蛍火

真田晃

文字の大きさ
上 下
7 / 71

7.

しおりを挟む

それは──
夏休みに入る、10日前。

塾終わりに、一人寂しい夜道を急いで帰宅していた女子中学生が、何者かに襲われた。
草むらに連れ込まれ、貞操を奪われた上に首を絞められて殺害される、という凄惨な事件だ。



「ま。あたしらみたいなブスには、関係ないけどね。あはは~」
「……う、うん、」
「ま、まーね……」

膨よかな蘭がそう言って声高らかに笑うと、婦人組の凛と恋が、困ったように苦笑いをする。


「……お前は、気を付けろよ」

長田が、隣にいる背の低い男──千明守の顔を覗き込む。

短く切り揃えられた、サラサラの黒髪。
強い意志を宿す、大きな黒瞳。
幼さの残るその顔は、一見頼りなさそうだが、風紀委員という事もあり、真面目で正義感の強さを醸し出している。

「千明は男にしとくの、勿体ないくらい可愛いからな」
「………ば、バカ。そういうの止めろっ!」

くしゃくしゃと髪を掻き混ぜられた千明先輩が、顔を真っ赤にしながら本気で長田先輩に突っ掛かる。
そんな二人の様子を、麻生の腕に絡み付く山口がじっと見つめていた。

麻生さんを見れば、未だに腕に絡み付く山口には気にも止めず、婦人組のやり取りを聞きながら笑っている。

「……」

みんな、楽しそう。
直ぐ近くで起きた事件にも関わらず、何処か、他人事のようで。

まさか、自分が……という、何故かわからない妙な自信を、各々が少なからず持ち合わせているんだろう。



「……でもさ。この中で一番危ないのは──紗栄子だよね」 


山口が、真顔でぽつりと呟く。
その言葉に、一瞬で笑い声が消え、その場にいた全員が一斉に麻生へと視線を向ける。

「………え」

しん、と静まる空気。
集中する視線に、戸惑う麻生。
強張った顔、顔、顔──
たじろいだ麻生の顔に、くっきりと映る提灯の赤と、影の黒。
瞼が更に持ち上がれば……白目が、赤く染まる。


トン……

突然、麻生の肩に男の手が掛かる。
びくん、と小さく跳ね上がる肩。

その肩口の向こうにある暗闇から、影を刻んだ顔が、ゆっくりと現れる。
にたりと歪んだ口。それが、麻生の耳元へと近付く。


「……そう、だよ」

「───!!」


掠れた男の声。
ひっ、と悲鳴を上げ、肩を竦めて青ざめた麻生が、勢いよく振り返った。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

一度くらい、君に愛されてみたかった

和泉奏
BL
昔ある出来事があって捨てられた自分を拾ってくれた家族で、ずっと優しくしてくれた男に追いつくために頑張った結果、結局愛を感じられなかった男の話

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

23時のプール 2

貴船きよの
BL
あらすじ 『23時のプール』の続編。 高級マンションの最上階にあるプールでの、恋人同士になった市守和哉と蓮見涼介の甘い時間。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

処理中です...