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しおりを挟む母が一緒とはいえ……不安が無いと言えば、嘘になる。
いずれ母に恋人が出来、母の興味がその人に移ってしまえば……家族に居場所が無くなり、僕はまた肩身の狭い思いをするかもしれない。
新天地では、またマイナスからのスタートを切る事になる。そこからゼロに近付くべく、新たな人間関係を築いていかなければならない。
……そんな事、出来るんだろうか。
たった一人で。こんな僕に。
「……」
たった一人……馴染みのない遠い親戚に引き取られる事になった黒川くんも、こんな気持ちだったのかな。
「……先生」
『僕と、家族になって下さい』──最後の別れ際にそう言った、黒川くんの気持ちが……今なら痛い程に解る。
「先生は、僕に黒川くんを重ねて見た事は……ありますか?」
淋しい……先生と、離れたくない。──そんな台詞を僕が吐いてしまったら、先生を勘違いさせてしまうかもしれない。溝口先生のように。
「……ないと言ったら、嘘になるな」
視線をそっと上げて先生の顔色を窺えば、少しだけ困惑した表情の瞳が、僅かに揺れていた。
「丸山の姿を通して、あの頃の黒川に想いを馳せ……今どうしているのかと想像した事なら、何度かある」
「……」
それは──今でも先生が、黒川くんを想っているから。
「だが、丸山を黒川だと思って接した事は、一度もない」
「……ぇ」
ハッキリと否定され、今度は僕が困惑する。
揺れた瞳に映る先生は、何処の誰でもない……真っ直ぐ僕だけを見つめていて──
「丸山と黒川は、全然違う」
「……」
包容力のある、優しい眼。
「確かに最初は、似ていると思っていた。容姿もそうだが……中々周りに溶け込めず、孤立した姿もな。
境遇のせいで、あからさまな態度や嫌な事を言う輩もいるのに。傷付いて、辛い筈なのに……
丸山は、嫌な事をひとつせず、そんな奴らにも笑顔を向け、積極的に関わろうとしていた」
「……」
「誰にでも出来る事じゃ無い」
「──!」
先生の真っ直ぐな言葉に、胸を打たれる。
思うより先に目頭が熱くなり、瞬きする度に、伏せた睫毛を涙が濡らす。
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