蛍火

真田晃

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26.白昼夢

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ミーンミンミン……

普段はガラガラの小さな市営駐車場が、半分以上車で埋まっていた。
それに……廃れた雰囲気のデパートが、何故か輝いて見える。心なしか、人の出入りも多い。

「……」

何だか解らない。
この奇妙な光景に、違和感と不安感が募る。
無意識にベンチから立ち上がれば、ふと、隣に人の気配を感じた。

ミーンミンミンミン……

見れば、そこに居たのは──長めの黒髪を後ろに束ね、ノースリーブにタイトなジーンズ姿の、白川光音。

僕には全く気付かず、戸惑った顔を少しだけ伏せ、日向へと一歩踏み出す。



トンッ


辺りに響く、靴音。
音の波紋が広がると、周りの景色が消し去され、真っ暗な闇へと変わっていく。
ゆっくりと靡く白川の後ろ髪。それが、黒から銀色へと変わり、少しだけ此方に振り返った白川が、誘うような流し目をする。
血濡れた唇の端を、少しだけ持ち上げながら。


……え……


驚いて、瞬きをする。
その瞬間。駅前の景色にパッと戻り、ざわざわと街に喧騒が戻る。
テレビのチャンネルが切り変わったかのような。何ともいえない……不思議な感覚。

だけど……よく解らない。
解らないけど、白川に呼ばれているような気がして。
慌てて、白川の背中を追い掛けた。




ミーンミンミン……

辿り着いたのは……既に廃校となった筈の中学校。ここに一体、何の用があるというんだろうか。
開いた門をくぐり、校舎へ真っ直ぐ向かう。その道中、床を叩くボールの音が体育館の方から聞こえた。
砂埃が付いた、年季の入ったガラス戸。広い玄関に入れば、特有の匂いと空気感が僕を包む。

「……」

来賓用のスリッパに履き替えた白川は、僅かにひんやりする廊下を歩き、職員室へと向かう。

「……こんにちは」

ドアを開け、中を覗き込む。
その姿は学生らしく……少し前の白川からは想像できない程爽やかで、しっかりとしていた。

「……あれ、光くんじゃないか。一体どうしたの?」

光……?

職員室の中にいた若い教師が、ドア前に立つ白川に近付く。
ひょろりとした体格。黒縁眼鏡。そのフレームに掛かる程長い前髪。若干の挙動不審のせいで、頼りなく見えるその人物は……何処か見覚えがあった。

いや……
そんな事より。
どうして廃校になった筈の校内に、教師がいるんだ。

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