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しおりを挟むそう言い切った瞬間、先生の片眉がぴくりと動く。
次いで、大きく持ち上がる瞼。
「……、!」
上擦る呼吸。
瞬きを忘れたまま目を伏せ、思い詰めた唇が小さく震え……額から下を隠すように、肉厚で大きな片手が覆われる。
黒川くんを思い、一線を引いてしまったせいで……きっと、彼の本当の気持ちにまで気付けなかったのかもしれない。
「黒川くん、言ってました。
この村を出られてホッとしたけど、小山内先生と永遠の別れになるのは、嫌だって……」
「……、」
「だから……引っ越し先で、解いた荷物の中から先生の手紙を見つけた時、返事を貰えるものだと思って……
それで、勇気を出して来たんです」
「……てが、み……?」
手を退け、伏せていた視線を持ち上げた先生が、怪訝そうな顔を僕に向ける。
無理もない。先生は手紙の事など、知る由もないのだから。
「……はい。
話があるから学校に来て欲しい、と。そう書かれていたそうです」
「……」
「でも……」
ふぅ…、と細い息を吐き、呼吸を整えると、意を決し、先生に残酷な事実を告げる。
「実際にその手紙を書いたのは、黒川くんを殺害した──犯人です」
瞬間──先生の眉間にある皺が、更に深く刻まれる。
「犯人は、黒川くんが幼い頃からずっと恋心を抱いていました。だから。先生との間に只ならぬものを感じて、嫉妬していたんです」
「……」
「その上、黒川くんが先生に遠回しな告白をしたのを、知っていて──」
「………告白、だと……?!」
大きく持ち上がる、両瞼。
目の縁に近い白目が血走り、二つの黒目が僕を凝視する。
「……はい」
驚きを隠せない先生に驚きながら、小さく頭を縦に振ってみせる。
「『僕を、先生の家族にして下さい』──引っ越し前、黒川くんは先生に、そう言ったんですよね」
「………っ、まさか……!」
今やっと、その言葉の真意が解ったんだろう。目の縁が更に赤く染まり、涙で瞳が潤んでいく。
「……」
言葉を失ったまま、その瞳が大きく揺れた後、力無く伏せられる。
弱々しく吐かれる息。項垂れた先生の厳つい肩が、内側に巻かれ……やけに小さく見えた。
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