蛍火

真田晃

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ぶちぶちぶち……
毛の抜け切れる感触。それが、掴んだ指から伝わる。

「……」

なのに。白川は、何の抵抗もしない。
僕にされるがまま……顎先を天に突き上げた状態で、じっと横目で僕を見る。
薄気味悪い、灰色の瞳。


「お前が来てから、悪い事ばっかりだ……!
お前がクラスに馴染まないせいで、優等生を貫いてきたこの僕は、今まで積み上げてきた信頼も、居場所も失った。
クラスメイトからは勿論、信頼している先生からも見離されたんだよ!」


溝口先生……
僕が転校してきたばかりの時から、穏やかで優しい声を掛け続けてくれた──僕の唯一の、心の拠り所。
なのに。あの日から……先生の態度が素っ気なく感じ、距離を置かれたような気がした。


「僕が、どんどん薄れていく。役立たずでどうでもいい、価値の無い存在に。
……お前のせいで。
お前のせいで、僕まで浮いた存在に成り下がったんだよ……!!」


抑えきれない、黒い衝動。
今まで、こんな風に、誰かにぶつけた事はあっただろうか。

「……」

月明かりに照らされた、白川の横顔。
憎たらしい程に、無感情な表情。
何もかもを見透かす、薄灰色の瞳──

その態度が、堪らなく憎たらしい。


「──!」


衝動のまま、白川の肩を突き飛ばす。
細い体はいとも簡単に吹っ飛び、蹌踉けて道上に尻餅をつく。
すかさず白川の膝上に跨ぎ、両肩を掴んで乱暴に押し倒す。


はぁ、はぁ、はぁ……
跨いだまま膝立ちをし、白川の胸倉を両手で掴み上げる。


「……ふっ、」


突然、白川が鼻で笑う。
口角を少しだけ持ち上げ、呆れたように。


「理由は、それだけ……?」


初めて見る、白川の感情。
僕に全てを委ねながらも、その意思までは譲らない。
瞳に映る色が、その強い信念を貫いているようで、一瞬怯む。
自分より弱者だとばかり思っていた相手が、そうではないと知った瞬間の、あの焦りと恐怖。
それが、背筋をゾクゾクとさせた。

「……」

掴み上げた両手が、緩む。
それを見届けた白川は、ゆっくりと上体を起こし、地面についた汚れを簡単に払う。
それでも尚。膝上から退かない僕を間近で睨み上げると、額から後頭部に向かって指を絡ませる様に、片手で前髪を掻き上げる。


「……!」


それまで、多くの人の目に触れる事はなかっただろう、強い意思を持つ瞳。それが、何の障害も無く僕の前に晒される。


綺麗なアーモンドアイ。くっきりとした二重。長く存在感のある睫毛。
僅かな光りを取り込んで潤ませる、薄灰色掛かった瞳孔。


──ドクンッ


その美しさに、一瞬で心を奪われる。



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