蛍火

真田晃

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9.

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「……こらー、そこっ! 早く帰りなさい!!」

公園の出入口で騒いでいた所に、お祭り主催者達が駆けつける。

「すみませーん」
「はーい」
「……やっべー、逃げろ!」

キャッキャと騒ぎながら、逃げる様にバラバラと帰路につく。

長田先輩は、千明先輩と。山口さんは、婦人組の三人と。
そして──麻生さんは、窪塚と。

当たり前のように繋いでいた、二人の手。

「……」

その後ろ姿をじっと見つめながら、込み上げてくるやりきれない気持ちを必死で抑える。




じゃり……

背後から襲う、大きな影。
驚いて振り返れば、直ぐそこにいたのは──小山内圭吾けいご

「丸山も、早く帰るんだぞ」

夏祭り主催者の一人である、中学校の体育教師。四十代。筋肉隆々で、ガッチリとした体格。太い腕やランニングシャツの胸元から覗く、濃い体毛。暑苦しい程の濃い顔。

「……すみません。
皆が帰るのを確認していたら、最後になってしまいました」
「そうか。……確か丸山は、二年の学級委員だったな」
「はい……」
「……責任感があるんたなぁ、丸山は……」
「……」

じっとりと、纏わり付くような湿った微風。先生から漂う汗臭さが、鼻につく。
それに気付いたのか。ポケットから手拭いを取り出した先生が、額や首の汗を拭う。

「一人じゃ心細いだろう。家まで送ってやる」
「いえ、大丈夫です。……ここから近いし、僕は……男なので」

視覚からだけでも、暑苦しさを消したくて。少し深めに頭を下げる。

「………今は、男でも物騒な時代だぞ」

じゃり……
半歩、先生の足が近付く。
僕の靴先との距離は、僅かしかない。
顔を上げれば、濃い顔が僕を上から覗き込み、口元を大きく歪ませていた。

「……」

額から流れ落ちる、汗。
微かに吹く風が、ヒヤリと僕の肝を冷やす。


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