91 / 101
第三章 パパ
91.
しおりを挟む
テーブルの下で、キュッと手を握る。
「別に、辞めて貰うとか、そういう話じゃあないんだ。いま川口さんに抜けられると、うちとしても困るからね。ただ──」
コト……
テーブルに置かれる、店長の携帯電話。その画面に映し出されていたのは──私の顔写真が載った、出会い系サイト。
「先日、店に来た若い男性が、川口さんを出せと騒いでね。
酷い暴言を吐き散らしながら、この画面を見せてきたんだよ」
「……」
え……
その時の事を想像するだけで、ゾクッと背筋が凍る。
若い男性……身に覚えがない。
マッチング相手は、大概がサラリーマンのおじさんだったし……サイトの自己紹介欄には、プライベート情報は一切書いてない。
「別に、出会いを求めるサイトに登録している事を、咎めるつもりはない。ただ……ちょっと心配になってね」
「……」
「実は、騒動を冷静に収めてくれたのは……三浦くんなんだよ」
「………え」
三浦くんって……よく私と入れ違いにシフトを抜ける、無愛想の……
「僕はその時、バックヤードにいてね。騒ぎに気付いてフロアに行った時には、三浦くんが説得してくれていたんだ。
この辺りは飲み屋もあるし、酔っぱらいが来るのは珍しくないから……またいつもの事だと思っていたんだけどね」
「……」
「その相手からは、一切アルコールの臭いがしなかったんだよ」
「……」
……困らせてる。
私のせいで、また同じ事が起きるかもしれない──誰だか解らない恐怖を感じながらも、店に迷惑を掛けてしまった申し訳無さが私を襲う。
……そういえば。
先生との援助交際が始まってから、出会い系サイトを開いていない。
何度かサイトからの通知はあったけど、全て無視していた。
「……」
まさかとは思うけど。
連絡が取れない苛立ちから……私を捜して……?
「店の事は、気にしなくていい。……ただ、川口さんが心配で。
今までのシフトだと、僕がバックヤードに戻っている間、フロアに一人になってしまう。
……それに、帰りの夜道も危険だ」
それは、確かに。
でも、あの近道の公園を避けて、遠回りでも人の多い大通りから帰れば……
「それで、三浦くんとも相談して、暫くシフトを交換したらどうかという結論に至ったんだが………それで、いいかな?」
「……!」
シフト交換──その結論に、私はショックを隠せなかった。
「別に、辞めて貰うとか、そういう話じゃあないんだ。いま川口さんに抜けられると、うちとしても困るからね。ただ──」
コト……
テーブルに置かれる、店長の携帯電話。その画面に映し出されていたのは──私の顔写真が載った、出会い系サイト。
「先日、店に来た若い男性が、川口さんを出せと騒いでね。
酷い暴言を吐き散らしながら、この画面を見せてきたんだよ」
「……」
え……
その時の事を想像するだけで、ゾクッと背筋が凍る。
若い男性……身に覚えがない。
マッチング相手は、大概がサラリーマンのおじさんだったし……サイトの自己紹介欄には、プライベート情報は一切書いてない。
「別に、出会いを求めるサイトに登録している事を、咎めるつもりはない。ただ……ちょっと心配になってね」
「……」
「実は、騒動を冷静に収めてくれたのは……三浦くんなんだよ」
「………え」
三浦くんって……よく私と入れ違いにシフトを抜ける、無愛想の……
「僕はその時、バックヤードにいてね。騒ぎに気付いてフロアに行った時には、三浦くんが説得してくれていたんだ。
この辺りは飲み屋もあるし、酔っぱらいが来るのは珍しくないから……またいつもの事だと思っていたんだけどね」
「……」
「その相手からは、一切アルコールの臭いがしなかったんだよ」
「……」
……困らせてる。
私のせいで、また同じ事が起きるかもしれない──誰だか解らない恐怖を感じながらも、店に迷惑を掛けてしまった申し訳無さが私を襲う。
……そういえば。
先生との援助交際が始まってから、出会い系サイトを開いていない。
何度かサイトからの通知はあったけど、全て無視していた。
「……」
まさかとは思うけど。
連絡が取れない苛立ちから……私を捜して……?
「店の事は、気にしなくていい。……ただ、川口さんが心配で。
今までのシフトだと、僕がバックヤードに戻っている間、フロアに一人になってしまう。
……それに、帰りの夜道も危険だ」
それは、確かに。
でも、あの近道の公園を避けて、遠回りでも人の多い大通りから帰れば……
「それで、三浦くんとも相談して、暫くシフトを交換したらどうかという結論に至ったんだが………それで、いいかな?」
「……!」
シフト交換──その結論に、私はショックを隠せなかった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。



さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる