蛍火

真田晃

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ミーンミンミン……


あと二日で、夏休みがくる。


夏休みになると、毎年恒例の花火大会と夏祭りが、小規模ながら行われる。

豊かな自然に囲まれたこの小さな村では、隣町にある駅前の錆び付いたデパートと、村内にある大きなあけぼの自然公園以外、他に目立った娯楽・遊具施設場は無い。
かつては子供で賑わっていたらしいが、時代と共に少子化が進むと、十年程前、この村では小中一貫校の一校のみとなった。各学年一クラスのみ。一クラス、男女合わせて15~20人程度。

その為か。学校行事の延長上のような感覚で、村内の先生や学生達は、このお祭りに参加していた。



「白川くん」

ざわざわとする教室の中。
学級委員である僕は、ぽつんと自席に座り、外をぼんやりと眺めている転校生に声を掛けた。

「……」

無表情のまま、ゆっくりと白川が僕に顔を向ける。
さらりと溢れる、長い前髪。その隙間から覗く瞳に覇気はなく、虚ろげに揺れ、ぼんやりと僕の頭のずっと後ろの方を眺めているようだった。

「夏休みの予定、ある?」
「……」

気にせず話し掛けるものの、何の手応えもない。会話のキャッチボール所か、話が通じているのかさえ殆く、胸に不安が過る。
転校初日では、『格好いい!』と騒ぎ、白川に近付いていた女子達が、三日後には『気味が悪い』と、遠巻きにしていた光景がふと思い出される。

「来週の土曜から、夏祭りでやる盆踊りの練習があるんだけど。……白川くん、来れるかな?」

それでも。
学級委員という立場上、引き下がる訳にはいかない。口角を持ち上げ、作った笑顔を白川に見せる。


「………ん、」


それまで合わなかった焦点が合い、少しだけ見開かれた大きな瞳が、真っ直ぐ僕に向けられる。少し、灰色掛かった瞳孔。

……まさか、白内障?
でも。それなら、周りがよく見えない筈……

驚きを隠せずにいれば、直ぐにフイッと視線を逸らし、頬杖をついて再び窓の外を眺める。

「……」

今のは、返事だったのだろうか。
白川の声は消え入りそうな程小さく、とても弱々しくて頼りない。
しかし僕は、それを確かめようともせず、肯定の返事だと捉えて強引に話を進めた。

「……それじゃあ、夜の7時。あけぼの自然公園の中央広場で待っているからね」

満面な笑顔を作り、もう此方を見ないだろう白川にそう言い放つと、踵を返し自席に戻る。

「……」

その背中を、白川がジッと横目で見ているとも知らずに。


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