私を抱いて…離さないで

真田晃

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第三章 パパ

91.

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テーブルの下で、キュッと手を握る。

「別に、辞めて貰うとか、そういう話じゃあないんだ。いま川口さんに抜けられると、うちとしても困るからね。ただ──」

コト……
テーブルに置かれる、店長の携帯電話。その画面に映し出されていたのは──私の顔写真が載った、出会い系サイト。

「先日、店に来た若い男性が、川口さんを出せと騒いでね。
酷い暴言を吐き散らしながら、この画面を見せてきたんだよ」
「……」

え……
その時の事を想像するだけで、ゾクッと背筋が凍る。
若い男性……身に覚えがない。
マッチング相手は、大概がサラリーマンのおじさんだったし……サイトの自己紹介欄には、プライベート情報は一切書いてない。

「別に、出会いを求めるサイトに登録している事を、咎めるつもりはない。ただ……ちょっと心配になってね」
「……」
「実は、騒動を冷静に収めてくれたのは……三浦くんなんだよ」
「………え」

三浦くんって……よく私と入れ違いにシフトを抜ける、無愛想の……

「僕はその時、バックヤードにいてね。騒ぎに気付いてフロアに行った時には、三浦くんが説得してくれていたんだ。
この辺りは飲み屋もあるし、酔っぱらいが来るのは珍しくないから……またいつもの事だと思っていたんだけどね」
「……」
「その相手からは、一切アルコールの臭いがしなかったんだよ」
「……」

……困らせてる。
私のせいで、また同じ事が起きるかもしれない──誰だか解らない恐怖を感じながらも、店に迷惑を掛けてしまった申し訳無さが私を襲う。

……そういえば。
先生との援助交際が始まってから、出会い系サイトを開いていない。
何度かサイトからの通知はあったけど、全て無視していた。

「……」

まさかとは思うけど。
連絡が取れない苛立ちから……私を捜して……?

「店の事は、気にしなくていい。……ただ、川口さんが心配で。
今までのシフトだと、僕がバックヤードに戻っている間、フロアに一人になってしまう。
……それに、帰りの夜道も危険だ」

それは、確かに。
でも、あの近道の公園を避けて、遠回りでも人の多い大通りから帰れば……

「それで、三浦くんとも相談して、暫くシフトを交換したらどうかという結論に至ったんだが………それで、いいかな?」
「……!」

シフト交換──その結論に、私はショックを隠せなかった。



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