蛍火

真田晃

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「黒川真奈──初恋の女に拘っていた溝口が、何故彼女に似た女児ではなく、男児ばかりを狙うようになったのか。
時間を掛けて相手を吟味し、足がつかねぇよう慎重に行動していた小心者の溝口が……何故、この村の男児を狙ったのか」
「……」

確かに、そうだ。
どうして先生は、転校してきたばかりの白川光音を、ターゲットにしたんだろう。

「……んで、色々調べてみたら……面白い事実が解った」

短くなった煙草を咥えて吸い切り、通路側に煙を全て吐き出すと、慣れた手つきでそれを揉み消す。

「まず、ガイシャの白川光音。
彼の父親は、典型的なDV男で。彼が小6の頃に母親が蒸発。その後は……ご想像通りだ。
名前といい。生い立ちや、生活環境といい。黒川光と良く似ているだろう?
彼を気に入っていた溝口は、白川を手篭めにし、お互いのプライベート情報を交換する仲にまで進展した。
……だが、ここで想定外の事が起きた」
「……」
「奴が突然、この村に引っ越してきたんだよ」

「──!」


……それは、つまり……
口封じも兼ねた、殺人──


突然、目の前に黒い砂嵐が現れ、ぐらりと脳内が大きく揺れる。
まるで、金属の棒で脳みそを掻き混ぜられたかのように。僕を襲う、鈍い痛みと吐き気。

「……おっと。驚くのはまだ早いぜ」

そんな僕の様子を、楽しんでいるんだろう。ニヤついた厭らしい顔が、僕の顔を覗き込む。
その鋭く尖った、狐目で。


「狙われていた奴なら、もう一人いる」


──え……

横峰の台詞に、緊張が走る。


「……『もう一人』って……、まさか!」


それまで押し黙っていた小山内先生が、苦々しく漏らす。
不安げに揺れる、大きな瞳。それが、横峰から僕へと移る。

「………ぇ」

緊迫した空気。
戸惑いを隠せず、隣に視線をやれば……ニヤついた顔の横峰が、背もたれから腕を退け、僕との間に距離を置く。

喉が渇いたんだろうか。
近くにあったお冷やのグラスを取ると、一気に半分程飲み干す。
トン、とテーブルに戻されると、落ち着き払った様子で煙草を一本取り出し、口に咥えて火を着ける。


「強姦罪で捕まった黒川光の父親が、5年の刑期を終え、出所した後の話だ──」

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