としては通い慣れたバイト先なのでオシャレも何もない。
「中学以来かもしれませんね。高校入ってからは、大体ここ来るときガッコ帰りでしたし」
「キヨくんのガッコ、そういえば中学の時も詰襟だったもんね。その印象もあるのかも」
喋ってる間に着いた居間は、センセにしては珍しくきちんと片付けられていた。
俺の誕生日の時と同じ筆致で、メリークリスマスと書いた垂れ幕みたいのが貼ってある。
あと小さなツリーみたいなのが部屋の隅に飾ってあって、すでに一つ鳴らされたらしいクラッカーのテープもあった。
今日のリンさんは、なんかあんまり見たことない白のフワフワキラキラした大きめのセーターに黒のパンツを合わせていて、咲子と並ぶとかなり華やかだ。
どこまでも通常営業の俺とセンセの方がちょっと浮いている。
「ごはんは台所のテーブルに並べてあるから、キヨくん、そんなキョロキョロしなくて大丈夫だよ」
「……え、あ、いや、別にそれを心配してたわけじゃないですけど、……あのツリー、あれですか、ウンと前にセンセが浮かれて買ってきたヤツ」
こんなん置くとこないでしょう、って俺が怒ったせいで坪庭の住人になってた植木鉢のツリーだ。
まだちゃんと生きてたんだな。
「……うん、一応水やりはちゃんとしてたから。俺がいない時はリンちゃんも水まいてくれてたしね。……ちゃんと飾るとキチンとクリスマスツリーでしょ」
「はい。 ……あ、センセ、クリスマスの準備有難うございます、言い出したの俺なのに、準備全部やらせちゃって」
俺がなんとなくソワソワするのは、今日の自分が完全にお客になってるせいもあるかもしれない。
自分がいなくても、センセは一人でもなんとかできるんだ、って見せつけられた気がして、それも根っこにあるのかもしれない。
俺の表情に気づいてか、センセがふわっと笑った。
「普段たくさんお世話してもらってる俺が言うのもなんだけど、こういう時はゆっくりしてくれていいんだよ、キヨくん。 ……さてと、じゃあみんな揃ったし、ご飯食べよっか。リンちゃーん、咲子ちゃん、台所いこ」
センセが声をかけると、待ちかねたようにリンさんが動き出したので、ぞろぞろと全員で台所に向かった。
普段は雑に色々物が乗っていたテーブルはキチンと白いクロスが掛けられていたけど、クリスマスに定番のケーキ、チキン、オードブルなんかはセンセが受け取ったままの姿で、ちょっと安心して笑う。
「ハジメくん、期待してなかったけど、せめてお皿には移しときなさいよ……。もういいけど」
「え、だって冷めちゃうし……。でも、掃除は頑張ったよ!」
リンさんとセンセのいつものやり取りに、咲子が声を立てて笑っている。
……うん、なんかいつも通りになってきたな。
俺もようやく落ち着いた気分で、取り皿とフォークとナイフをそれぞれの分取り出して並べ始めた。
「はい、後は俺も手伝いますから。 ……リンさん、何から取ります?」
「……あ、リンちゃんからなんだ……」
「あ、おにい、あたしチキン多めに食べたい!」
「シャンパン持ってきたから、オードブルからでいいわよ、キヨくん」
キラキラした目で待ってたらしいセンセがしょげてるが、今日の功労賞はセンセだけど、ここの権力者はリンさんだからな。
そして、そのセンセに被せてくる咲子の声とか、相変わらずマイペースなリンさんとか。
結局はいつもの通りで、みんなでワイワイしながら過ごす時間は俺が思ってたよりも暖かかった。
「キヨくん、お風呂あがったー」
「はい、……あ、風呂すすいで水抜いといてくださいね。 こっちも台所の片づけ終わりました」
「うん、やっといたー。 ……咲子ちゃん、今日はもうおねむだねえ」
居間の座布団をいくつか並べた上で、猫みたいに丸まってウトウトする咲子を見て、センセが優しく笑う。
台所から戻ってきた俺も、チラッと眺めて頷いた。
「今日はセンセもリンさんもいて、大分はしゃいでましたからね。 ……昔からすれば大きくはなりましたけど、まだ中学生なんで。 ……咲子、ちょっとここで寝るとアレだから、布団いこうな」
「んー……、いく……」
「…………なんか、ホントにお兄ちゃんだねえ、キヨくん」
ニコニコ笑って見守ってるセンセの視線が気恥ずかしいので、そそくさと咲子に肩を貸してセンセの寝室に連れていく。
見覚えのあるセンセのとこの客用の布団に寝かせて、風邪をひかないようにしっかり首まで布団をかけておいた。
こういうのが出来るのも、もうたぶんあと少しだ。
数か月後には咲子も家を出てしまうから。
「……」
そっと襖を閉めながら、俺は小さくため息をついた。
「……眠った? あとで、枕元にプレゼント置いておくね」
「はい。 いつもすみません、センセ。色々手間かけさせちゃって……」
居間まで戻ってくれば、ちゃんとちゃぶ台を片付けて、布団も敷いてくれていた。
クリスマスは俺が言い出したことなのに、ほとんどセンセが手もお金もかけてくれている。
恐縮しながら俺が言うと、優しく笑ってううん、とハジメさんは首を振った。
「普段キヨくんに負荷かけちゃってるのは俺だもの、こういう時くらいは大人ぶらせてよ。 それにみんなでワイワイできて楽しかったし、こうやってみんなで寝れるのも嬉しいし」
「実質、俺と雑魚寝ですけどね」
「ソレがいいんじゃない。……寒いからくっつくと温かいよ」
「…………」
笑ったまま一瞬固まった俺を見て、ハジメさんが慌てたように続ける。
「……あ、嫌だったら全然大丈夫だから、」
「嫌じゃないんで、大丈夫です。 ……ただ、センセ、潰さないでくださいね」
「……うん、たぶん大丈夫……だと思う」
俺が食い気味に返すと、なんだか安心したようにセンセが笑う。
引っ付くと俺の心音がばれそうな気がしてヤバいけど、好きなヒトに正々堂々くっつけるタイミングを逃すわけにはいかない。
ハジメさんが前言撤回しないうちに、そそくさと電気の紐を引っ張って、冷えた布団に横になる。
暗い中にさら、と衣擦れの音がして、隣に大きくてあったかいハジメさんの体が来た。
大きく息をつく音が聞こえる。
「なんかこう言うの久しぶりだね。ちっちゃい頃はみんなで寝てたけど」
「そうですね……もうみんな大人になったんで。ハジメさんから見れば、まだまだ子供ですけど」
「そうでもないよ、……」
まだ目の慣れない薄闇の中、ハジメさんがこちらにゴロン、と体ごと向き直ったのが分かる。
「キヨくんも咲子ちゃんも、ちゃんと大人になってってるよ。 ……それは分かってるんだけど、俺がまだ二人とも子供でいてほしいだけ」
わがままでゴメンね、と笑う声が寂しくて、俺はセンセの大きくて硬いゴツイ手を包むように捕まえた。
ドキドキと大きく速くなる心音は無視して笑う。
「……何かセンセの方が子供みたいですね。今日は俺が隣にいてあげますから、安心してください」
「うん……。ありがと、キヨくん。おやすみ、キヨくんもゆっくり寝てね」
そう言ってハジメさんの笑う吐息が静かになって、スウスウと落ち着いた寝息に変わるまで。
俺はただ息をひそめて、ハジメさんの暖かい手の感触を確かめていた。
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