21 / 71
21.
しおりを挟むでも……どうして。
千明先輩は、単独行動なんかしたんだろう。
『今は、男でも物騒な時代だぞ』──小山内先生の声と僕の肩を叩いた感触が、否応なく思い出される。
もし、白川を自宅近くまで送り届けたとして……その後、千明先輩は?
暗い夜道をまた戻って、一人で歩いて帰ろうとしたのか?
もしあの通り魔が、女性しか襲わないと睨んでいたなら……男の白川を気に掛ける必要なんて、ない筈──
そんな疑問が、頭の中をぐるぐると回る。
『……って、先輩。白川は男ッスよ!』
窪塚がそう吐き捨てると、プルタブを上げる千明先輩が苦笑いを返す。
『女の子だと、勘違いしたんだ。……暗い上に遠目だったから』
『……』
そっか。
確かに白川は、一見すると女の子みたいだ。
千明先輩が見間違えてもおかしくはない。
『彼と合流して暫く経った後、紗栄ちゃんが後ろから走ってきたんだ。
それで、三人で帰る事になったんだよ』
『……』
三人で……?
でも、それならどうして。麻生さんは、暴漢に……
『途中の分かれ道で、転校生の彼と一度バイバイしたんだけど。紗栄ちゃんが突然、やっぱり彼と一緒に帰ると言い出して、彼の後を追い掛けて行ったんだ』
『……』
『じゃあ、その時まで紗栄子は……無傷だったって事かよ……』
少しだけ責めるように、窪塚が吐き出す。
滲み出る、やりきれない思いと憤り。
『……』
……それは、僕も同じだ。
ミーンミンミン……
暑い筈なのに。
身体中から体温を奪われていく感覚に襲われる。
手足は勿論。額や顎先から滴り落ちようとする汗すら、氷結してしまったよう。
『……ああ』
少し言いにくそうに、千明先輩が答える。
ハッキリと答えてしまったら、疑いが確信に変わってしまう。そう思って懸念したのだろう。
でも、その瞬間──腹の底から怒りが沸々と沸き上がり、自身をも焼き付くす程の勢いで燃え盛る。
「……へぇ」
白川が、ふっ、と笑みを溢す。
「それで、勝手に僕を犯人だと思い込んで、殺そうとしたのか」
「──そうだ!!」
眉間に皺を寄せそう言い切ると、端整な唇の片端がクッと持ち上がる。
下から見上げる好奇な薄灰色の眼は、僕の怒りに充分火を注いだ。
「お前──、」
怒りで震える手を、再び白川の首に掛ける。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
パパはアイドル
RU
BL
人気ロックシンガー ”東雲柊一” の息子である桃太郎こと桃ちゃんは、日々を勝手な親父に振り回されている。
親父の知り合いである中師氏の義息の敬一は、そんな桃太郎の心のオアシスであり、尊敬する兄のような存在だった。
敬一を羨望する桃太郎の、初恋の物語。
◎注意1◎
こちらの作品は'04〜'12まで運営していた、個人サイト「Teddy Boy」にて公開していたものです。
時代背景などが当時の物なので、内容が時代錯誤だったり、常識が昭和だったりします。
◎注意2◎
当方の作品は(登場人物の姓名を考えるのが面倒という雑な理由により)スターシステムを採用しています。
同姓同名の人物が他作品(無印に掲載中の「MAESTRO-K!」など)にも登場しますが、シリーズや特別な説明が無い限り全くの別人として扱っています。
上記、あしからずご了承の上で本文をお楽しみください。
◎備考◎
この物語は、複数のサイトに投稿しています。
小説家になろう
https://mypage.syosetu.com/1512762/
アルファポリス
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/382808740
エブリスタ
https://estar.jp/users/156299793
カクヨム
https://kakuyomu.jp/users/metalhamaguri
ノベルアップ+
https://novelup.plus/user/546228221/profile
NOVEL DAYS
https://novel.daysneo.com/author/RU_metalhamaguri/
Fujossy
https://fujossy.jp/users/b8bd046026b516/mine
イケメン幼馴染に執着されるSub
ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの…
支配されたくない 俺がSubなんかじゃない
逃げたい 愛されたくない
こんなの俺じゃない。
(作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる