私を抱いて…離さないで

真田晃

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第三章 パパ

93.

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ブブブ……
鞄の中で震える携帯。

「………鳴ってるよ、電話」

コーヒーカップに口を付けた店長が、気遣った様子で私に声を掛ける。

「あ、はい……すみません」

鞄から携帯を取り出し、『安藤先輩』の文字の下に表示された通話ボタンを押す。

『もしもし、果穂』
「……」
『目の前にいる人、誰?』

爽やかで明るいトーン。だけど、その中に焦りのようなものも感じ、何となく責められているような気持ちになる。
別に、やましい事をしている訳じゃない、のに。

『………助けに行こうか?』
「大丈夫、です。……バイト先の店長さんと、仕事の事で……大事な話をしてるだけなので……」
『……』

声が、震える。
変な誤解……された……?
答えながら、チラッと窓の外を見る。

『………そっか。解った』
「……」
『でも、心配だから、終わったら連絡して』
「………はい」

此方に身体を向け、携帯を耳に当てている先輩が、私に向かって再び手を振る。
きっと……悪びれる様子も無く、爽やかな笑顔を浮かべているんだろう。

視線を逸らし、耳から携帯を離す。
画面には、既に『通話終了』の文字。

「……」

……どうして、あんな事言うんだろう……
先輩には、腕を組んで歩くような女性がいるのに。
美人で可愛い取り巻きの女の子達だって、いるのに。

画面をオフにし、携帯を仕舞う。
前を向けば、暇をもてあます店長がコーヒー片手に携帯を見ていた。

「……」

私が誰と何をしていようと……先輩には、関係ない。





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