42 / 71
42.
しおりを挟む「あの日から僕は、光くんだけを見てきた。……真奈ちゃんではなく、君を。
嬉しかったなぁ。僕の姿を見る度に、君は屈託のない笑顔を僕に向けて、希望の光を与えてくれたんだよ」
「……」
「君だけが僕に、無償の愛を──」
鎖骨をなぞる指が止まり、ゆっくりと喉仏の上を通る。
「……でも」
スル……
耳下に四本の指を添え、白川の頬を包み込む。
少しだけ緊張したような、堅い声色。
「去年の秋頃。……真奈ちゃんが、自殺した」
残暑の中、空気がピンと張り詰めたある日の朝。
目覚めた光が、物音ひとつしない居間へ顔を出すと、そこには──ドアノブで首を括った真奈の身体が、既に静物と化していた。
「教室にいる君は、いつもぼんやりとしていて。……虚ろ気な表情で、窓の外を眺めているだけだった。
母親を亡くしたショックが大きかったんだろう。その悲しみと絶望を、今度は僕の愛で埋めてあげたい。……そう、思っていたのに」
「……」
「君はあっさりと僕から離れ、新任の小山内に縋った」
他には誰もいない教室で。余り使われていない渡り廊下で。校舎裏の片隅で。……小山内と光が、少しだけ詰めた距離で会話を交わしている所を、溝口は何度も目撃していた。
小山内の手が伸び、柔らかな光の髪をくしゃくしゃとすれば、少しだけ頬を赤らめた光が肩を竦めて俯いた後、覗き込むようにして小山内を見上げる。
照れ臭そうに、笑みを漏らしながら。
「小山内と親密な関係になっていく君を遠くから眺めている内に、僕の中で燻っていた苦い初恋が蘇った。
あの頃の僕はとても弱くて。誰かを守る所か、自分自身さえ守れない程情けなかったけど。──それでも。教師としての信頼を積み上げ、父兄からは敬われる存在にまで成り上がっていたんだ」
「……」
「だから、ポッと現れたよそ者の小山内に、君を奪い取られたくなかった……」
「……」
苦しそうに震え擦れる声。
先生の手が下へと移動し、白川の首筋にそっと触れる。
「なのに、見てしまった──
廊下ですれ違い様……君のここに、独占欲を示す赤いマークが付いているのを」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
パパはアイドル
RU
BL
人気ロックシンガー ”東雲柊一” の息子である桃太郎こと桃ちゃんは、日々を勝手な親父に振り回されている。
親父の知り合いである中師氏の義息の敬一は、そんな桃太郎の心のオアシスであり、尊敬する兄のような存在だった。
敬一を羨望する桃太郎の、初恋の物語。
◎注意1◎
こちらの作品は'04〜'12まで運営していた、個人サイト「Teddy Boy」にて公開していたものです。
時代背景などが当時の物なので、内容が時代錯誤だったり、常識が昭和だったりします。
◎注意2◎
当方の作品は(登場人物の姓名を考えるのが面倒という雑な理由により)スターシステムを採用しています。
同姓同名の人物が他作品(無印に掲載中の「MAESTRO-K!」など)にも登場しますが、シリーズや特別な説明が無い限り全くの別人として扱っています。
上記、あしからずご了承の上で本文をお楽しみください。
◎備考◎
この物語は、複数のサイトに投稿しています。
小説家になろう
https://mypage.syosetu.com/1512762/
アルファポリス
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/382808740
エブリスタ
https://estar.jp/users/156299793
カクヨム
https://kakuyomu.jp/users/metalhamaguri
ノベルアップ+
https://novelup.plus/user/546228221/profile
NOVEL DAYS
https://novel.daysneo.com/author/RU_metalhamaguri/
Fujossy
https://fujossy.jp/users/b8bd046026b516/mine
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる