41 / 71
41.
しおりを挟む「……ひかる、覚えているかい」
甘えつくような、猫なで声。
月明かりに光る白川の肢体を、先生の指が撫で上げる。
「『僕が、ケイくんの傍にいるよ』──君がそう言ってくれた時から、僕の世界は君で一杯になった」
寝転がったまま肘枕をし、白川の顔を覗き込む。月明かりを遮り、白い肌の上に落ちる漆黒の影。
「小5の頃、とても可愛い女の子が転校してきた。……僕の初恋の人だよ」
「……」
「だけど女というのは、危険な香りのする悪い男を好む。……彼女は、よく僕をパシりにする、ガラの悪い二つ上の先輩と付き合うようになった」
先生の指先が、白川の胸にある小さな突起に到達する。それをピンと弾いた所で、白川に何の反応もない。
「その内二人の間に子供ができ、入籍。
黒川先輩も、その時ばかりは家族の為に真面目に働いてた。
けどね。元々そんなガラじゃなかったんだよ、奴は」
中卒で数年ふらついていた黒川が、土木作業員として真面目に働き、生活が安定してくると、身重の妻──真奈と、手狭なアパートを借り身を寄せ合った。やがて子供が産まれ、家族三人での生活に幸せを噛み締めていた。
しかし──
「仕事を辞め、ギャンブルに明け暮れ、昔の不良仲間の知り合いから暴力団組員を紹介されると……本格的な家庭崩壊が始まった。
上納金と生活費を稼ぐ為に、真奈ちゃんは昼も夜も身を粉にして働いて。事情を知らない周囲からは、育児をまともにしていないと白い目で見られ。
その噂は酷いもので……とうとう職を失ってしまった」
「……」
「そんな真奈ちゃんを更に追い込んだのは、黒川だ。最愛の妻をソープに沈め、金を稼ぐ為だけの……道具にしたんだから」
「……」
少しだけ、憂いを帯びた声。
先生の指が、ゆっくりと鎖骨の窪みをなぞる。
「僕は、そんな真奈ちゃんを救いたいと何度も思ったんだよ。……でも」
──なら、お前が真奈を指名しろ。
俺のオンナを抱く度胸が、テメェにあるならな……!
──ふざけないでっ、
どんなに辛い地獄の中でも……あんたに同情されて裸を晒す程、私は落ちぶれてないわよ……!
「小さい頃からずっと……僕は黒川の奴隷で、下僕だから。出会った当初から、真奈ちゃんにも見下されていたんだ。
事ある毎に呼び出されては、真奈ちゃんの目の前で殴られて。金も、毟り取られて。……幼い君の前でも、いつも情けない姿を晒してきた。
なのに君は……そんな僕を、ぎゅっと抱き締めてくれたんだ」
『大丈夫。……僕が、ケイくんの傍にいるよ』
──畳に伏せ、縮こまって啜り泣く溝口の小さな背中を、両親の目を盗んでギュッと抱き締める光。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
パパはアイドル
RU
BL
人気ロックシンガー ”東雲柊一” の息子である桃太郎こと桃ちゃんは、日々を勝手な親父に振り回されている。
親父の知り合いである中師氏の義息の敬一は、そんな桃太郎の心のオアシスであり、尊敬する兄のような存在だった。
敬一を羨望する桃太郎の、初恋の物語。
◎注意1◎
こちらの作品は'04〜'12まで運営していた、個人サイト「Teddy Boy」にて公開していたものです。
時代背景などが当時の物なので、内容が時代錯誤だったり、常識が昭和だったりします。
◎注意2◎
当方の作品は(登場人物の姓名を考えるのが面倒という雑な理由により)スターシステムを採用しています。
同姓同名の人物が他作品(無印に掲載中の「MAESTRO-K!」など)にも登場しますが、シリーズや特別な説明が無い限り全くの別人として扱っています。
上記、あしからずご了承の上で本文をお楽しみください。
◎備考◎
この物語は、複数のサイトに投稿しています。
小説家になろう
https://mypage.syosetu.com/1512762/
アルファポリス
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/382808740
エブリスタ
https://estar.jp/users/156299793
カクヨム
https://kakuyomu.jp/users/metalhamaguri
ノベルアップ+
https://novelup.plus/user/546228221/profile
NOVEL DAYS
https://novel.daysneo.com/author/RU_metalhamaguri/
Fujossy
https://fujossy.jp/users/b8bd046026b516/mine
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
私の主人はワガママな神様
どろろ
BL
会社員兼お世話係り兼教育係な年上従者×我儘御曹司の高校生
主従関係なふたりの日常と堅い絆の物語
親が借金を残して逃走し、急に人生のドン底に落とされた青年、七海。とあるきっかけで出会った少年——晴太郎は某大企業の御曹司だった。
世話係兼教育係として晴太郎と一緒に過ごすことになり、七海は楽しい毎日を送っていた。しかし晴太郎が思春期を迎えた頃、彼らの気持ちに大きな変化が訪れる。
家族でもない、友達でもない不思議な絆で結ばれた二人。関係性や世間体を気にしながらも、七海がとった決断とは——……
年上従者×年下主人のセレブでポップな日常のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる