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しおりを挟むクッ、と持ち上がる口の片端。
その瞬間、小山内の顔が険しいものに変わる。
「──まさかっ、!」
「そのまさか、だよなぁ。丸山透くん」
「……」
言いながら、ニヤついた顔を僕に向ける。この雰囲気を、心から楽しんでいるかのように。
「違うなら、教えてくれや。……見たんだろ? 黒川光を殺した犯人、って奴をよォ」
さぁ答えろと言わんばかりに、横峰が厭らしい眼つきで僕の様子を覗う。
僕の背面にある、ソファの背もたれの上に腕を乗せ、僕の顔を覗き込みながら。
「……」
そうだとも、違うとも言えない。
このまま黙っていたとしても、肯定の意味に捉えられてしまう。
……もうこれ以上、先生にショックを与えたくはないのに。
「……まぁ、いいや」
案外あっさりと、男が引き下がる。
刺青の入った腕をそのままに、灰皿に手を伸ばして煙草の灰を落とすと、再び口に咥えてフーッと煙を細く吐き出す。
「初恋を拗らせてた溝口は、その初恋相手に随分と執着していた。彼女が札付きの悪と交際し、結婚してガキが生まれた後も、ずっとな。
だが、若くして彼女は自殺。……そしたら今度は、残された息子である黒川光に矛先を向けた」
「……」
その言葉尻に合わせ、燻る煙草の先を僕の方へと向ける。
「恐らく、彼女の面影を追い掛けていたんだろう」
違う……
溝口先生は、そのずっと前から黒川くんを想っていた。
「ああ……そこの先生は、当然知ってるよな。
剛志──黒川光の父親の一件で、母方の遠い親戚に引き取られる事になった彼を、溝口はどうしても手放したく無かった。……だから、あの小屋に監禁し、殺害」
「……」
「数年経っても報道されない事に味を占め、失踪しても怪しまれない子供達を掻き集めると、その中からお気に入り……つまり、黒川光の身代わりとなる男児を選定し、同様の犯行を繰り返した」
「……」
あの小屋で見た、何人もの黒い影──
あれは……溝口先生に手を掛けらた、少年達の亡霊だったんだろう。
「……でもなァ。どうも腑に落ちねぇ」
そう呟いた横峰が、長くなってしまった煙草の灰を落とす。
そして背もたれに回した方の腕を、肘を付けたまま折り曲げ、手の甲を僕に向けて横向きのピースサインをして見せた。
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