私を抱いて…離さないで

真田晃

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第三章 パパ

78.相席

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* * *


それから、先生とは何度か関係を持った。
先に大学を出て、利用するホテルの向かいにある喫茶店で待ち合わせる。
一回五万。嫌な事は決してしない。
先生の薬指には、永遠の愛を誓ったシルバーリング。背徳行為の間もずっと外さないのは、これが浮気でも不倫でもないと、先生の中で割り切っているから……?

視界に映る度に、重くのしかかる罪悪感。
私の知らない世界で、先生を信じ、帰りを待ち続けている人の存在がいるのかと思うと、胸の奥が苦しい……





久し振りに足を踏み入れた、夜の繁華街。相変わらず空気は澱み、見上げる夜空に星は見えない。
まるで昼のように明るい街並。煌々と輝く電飾が賑わいを見せ、次第に妖しい活気に溢れる。
こんな場所に、一体何の魅力があるというんだろう。一体何を求めて、人々は集まってくるんだろう。

点滅する信号。スクランブル交差点を、足早に渡る。何の危機感もなく、真っ直ぐ此方に向かって来る人々。その隙間を止まらずに駆け抜ける。以前より、人の間を縫って歩くのが上手くなった気がする。

プップー!
人の多さに気圧され、肩身の狭い車がそれでもクラクションを鳴らし、歩行者に威嚇をする。

「……」

駆ける足が速くなる。足取りも、何だか軽い。
何もかも、上手くいきそうな気がする──向こう岸に辿り着くまでの間、そんな淡い期待を胸に抱く。



何処か浮いたような、地味めの服。ノーブランドのバック。だけど、その中には現金30万円。
見た目は全然。だけど、もう細客じゃない。
このお金を使えば、今日からは……

煌びやかな看板、ホストクラブ名の『雅-Miyabi-』を掲げるビルのエレベーターに飛び乗ると、逸る気持ちを抑え、ドアが開くのを待った。

いつもは躊躇しがちな、重厚感のあるホストクラブのドア。そのノブに手を掛け、開けようとしたその時──

チン
背面にあるエレベーターの音がし、ドアが開く。

カツ、カツ、カツ……
廊下に響く、ヒールの高い音。
『細客』──いつかのキャバ嬢を連想させ、一気に緊張が走る。

「……」

これまでの軽やかな気持ちは萎み、今はもう、自信を失った只の地味子。でも……
バックを持つ手に力を込める。

大丈夫。今日の私は、細客じゃない──


「……あれぇ、川口さん……?」

トンッ、と肩を叩かれ、驚いて振り返る。
と、視界に映ったのは──シックながら華やかさを兼ね揃えた、黒のドレスワンピース。少し濃いめのピンクルージュ。ルーズ感のある、ふわっとアップした髪。

「えぇー、凄い偶然! っていうかぁ、あれから本当に通ってたんだぁ」

鼻に掛かる高い声を上げたのは──同じ大学の、大山美紀子。

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