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第三章 パパ
80.
しおりを挟むドクン、ドクン……
一瞬で変わる空気。
いつもとは違う雰囲気の祐輔くんが、何処か大人びて見える。
だけどそれは同時に、私の知っている祐輔くんからかけ離れてしまったような寂しさも覚え……
「……」
隣にいる大山が、俯いた私を横目で見る。弾かれたと感じたんだろう。その視線が何処となく痛い。
「じゃあ罰として、琉偉はミネオンリーね」
「──、! あ、ハイ!」
それまでの態度がガラリと変わり、腰を低くする琉偉。
私にオレンジジュースを用意した後、ミネラルウォーターのペットボトルを遠慮がちに拾い、「いっただきま~す!」と言ってゴクゴクと喉を鳴らす。
その頃にはすっかり空気も戻り、美麗のフォローもあって大山と再び話に花を咲かせていた。
「……さっきはホント、ごめんね」
「あ、……ううん」
「……」
「……」
「でも、一言だけいい?」
目を伏せ、申し訳なさそうな表情の琉偉が、スッと私に顔を寄せる。
「果穂ちゃんは、美麗さんのランク知ってる?
──今、№5。アフターの予約も埋まる程、スゲェ人気なんだよ。
なのに……いつも安いセット料金だけっていうのは、美麗さんに失礼だと思わない?」
「──!」
片手をソファに付き、もう片方の手で口元を隠しながら耳先でそう囁く。
ふわりと香る、ローズの華やかな匂い。だけど、その言葉には棘しかなくて。
『いつも』──それは、この店で私は細客として有名だって証。
いたたまれなくなり、肩を丸めて俯く。
「……俺、まだ新人でバカだから言っちゃったけどさ。……これは、果穂ちゃんの為でもあるからね。
だって果穂ちゃんは、美麗さんがテッペンに立った姿、見たいと思うっしょ?」
「……」
それは、確かに。
……確かに思ってる……けど……
膝の上に置いた、バックの持ち手をギュッと握り締める。
「……キャア、嬉しい!」
隣から甲高い声が聞こえ、咄嗟に視線を向ける。と、テーブルにあったお菓子セットのポッキーを摘まんだ美麗が、向かい合った大山にその先を咥えさせ……
「……!」
その肩に片手を置き、少し首を傾げ、そのポッキーの反対側を咥える。
「……」
ズキ……ン……
まるでキスをするような二人の姿に、耐えきれず顔を背ける。
見たくない──でも、私が見なくても、時が止まる訳じゃない。
きっと祐輔くんは、普段からこういう事を、他の人にもしているんだろうな……
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