蛍火

真田晃

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21.

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でも……どうして。
千明先輩は、単独行動なんかしたんだろう。

『今は、男でも物騒な時代だぞ』──小山内先生の声と僕の肩を叩いた感触が、否応なく思い出される。

もし、白川を自宅近くまで送り届けたとして……その後、千明先輩は?
暗い夜道をまた戻って、一人で歩いて帰ろうとしたのか?
もしあの通り魔が、女性しか襲わないと睨んでいたなら……男の白川を気に掛ける必要なんて、ない筈──

そんな疑問が、頭の中をぐるぐると回る。


『……って、先輩。白川は男ッスよ!』

窪塚がそう吐き捨てると、プルタブを上げる千明先輩が苦笑いを返す。

『女の子だと、勘違いしたんだ。……暗い上に遠目だったから』
『……』

そっか。
確かに白川は、一見すると女の子みたいだ。
千明先輩が見間違えてもおかしくはない。

『彼と合流して暫く経った後、紗栄ちゃんが後ろから走ってきたんだ。
それで、三人で帰る事になったんだよ』
『……』

三人で……?
でも、それならどうして。麻生さんは、暴漢に……

『途中の分かれ道で、転校生の彼と一度バイバイしたんだけど。紗栄ちゃんが突然、やっぱり彼と一緒に帰ると言い出して、彼の後を追い掛けて行ったんだ』
『……』
『じゃあ、その時まで紗栄子は……無傷だったって事かよ……』

少しだけ責めるように、窪塚が吐き出す。
滲み出る、やりきれない思いと憤り。

『……』

……それは、僕も同じだ。


ミーンミンミン……

暑い筈なのに。
身体中から体温を奪われていく感覚に襲われる。
手足は勿論。額や顎先から滴り落ちようとする汗すら、氷結してしまったよう。


『……ああ』


少し言いにくそうに、千明先輩が答える。
ハッキリと答えてしまったら、疑いが確信に変わってしまう。そう思って懸念したのだろう。

でも、その瞬間──腹の底から怒りが沸々と沸き上がり、自身をも焼き付くす程の勢いで燃え盛る。





「……へぇ」

白川が、ふっ、と笑みを溢す。

「それで、勝手に僕を犯人だと思い込んで、殺そうとしたのか」
「──そうだ!!」

眉間に皺を寄せそう言い切ると、端整な唇の片端がクッと持ち上がる。
下から見上げる好奇な薄灰色の眼は、僕の怒りに充分火を注いだ。

「お前──、」

怒りで震える手を、再び白川の首に掛ける。


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