蛍火

真田晃

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瞬間──鈍器で頭の前方を殴られたような、衝撃が走る。
大きく揺れる脳内。ひずんだ鈍い痛み。目の前の視界が、マーブル状に澱む。

「……」

一体、何が起きたのか……解らない。
僕の知らない所で蠢いていた、残酷な真実。
頭が混乱して、上手く働かない──


「黒川に捨てられ、シングルマザーとなった丸山希子は……他に頼る身寄りも当ても無く、手っ取り早く生活費を稼ぐ為にキャバ嬢へと転身。そこで出会った客の一人──何処となく黒川に似たインテリ系の既婚者に口説かれ、交際。
ド田舎のこの村に住居を移し、半同棲状態を続ける彼と入籍できる日を夢見ながら……現在、場末のホステス嬢として働いている」
「……」

スッ。
咥え煙草で携帯を拾い、画面を消した横峰が、ズボンのポケットに仕舞う。

「……しっかしよォ。
昔っからこの村は閉鎖的で、考え方も古臭ぇ。
人との繫がりを大切にしている、とかほざく一方で、しきたりやらモラルやらに欠けた人間を、平然と排除したがる傾向にある。
……まぁ、俺も。見ての通り、排除された側の人間だがよ」
「……」
「まぁ……その間に立って、何処にも居場所のねぇ丸山透お前を助けたい気持ちが、確かに溝口の中にはあったんだろう。
……けどその一方で、奴は自分本位な小心者クズだったって事だ」
「……」

フーッと天井に向かって煙を吐くと、まだそこまで減っていない煙草の先端を、灰皿の中に押し付ける。

「盆踊りが始まった後、溝口はお前を連れ去って、何処か遠くでひっそりと暮らしたかったらしい。……二人きりで、永遠の『家族』ごっこって奴をよ」
「………ぇ、」
「大方、黒川光で叶わなかった未来を、弟のお前で晴らそうとしたんだろうな」
「……」


──瞬間。
夏祭り本番の夜に、白川が放った言葉の数々が思い出される。


『僕の後を追い掛けるように、駆け足で来た』──『だからね、こう言ってあげたんだよ。「このままだと、悪いことが起こるよ」って』
『だけど……聞こえてなかったみたい』


『だから、僕が身代わりになったんだ』



あれは、麻生さんに対してではなく……


──僕に、だったんだ……



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