私を抱いて…離さないで

真田晃

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第三章 パパ

90.喫茶店にて

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* * *


ずっと、一人で生きていかなければいけないと思ってた。
その為には、我慢も必要だって。
……でも……

「……」

先生を大学構内で見掛ける度、つい目で追ってしまう。
あの日、私の話を受け止めてくれた時から、先生の温もりが忘れられなくて。
次は、いつ会えるんだろう……そんな事ばかり考えてしまっていた。





会いたい。
先生に会いたい。
ぎゅっと抱き締められながら、よしよしされたい。
次、いつ会えるんだろう。先生からの連絡が、待ち遠しい……

「すいませーん! 誰もいないのー?!」

遠くから大声が聞こえ、ハッと我に返る。棚に商品を陳列しながら、頭の中は先生の事でいっぱいで、不覚にもボンヤリしていた。

「……っ、すみません。お待ち下さい」

作業途中で立ち上がり、急いでレジへと向かう。

ピッ、ピッ
バーコードリーダーに品物を近付け、淡々と会計済のカゴに入れる。

「……」
「先程は、お待たせしてすみませんでした。……ありがとうございました」

会計後、深々と頭を下げる。
何を言う訳でもなく、カゴを持った客が無表情のままサッカー台へと捌けていく。

「……」

それを見送った後、小さな溜め息をついた。



「川口さん」

帰り支度をし、バックヤードから出た私に店長が声を掛ける。
見れば何処か落ち着かない様子で、辺りをキョロキョロしていた。

「ちょっと、話があるんだけど。……時間いい?」
「はい」
「じゃあ、その………ここじゃ何だから。外で」
「………はい」

そう返事をしたものの、店長の様子に不安が募る。


店を出て、繁華街へと足を向ける。その道すがら、ぽつんと佇むウッドベースの小さな喫茶店。「ここで、いい?」と、店長が私に確認を取り、店のドアを開ける。
通されたのは、奥の窓際。隣の席が見えない個室のような造りのボックス席に、店長と向かい合って座る。

「………何か、飲む?」

そう言って、メニュー表を渡される。笑顔を浮かべる辺り、気遣ってくれているんだろう。
バイト先から離れたからか。それまでの雇い主と従業員という関係が薄れ、至って普通のおじさんと会っているような感覚に陥る。……まるで、援交相手みたい。

「最近、仕事中でもぼんやりしている事が多いね」
「……」
「川口さんらしくない、初歩的なミスも目立つ」

注文を終えると、本題とばかりに店長が話を切り出す。姿勢を正し、真っ直ぐ私を見ながら。

「……」

只の指摘なら、バックヤードでも出来た筈。それを、改まってこんな場所でするのだから、何か言いにくい事……
例えば、クビとか……

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